【短編小説】偽善
サクラチル。
第一志望の医大に落ちた。
第二志望と第三志望の医大にも落ちた。
お母さん、ごめんなさい。
期待に応えられず、ごめんなさい。
お母さんを喜ばす事が出来ず、ごめんなさい。
これ以上、お母さんが悲しむ顔を見たくない。
お母さんが苦しむ姿を見たくない。
お母さんが泣いている姿を見たくない。
僕の成績の事で悩み、お父さんに罵られ。
僕のせいでお母さんが辛そうにしている事に、耐えられなかった。
お母さんの息子という立場から、逃げてしまった弱い僕を許して。
お母さんが笑顔だと、嬉しかった。
お母さんが楽しそうだと、安心した。
産まれた時、いや、この世に命を授かった時から、お母さんの幸せをいつも願っていた。
いつもお母さんが大好きで堪らなかった。
僕のお母さんという立場から解放され、身軽になったこれからは、自由に気楽に生きてね。
なーんて、1mmも思っていねーよ。
それどころか、俺はお前を恨んでいる。
幼い頃から、勉強勉強の毎日。
習い事は勝手に決められた。
野球、水泳、サッカー、バスケ。
俺がやってみたいとお願いした習い事は、全て却下された。
部活はあまり活動が無い文化部を強制され、友人との遊びも制限された。
俺が親父から怒鳴られても、殴られても、お前は見ない振りをしていた。
それどころか、親父の味方をしていた。
親父がいなくなると、取り繕う様に、上辺だけの薄っぺらい慰めの言葉をかけやがった。
激昂する親父を全く止めなかった癖に、白々しい。
偽善っていう奴?
悪者になりたくなかったんだろうな。
親父よりもよっぽどタチが悪い。
子供はな、自分を守ってくれる母親か、自分を守ってくれない母親かを、よーく見ているんだよ。
言葉じゃなくて、行動を見ているんだよ。
それにさ、俺は頭が良くないお前の息子だぞ?
医大合格なんか、無理に決まってんじゃん。
医者になんか、なれっこねーよ。
命を絶って、清々したよ。
お前の息子じゃなくなって、幸せだよ。
一生十字架を背負って生きろ。
まぁ、誰よりも自分が可愛いお前は、自分を守る能力に長けているし、狡賢くて計算高いから、この先も全く苦労せず、のうのうと生きるんだろうな。
俺の事もさ、加害者の癖に被害者面をして、全てを親父のせいにするんだろうな。
怖い女。
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