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傷ついても「好き」を選んでいたい―aikoの曲から教わったこと

aikoを聴けば、自分史を辿れる人は多いのではないだろうか。

aikoの歌はいつも私のミュージックプレイヤーの大事なところに存在していた。小学生の頃のMD、中学生の時のWALKMAN、大学生時のiPhone。痛みを知れば知るほど、aikoの曲は、深みを増す。

その美しき脅威を知る機会は20歳を超えた頃に訪れた。小学生の頃からメロディが好きだった『気付かれないように』という曲の真意を知った瞬間。

声を聞いて泣きそうになるけど 
何故だか解らない
もう戻れない悲しみなのか 出遭えた喜びなのか
気付かないように 気付かれないように
(・・・)
勇気を出して笑って問いかけた 
今のこと今の彼女
すごく好きだよと照れて髪を触る 
昔のあなたを見た
気付かないように 気付かれないように

男女の何かしらのワンシーンであることは薄々分かっていたけれど、これは「かつて別れた男性と久しぶりに会った女性の、後悔にも近い複雑な感情」を描いたものだったのだ。たまたま似たような状況を経験した時、私は本心をひた隠しにした。喜びと後悔が隣り合わせにあるのを痛感した時、この曲はかなり響いた。大人になるとは、誰かのために本当の気持ちを抑えることなのだ、と教わった。

「会えたから幸せ」「好きだからOK」—そんな一辺倒の論理は、人生に通じない。「幸せなのに何か不安」「嬉しいのに悲しい」。私たちの日々や感情はいつも喜びと悲しみを同じ手のひらに乗せていて、それらは複雑に絡んでいる。特に恋愛においてはかなりそうだと思う。aikoが歌うその「苦味」は、結構な頻度で人生に訪れる。

私の心の中で色濃くなった曲はもっとたくさんある。

今日もやっぱ連絡はない 
きっと忙しんだと思ってみたり
とうていクリアできないゲームを 
願掛けするつもりでチャレンジしたり
「彼の落書き」
声が震える 少しとまどうの気持ち
愛しく思われたいがための私のただの気持ち
だけどあなたの気持ち どうも私に負けてるわ
「桃色」
あなたにはあたししかいないなんて 
そんなことは到底言えないけれど
今のあたしにはあなたしかいらない
見えない気持ちを信じて言える
あったかい夏の始まりそうなこの木の下結ぼう
「二人の形」

主体的に誰かを愛するのはとても難しい。報いの保証はなく、地に着かないシーソーのような危なっかしさがある。ちょっと道から逸れたなら「エゴイズム」などと言われる。どうせなら愛される側でいたいけれど、自分の意思でそれは叶わない。その難しさを知れば知るほど、aikoの曲は温度が高まって、体中に迫ってくる。痛いほどに。


「それでも、」と私は思う。”愛されること”だけが幸せなのだろうか。

昔、私のいろいろをずっと見守ってくれている友人に『向かい合わせ』を教えたところ「この曲の2番がいい」と返事をくれた。

灼けた指輪の跡が印す 想い出の色に
あなたを想うだけの強さを 私は貰った
あぁ やだ 涙が出る

愛することに悩んでいた私や彼女にとって、この言葉は金言になった。この強さをもらった友人は、その時の愛を実らせて、今幸せそうだ。愛は強い。

他にも『初恋』を聴けばドキドキの喜びを感じるし、『Power of Love』を聴けば怖いものがなくなる。『ボーイフレンド』なんか不幸が入る余地が全くない。

『三国駅』『ふれていたい』『キラキラ』『kissHug』『カブトムシ』。これらも、「好き」に伴う痛みがとてつもなく大事なことであるのが分かる。どの感情もその時はどうしようもなく辛くても、後になれば必ず大事な欠片になっていく。「懐かしさ」に変わる。そんなことを証しているように思えてならない。

aikoの曲を聴いて知ることは、生きることや愛することには大きな痛みが伴うということだ。でも、それを凌ぐことがある。傷つくことを恐れて何もしないよりも、傷ついてでも誰かを好きになることを選びたいということだ。誰かを愛することは素晴らしいし、好きになる気持ちはとても尊い。

そんなことをaikoは教えてくれた。


aikoの曲がずっと愛されている理由は、胸が裂かれるような悲しみや苦みに寄り添ってくれることだと思う。しかし、それよりさらに上に登ったところに最大の理由がある。「それでもなお愛することをやめられない、やめたくない者を賛歌している」ことではないだろうか。

何十とあるaikoの曲の中に必ず、自分がいる。「自分の曲」だと思った瞬間に、一歩ずつ大人になっているし、自分の歴史を刻んでいる。それはきっといろんな人が経験していることだと思う。

一人ではない。安心して傷つこう。aikoがもたらしてくれる安心は世界一。



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