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住の充実が心も充実させるとは限らない
実技の時間。ベリアルは鍛錬場のあちこちで行われている立ち合いの様子を熱心に見ている。いつもであればアイアスが放っておいてくれないのだが、今、彼はいない。それはそうだ。ベリアルが見ているのは自分のクラスの授業ではない。彼は授業をサボって、三学年の授業を見学しているのだ。
(……思っていたよりも強いな)
一学年違うだけで生徒の実力にはかなり差がある。まだ一度も実戦を経験したことがない二学年の生
作られた勇者、生み出された悪魔 第5話 おやつは幾らまでですか?
勇者養成学校における生徒の評価は定期試験が全てではない。様々な機会が用意されており、その時の活躍も最終評価に影響を与える。実際は定期試験よりも重要視されており、何度かそういった機会を重ねていく中で脱落していく生徒が増え、自然と学年の首席は決まっていくものなのだ。
そうであることは生徒たちも分かっている。だからその機会、学校行事とされているその機会を万全の状態で迎えようと、それぞれが様々な努力を
作られた勇者、生み出された悪魔 第4話:運命はきっかけに過ぎない
クレタ王女の説得、というより強制、によりアイアスと行動を共にすることになったベリアル。実際のところ、それ自体は悪いことではない。ベリアルが見た限り、学年どころか全校の中でもアイアスは一番の実力者。その能力だけで考えれば、この年代における勇者の最有力候補だ。勇者の補佐役を希望しているベリアルにとっては望むところのはずだ。
だがベリアルはそれをまったく喜んでいない。もともと学校に入学すること自体、
作られた勇者、生み出された悪魔 第3話:暁の騎士団=ナイツ・オブ・ドーンって……
ベリアルの席の周りに人が集まるようになっている。ベリアルが望んでのことではない。彼は自分の席に座っているだけなのに、寄ってくる生徒がいるのだ。アイアスとコリンの二人だ。ベリアルが無視を決め込んでいても二人には関係ない。勝手に二人で話をしていると思えば、いきなりベリアルに話を振ってくる。無視していても何度も何度も。結果、二人のしつこさに負けて、ベリアルも嫌々ながら会話に加わることになる。
その二
聖痕の守護者 第15話 届きそうで届かない距離
鬱蒼と木が生い茂る森の中をカロンたちは走っている。先頭を駆けているのはアレク、ではなくテルース。すでにカロンとテルースにも追手の気配は感じられるようになっている。気配を探りながら逃げる状況ではない。とにかく追いつかれないように全力で駆け続けるしかない 状況だ。
だがそれにも限界が来る。単純に走力を比較すれば、追手の亜人たちのほうが上なのだ。
「テルース。左だ。川に出よう」
前を走るテルー
聖痕の守護者 第14話 飼いネズミ?
ジャスティスとその従属部隊が襲撃された地点から、川の上流に向かって十キロメートルほど進んだ場所。そこが元々、ジャスティスが目指していた場所だ。沢山の木々が生い茂る山の中に忽然と現れる建造物。かなり古びた外観の建物がいくつも並んでいるその場所は、かつてこの一帯を支配地としていた山岳民族、ロマヌス人に蛮族と呼ばれている先住民が暮らしていた場所だ。
ロマヌス人が大陸南部から中央に進出してきた頃に放棄
聖痕の守護者 第13話 余計なお世話
ジャスティスの新しい任務地はロムルス王国とアイネス王国の国境にある山岳地帯。大陸北部アネクメネの山岳地帯と比べてしまうと遙かにスケールは小さいが、それでもいくつもの山々が連なるその地は広大といえる場所だ。
その深い山の中をジャスティスと従属部隊は進んでいるが、その行程は決して順調とは言えない。ロムルス王国とアイネス王国を隔てるその場所で、きちんと整備されている街道は一カ所のみ。当然、魔人が拠点
聖痕の守護者 第12話 マルキアス王子の野心
聖剣士ディオスの屋敷は聖光兵団の頂点に立つ守護戦士のそれに相応しい立派なものだ。三階建ての母屋は家族五人で暮らすにも十分過ぎるほどの大きさ。さらに仕える使用人たちの為の屋敷も母屋とは別に建てられている。
それでも尚、余裕のある敷地。綺麗に整備された中庭には、四季それぞれに彩りを楽しめる植物が植えられており、その広大さは百人規模のパーティーを開くことも出来るほど。子供三人が鍛錬する場所としては広
聖痕の守護者 第11話 歪んだ心
カロンが所属するジャスティス従属部隊の訓練場はロムルス王国の施設。二百名が定員の従属部隊だが、それは戦場に出る場合の人数。死傷者が出た場合などに備えて予備兵として、さらに二百名がいて、一緒に訓練を行っている。同数の二百名は死傷者に備えてだけであれば、やや多い人数ではあるが、全体訓練を行うには対戦相手が必要となるので倍の人数を揃えているのだ。これはロムルス王国だけではない。他国も同じだ。
それだ
聖痕の守護者 第10話 心の内
離れの寝室のベッドでカロンは横になっている。怪我が完治するまでは安静にしている、のではない。ほぼ完治しているのはもう分かった。義理の父であるローグのおかげで。
ローグは、任務で大怪我を負ったカロンを労るどころか、その未熟さを責めてきた。亜人ごときに不覚を取るとは何事か、というところだ。実際は逃がしたことを疑われないようにわざと攻撃を受けたのだが、そんなことをローグに話せるはずがない。話せばもっ
聖痕の守護者 第9話 それぞれの思惑
視察を終えて教会に戻ったマイア。早速の結果を報告する為の会議が開かれた。各国の駐在武官を参加させない教会内部だけでの会議だ。いずれの駐在武官たちも視察結果を聞きたがっているが、それは知らせるべきではないと教会は判断した。視察はあくまでもマイアの聖女としての立場で行われたもの。守護戦士の選定に影響は与えない、という口実を作って。
「結論から申し上げますと、ジャスティスのこれまでの戦果はそのまま評
聖痕の守護者 第8話 心に触れた日
目的地に到着したジャスティスとその従属部隊。出迎えはすぐにやってきた。五百体ほどの魔獣の群れだ。陣地を構築する前に戦闘が始まったしまったことは従属部隊にとっては不利であったが、そんなことはこれまでも何度か経験している。素早く陣形を整えて迎撃体勢を整えると同時に、その後方で杭を立てるだけの簡易陣地の構築を始めた。幸いであったのは魔獣の数。五百体は狼狽するような数ではない。気持ち的には余裕を持って、
もっとみる聖痕の守護者 第7話 三者面談……?
魔人討伐任務に向かっている聖光兵団ジャスティス従属部隊。先行する従属部隊にやや遅れる形で守護戦士候補たちと騎士たちが続いている。遅れているといっても今はその差はあまりない。移動途中にある街の有力者との面会など、討伐任務に向かう途中であっても色々と予定があった守護戦士候補たちだが、目的地に近づいたことでそういった雑務はなくなっている。目的地は魔人が拠点を構えている森林地帯。雑務が発生するような街な
もっとみる聖痕の守護者 第6話 家庭の事情って何?
ジャスティスの新たな任務の場所はロムルス王国の南部にある森林地帯。その森林地帯内に拠点を構えている魔人を討つというものだ。特別なものではない。守護戦士候補チームの任務は全て魔人討伐。赴く先が違うだけだ。
ただ今回の任務に限っては少し条件が異なる。現守護戦士の二人、聖剣士ディオスと聖女マイアが視察という名目で同行していた。二人は他のチームの視察にも回っていて、いよいよジャスティスの番となったのだ