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【日本全国写真紀行】36 秋田県男鹿市加茂青砂

取材で訪れた、日本全国津々浦々の心にしみる風景を紹介します。ページの都合上、書籍では使用できなかった写真も掲載。日本の原風景に出会う旅をお楽しみいただけます。


秋田県男鹿市加茂青砂

やさしい浜風が吹き抜ける町

 秋田の男鹿おが半島といえば、ナマハゲを連想する方が多いかもしれない。重要無形民俗文化財としていまや秋田の象徴的な存在になっている。だが、男鹿半島の魅力はそれだけではない。荒波立つ日本海を背景に、目の前に広がる美しく雄大な自然が訪れる人の心を捉えて離さない。なかでも、半島の西海岸部には、日本海沿岸で屈指の美しさを誇るといわれる海岸線が旅人を迎えてくれる。その西海岸の中心にあるのが加茂青砂かもあおさだ。
 おが潮風街道を入道崎方面へ車を走らせていくと、小さな加茂漁港が現れる。ここが加茂青砂の中心部であり、この漁港の北が加茂地区、南が青砂地区に分かれている。大きく入り込んだ湾は、古くは風待ちの港として利用され、北前船も行き交っていたという。今は漁船の数は少なく、釣り場としての人気の高さを表すかのように、釣り船が数多く港に浮かんでいる。

 集落は、この港に沿うように南北に伸びている。かつては北と南に険しい岩場があったためになかなか人が行き来できず、陸の孤島とも呼ばれていたらしい。昭和40年代に県道が開通するまでは、移動手段は船が主体だった。集落の中を歩いてみる。山の方へ少し歩いていくと、古い小学校があった。旧加茂青砂小学校だ。昭和初期には百人以上の児童が通っていたが、町の過疎化とともに児童数も激減し、平成13年に閉校した際には、児童は6人だった。現在は、ふるさと学習施設として使われており、その味わいのある校舎がこの町の歴史を物語っている。
 江戸時代後期、秋田を旅した紀行家・菅江真澄すがえますみは加茂青砂にも立ち寄っている。
「夕ぐれて、加茂と青砂の女、男が入り混じって地蔵堂の前に群れ集まって踊る。笛、鼓のはやし声は、波の音に乱れあって、浜風も吹いている。」(『男鹿の嶋風』)
 たまたま盆踊りに遭遇したらしい。加茂青砂の盆踊りは「だだだこ」と呼ばれ、集落のお盆の恒例行事だった。若手が少なくなったことなどから平成10年頃には行われなくなった。だが、平成22年、秋田県内の学生の手によってこの盆踊りが復活。消えかかっていた加茂青砂の伝統行事は蘇った。
 人口約100人余。集落は過疎化がすすみ、かつてほどのにぎわいはないが、加茂漁港から見る日本海。コバルトブルーの海が美しくそこにある限り、加茂青砂はいつの時代でも多くの人を惹きつけてやまないだろう。

ふるさと再発見の旅 東北』産業編集センター/編より抜粋


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