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【新刊試し読み】 『新・佐賀漫遊記』|久住昌之

 漫画家、文筆家、また音楽家としても活躍している久住昌之さんの著書『新・佐賀漫遊記』が2024年6月13日(木)に発売されたことを記念して、まえがきを公開します。


本書について

 漫画家、文筆家、音楽家として活躍し、人気テレビ番組『孤独のグルメ』の原作者として日本中を飛び回る著者。そんな旅慣れた著者がどっぷりハマったのが佐賀県である。気がつけば足掛け6年以上、佐賀に通い、食、温泉、やきものなど、心の赴くままに県内を漫遊してきた。
 本書は、著者ならではのユニークな視点が光る漫遊記であり、同時に、佐賀礼賛の一冊である。読めば無性に佐賀に行ってみたくなること間違いなし。さあ、佐賀漫遊の旅に出よう!


試し読み

 まえがき——マグカップから始まった

 そもそも佐賀に通うきっかけは、一個のマグカップだ。
 二〇一七年、知り合いのミュージシャン青柳誠さんに頼まれ、彼の似顔切り絵を切った。オリジナルマグカップにプリントするためだ。そのカップが佐賀の有田焼の陶器だった。
 しばらくして、完成したマグカップを手渡された。
 美しい白磁に、ボクの切り絵が明るい藍色で焼き付けられていた。
 へぇ、きれいだな、切り絵が陶器になるとこうなるのか、と嬉しくなった。
 すると、その場にいた青柳さんのミュージシャン仲間YさんとUさんが、
「興味があったら、窯元見学がてら、嬉うれし の野に遊びに行きませんか」と言った。彼らは有田に近い嬉野で音楽とは別の仕事をしていて、しばしば佐賀と行き来していたのだ。嬉野も陶器の里で、有名温泉地でもあるという。
 しかも、成田からならなんと一万円以下で、佐賀までダイレクトに行ける航空チケットがあるんだそう。そんなに安くいけるの? あまりにも意外。
 佐賀県には数年前に一度行ったことがある。でも取材で有田を半日ほど歩いただけだ。観光はほとんどしていない。その時は飛行機で博多に行き、そこから列車で行った。
 安く直行できて、温泉と焼き物、という誘いにグッときた。できたら現地で陶器の絵付けもしてみたい。
「行きます行きます」
 と即答した。
 そして、翌月にはもう嬉野に行った。
 嬉野で訪ねた窯元は、肥前吉田焼だった。初めて聞いたが、有田焼と同じ四百年の歴史があるという。同じ白い磁器で、ボクには有田焼と見分けがつかなかった。
 窯元の主人は、辻論さんという当時四十歳のやさしい目をした大柄な人だった。辻さんは初心者のボクに、いきなり陶器の絵付けをさせてくれた。
 これはもう、ただ楽しい。絵描きというのは、新しい画材を試すのが大好きだ。すぐに時を忘れて夢中になった。
 終わってからの嬉野温泉も、お湯がすごくよかった。
 湯上がりのビールと、佐賀の地酒も旨かった。
 翌朝の温泉湯豆腐も、まったく知らなかった味でおいしかった。
 初体験連続の旅をして東京に戻り、忘れた頃に焼き上がった器が届いた。
 初絵付けの器には、思いがけずいいのもあり、ガッカリなのもあった。嬉しさと悔しさで、すぐにでも佐賀に飛んでいきたくなった。もっともっと絵付けしたい。
 こうして、ボクの佐賀通いが始まった。
 絵付けのついでに、いろんな場所に行った。そして毎回、知らない佐賀に驚き、それを楽しんだ。それが次の佐賀旅に繋がっていった。そのうち絵付けをしない旅も増えた。
 九州に仕事があれば、これ幸いと佐賀まで足を伸ばした。
 そんな佐賀通いが気がつけば、コロナ禍を挟んで足掛け六年になっていた。小学校なら卒業だ。
 この本はボクの、〝佐賀小〟の卒業文集のようなものだ。佐賀の観光ガイドにしたくないので、時系列でなく思い出したことから、お話しするように書いていきたいと思います。
 ボクの旅に同行してるように楽しんでいただけたら、ウレシ野温泉。

佐賀通いのきっかけになった切り絵マグカップ


目次

まえがき──マグカップから始まった

第一章 よらん海にて

第二章 肥前吉田焼の絵付け
〔その一〕絵付けを始める
〔その二〕絵付けを始めて、変わったこと
〔その三〕オリジナル箸置きを作った
〔その四〕コロナの時代、箸置きを作りまくる

第三章 佐賀ラーメン紀行
「もとむら」と「いちげん。」/「大臣閣」佐賀市諸富町/「来来軒」神埼市神埼町/
「来久軒」武雄市武雄町/「三九ラーメン」鳥栖市京町/「まるぞの」鳥栖市本町/
「駅前ラーメン ビッグワン」佐賀市駅前中央/「井手ちゃんぽん 本店」武雄市北方町/
「山城屋食堂」唐津市紺屋町
【番外 インスタントラーメン編】
むつごろうラーメン/エイリアンラーメン/鹿島ヌードル

第四章 佐賀の温泉巡り
〔その一〕武雄温泉
〔その二〕嬉野温泉
〔その三〕古湯温泉
〔その四〕野田温泉
〔その五〕いろは島温泉
〔その六〕祐徳温泉
〔その七〕平谷温泉

第五章 佐賀の名産を食べる、知る
〔その一〕有明海苔と海苔漁
〔その二〕佐賀の農家を訪ねた
〔その三〕白石で野菜寿司を食べた
〔その四〕とうとう佐賀牛を食べた
〔その五〕牡蠣も焼いた、呼子のイカも焼いた

第六章 ついにバルーンフェスタを見た!
〔その一〕ボクにとっての前夜祭、夜間係留イベント
〔その二〕感動の一斉離陸

第七章 佐賀の食べもの屋編
〔その一〕唐津の高架下「つや」
〔その二〕唐津線無人駅の「山口お好み屋」
〔その三〕自転車で神埼そうめんを食べに
〔その四〕九時十三分に開くうどん屋
〔その五〕鳥栖駅ホームの立ち食いうどん
〔その六〕名護屋城からの「サザエのつぼ焼き売店」
〔その七〕佐賀市内の餃子店「南吉」
〔その八〕太良の「次郎長」

第八章 佐賀のお友だち
第九章 佐賀忍者村、夢街道
第十章 進水式を見て、宴会で演奏

第十一章 コロナ禍の佐賀旅日記
〔六月十六日〕
博多から電車で唐津へ/オムライスを食べて「いろは島温泉」へ/
肥後線で伊万里に向かう
〔六月十七日〕
大川内山を歩き、聞き、想い、絵付け/伊万里駅の餃子と焼きそば/
七年ぶり、有田思い出の食堂を訪ね、武雄へ
〔六月十八日〕
大楠を見に行く

最終章 コロナと絵付け

あとがきあるいは謝意


著者紹介

久住 昌之(Masayuki Qusumi)
1958(昭和33)年、東京三鷹市生まれ。1981年、泉晴紀とのコンビ「泉昌之」としてマンガ誌『ガロ』でデビュー。以後、マンガ執筆・原作のほか、エッセイ、デザイン、音楽など多方面で旺盛な創作活動を続けている。谷口ジローとの共著『孤独のグルメ』は映像化され、現在までテレビシリーズとして絶大な人気を博している。著書は『久住昌之の終着駅から旅さんぽ』(天夢人)『勝負の店』(光文社)『麦ソーダの東京絵日記』(扶桑社)など多数。また、実弟・久住卓也とのユニットQ.B.B名義で「古本屋台2」(本の雑誌社)などがある。
関連サイト https://sionss.co.jp/qusumi/


新・佐賀漫遊記
【判型】B6変型判
【定価】本体1,400円+税
【ISBN】978-4-86311-406-7


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