製造業でDX!女性が6割の働きやすい鉄工所の挑戦と目指す未来ー株式会社テルミック 田中秀範さん
こんにちは。ものづくり新聞です。当サイトは製造業の方々向けにインタビュー記事を掲載しているWebメディアです。ものづくり企業に勤める皆さんにとって本当の意味で役に立つ情報を提供したいという思いで、ただ情報を羅列するのではなくより具体的なイメージができる情報発信を目指しています。詳しくはこちらの自己紹介記事をご覧ください。
さて、ものづくり新聞第9回目のインタビューは、株式会社テルミックの田中秀範さんです。株式会社テルミックさんは、金属加工全般を請け負う鉄工所でありながら、”ものづくりのエンターテイナー”を理念に掲げ、IoTやDXに積極的に取り組まれている企業です。
エミダスを覗いていた時のこと。”360°VR工場見学”というキーワードに惹かれ公式HPへ訪れてみると、テルミックりんくう常滑工場を隅々まで見学することのできるVR映像がありました。そのダイナミックな映像ももちろんですが、テルミックさんを知るほどに、DXやIoTに積極的に取り組まれていることに驚きました。
製造業でDXというのは、まさにものづくり新聞としても支援したいと思っていることです。多くの製造業の方々に参考にしていただきたいという思いで、今回取材を依頼し、快く引き受けてくださいました。
メインのお話は田中社長に伺いつつ、同席していただいた広報担当社員さんにも社員目線のお話を伺いました。
株式会社テルミック 田中秀範さん
🗞本日はよろしくお願いします。自己紹介をお願いします。
「株式会社テルミックの田中秀範です。出身は愛知県で、愛知県三河地方の工業高校を卒業後、日鉄日新製銅株式会社に入社しました。3年ほど勤めた後、23歳の時に金属加工業を起業しました。その後、法人化し現在のテルミックがあります。創立してから30年目になりますね。」
🗞取引先は愛知県内の製造業が多いですか?
「はい。半数以上が本社のある愛知県内のお客様ですが、最近は全国のお客様との取引が増えてきました。中小企業が多いですね。」
🗞テルミックさんは女性従業員の比率がかなり高いですが、女性が集まる鉄工所というのは珍しいと思います。何か工夫されたのでしょうか?
「現在、弊社は従業員のうち6割が女性です。でも昔からこんなに女性の多い職場ではありませんでした。鉄工所は3K(きつい・汚い・危険)のイメージが強くあり、女性が働く職場としてはあまり好まれる職場ではなかったんですね。しかし、私は製造業こそ女性が活躍できる場所だと思っているんです。そこで女性が安心して働ける環境づくりに取り組みました。デスクを大きくし、音楽を流して、席間隔も広く持ち開放的でおしゃれな空間を作ったり、営業の仕事を外勤から内勤に変更したことで生産性向上とともに、女性が集まるようになりました。」
*開放的なカフェスペース:お客様との打ち合わせの際にも利用されている
🗞製造業こそ女性が活躍できると考えるようになったきっかけはありますか?
「一概に性別で区別はできませんが、女性はマニュアル通りコツコツ取り組むことに向いていると思います。あと、細かいところにも気が付いて対応できる方も多いですよね。弊社の女性社員を見ていて、女性ならではの視点と作業の丁寧さが素晴らしいと感じることが多いです。結果として"あいち女性輝きカンパニー"や"地域未来牽引企業"に認定していただきました。」
🗞VR工場見学でも拝見しましたが、女性だけでなく働く人にとって気持ちの良い環境ですよね。
「実際に工場見学を希望される企業様も多くいます。数にして1日4~5社、年間では960社にもなりますね。さらに、見学に来られた方の98%が取引先になっていただいています。製造業の方々がほとんどですが、最近は業種の垣根を超えた中小企業団体や自治体の方々との繋がりも増えていますね。」
*会社見学:田中社長自らが案内されている様子
🗞960社?!自治体としても女性が活躍できる社会実現のため、テルミックさんの取り組みはとても貴重な事例だと思います。でも、ここまで女性社員の採用に長年取り組み続けられる理由や秘訣は何かあるのでしょうか?
「直接的な理由ではありませんが、元々家系に女性が多くて男だけで何かするのが当たり前というような環境ではなかったのもあると思います。あと、実は若い頃メイクに関する仕事がやりたかったんです。(当時一世を風靡したメイクアップアーティスト トニータナカ に影響をうけられたとか)名古屋のファッション専門学校に進学したいとも思っていたんですが、工業高校出身だったので敢えなく断念してしまって。でも、当時から女性を喜ばせたり、女性の気持ちを分かろうとする考えはあったと思います。」
🗞メイクですか!工業系とは正反対の世界ですね。でも、枠に囚われない思いをお持ちの田中さんらしいエピソードだと感じます。
推進者は社長!DXで未来へ
🗞DXに取り組もうと考えたきっかけはありますか?
「現在社員約130名で売上30億ですが、今後更なる成長を達成するためにはやり方を変えなくてはなりません。何を変えるかというと、まず従業員1人ができることを増やしていく必要があります。現場に積極的にDXを導入していくことで、人的工数を削減し、その人に新しいことを覚えてもらう。そうすると、同じ人数でも倍以上の売上が達成できるので、DXに取り組むようになりました。」
🗞テルミックさんで取り組まれているDXについて教えてください。
*テルミックDX化の原点:OCR(光学的文字認識)で帳票を読み取る様子
「まず、現場で使う図面をスキャンする場面のDXです。こちらの動画をご覧いただけるとわかりますが、スキャンすると図面に書かれている注番を自動認識し(OCR)自動でファイル名を付けて保存することができます。CapturePerfectというソフトを使っていて、1台目は2018年1月、2台目は2021年4月に導入しました。スキャン後右クリックで名前を変更する作業にこのソフトを導入することで、1.5人分の人的工数削減を実現しました。まさしくこれがDXの始まりです。」
🗞時間の短縮、手間の削減、両方にとって効率の良い仕組みですね。
*拠点間の見える化を図るため、社内各所に設置されたカメラによる映像
*GPSを付けた社有車のマップ
「これは比較的簡単に導入できるところだと思います。他には、モノとヒトの見える化です。工場やオフィスのあらゆるところにカメラを配置し、モニターにまとめて映し出すことで拠点の見える化を図っています。例えば、他拠点の社員に電話をかける時はそのモニターを見てからかけます。お客様と電話中や不在の場合は電話をかける前にわかりますし、〇〇さんどこ?!と社内を探し回らなくて済みます。社有車にGPSをつけてマップに表示させているのも、リアルタイムで位置を共有することで無駄のない配送ルート構築に役立ちます。お客様からいつ届くかという問い合わせがあったとしても、そのマップで確認すれば大体どのくらいで到着するか把握して伝えることができるので、お客様にも安心していただけます。」
🗞社内全体にくまなく配置されていますね。社員の方々は正直どう思ってらっしゃるのでしょうか・・・?
広報担当者「以前から取り組んでいたため、テルミック社員にとっては当たり前ですね。見られている感覚ではなく、共有しているという雰囲気です。
🗞なるほど。田中さんからみていかがですか?
「オフィスは壁をなくしてオープンにしているんです。全体でひとつの空間を共有しているような雰囲気の中で仕事しているので、受け入れられているのだと思います。でも、そういう雰囲気を生み出すにはまず社長からオープンにしていかなければなりませんね。それは徹底しています。あとは、営業成績をカジノのジャックポット風に映し出しているモニターもあるんです。」
*これが実際のモニター画像。衝撃です!
🗞カジノのジャックポット風?!それは外部から来た方でも見ることができるんですか?
「もちろんです。売上を隠す理由はないので、オフィス入ってすぐのところに大きいモニターを設置して映し出して、大きい受注があるとお札やコインが降ってくる仕掛けがあり、ゲーム感覚でモチベーションを上げる効果もあります。」
広報担当者「こちらは個人の成績が表示されるので、他社の営業の方々はこれを見るとひやひやと緊張するそうです。笑」
🗞そうですよね。笑 ここまで徹底して見える化されていることに驚きです。
「見える化でいうと、生産管理システムを開発、導入し製品情報の見える化を実現しています。標準的なソフトウェアをベースとしながら、300回以上の改良を重ねて、新入社員でも使いやすいシステムにしています。導入当初のシステムとはまるで別物ですが、それだけ現場に使いやすいように進化してきたということです。今後も改良を重ねてより良いシステムにしていきます。」
🗞徹底的に見える化しているのですね。他にもあれば教えてください。
「会議で使用するモニターテーブルがあります。タッチパネルのモニターはSHARPのBIG PADを使っていて、テーブルそのものは自社で作っています。コロナ以前はこのモニターテーブルを囲んで打ち合わせしていました。女性社員が多いのでテーブルの高さも試行錯誤を経て、110cmとこだわっています。これは各拠点に設置しています。」
*こだわりの高さでカスタマイズして製作されたモニターテーブル
🗞モニターテーブルの製作は社長自ら取り組まれたんですか?
「はい。私はDIYが大好きで、自分で作ることも多々あります。壁を取り外してモニターを埋めたこともありました。社員が朝出勤してくるのを壁を剥がしながら出迎えるような。笑 社員はそういう私の姿を見ているので、DXに関しても社長とともに取り組んでいると思ってもらえているのだと思います。」
🗞製造業の中には推進者が見つからず、どうやって進めていったら良いか迷ってしまう企業様もいらっしゃいますが、テルミックさんの場合DX推進者は社長ということで、社員としてはいかがですか?
広報担当者「推進者が会社の代表というのは、物事が一番早く進むと実感しています。DXなど速やかに取り組むべきことに経営方針が立てられているので、どんどん現場も変わっていきます。」
DXの情報収集 直感的な仕組みが必要
🗞女性の積極的な採用や現場のDX化を進めるにあたって、そういった情報はどこから収集しているのでしょうか?
「中国から大きな影響を受けています。中国はDX大国で、たとえばQRコードによる決済はあらゆる店で対応していてごくごく一般的です。電子看板による案内も普及していて、銀行だったら次は○番の方という表示や為替情報なども全部LEDで表示してあったりします。そういった光景を見て、これだなと感じました。」
🗞なるほど。テルミックさんのDX導入の規模感が日本では珍しいと感じていたので、中国からの影響と聞き納得しました。2020年10月に中国の深圳と大連にある物流会社を子会社化していますよね。
「はい。現地の会社ともオンラインで繋がっていてコミュニケーションも取れるようにしています。私自身コロナ前は年に20回ほど中国に行っていました。1年の2/3を中国で過ごすうちに、だんだんと進んだ技術やDXというものを学んで、取り入れるようになりましたね。」
*中国深圳の協力工場で技術・品質を視察する様子
🗞テルミックさんで取り組もうとしている教育支援も、新しいものを学んでいかなければならないと感じたご経験からきているのでしょうか?
「そうですね。私の娘も深圳大学に2年間留学の経験があります。心配もしましたが、3カ月もするとたくましく成長していることに気付きました。その経験もあり、学びたい子が学ぶことのできる手助けをしていくことで、弊社にとっても社会にとっても意味のあることだと考えるようになりました。いずれ、学習支援だけでなく、弊社の中国子会社でアルバイト経験もできるようになればいいなと思っています。」
🗞なるほど。そういったご経験があるのですね。中国以外で参考にしている企業などはありますか?
「ユニクロやGUのレジですね。店舗に買い物に行き商品をカゴに入れて指定の場所におくと、自動で読み取って会計が表示されるシステムがあるじゃないですか。あれを製造業でもやりたいんですよね。説明しなくても直感的に理解して使える仕組みが大事だと思うので、現場にも取り入れていこうと考えています。」
今後のDX改革
🗞DXに関して、今後はどのように展開していくお考えでしょうか?
「これから我々とともに働いてくれる若い世代に合わせた改革も必要だと考えています。例えば、若い世代でパソコンに触れたことがない人はほとんどいませんが、他のパソコンとの接続やネットワークの設定までできる人もあまりいないようです。よって、今後はパソコンの台数を減らし、タブレットで仕事ができるように整備していこうと考えています。もちろん入力はパソコンの方が適していますが、倉庫内の場所を検索する際など、タブレットの方が馴染みの良い場面があるんですよね。タブレットを持って移動もできますし。直感的に使える仕組みを実現するにはタブレット化は欠かせないと思います。」
🗞わかりやすく使いやすい仕組みですね。他にはありますか?
「デジタル化を進めていくにあたって、クラウドサーバーを導入し日本と中国の子会社との情報共有を進めています。日本と中国はIT面で制御がかかるので、システムの統一やサーバー共有がなかなかできません。しかし中国ではWeChat上でデータ共有ができたり、共有のためのアプリなどが登場しています。そういったものを上手く活用し、夜間にクラウド上でデータを共有するなど、垣根のない情報共有を実現したいと思っています。」
🗞全体的にテルミックさんの取り組みを通して情報共有の大切さを感じます。
「例えば貿易面でも情報共有は重要です。現在中部国際空港で弊社は荷物取扱量が多い企業のひとつです。荷物を中国の子会社に集約する事で、他社の価格の1/3程度にコストを抑えることが出来ています。テルミックとして発送すれば早いし安くなるんです。」
🗞それは航空便でしょうか?
「はい。弊社は船便と変わらない送料で航空便を利用しています。早いのも魅力で、20時半に申請すると翌日11時半には名古屋に到着します。長年の積み重ねでそういった仕組みを構築していますので、みなさんにもどんどん乗っかっていただいて、多くの人が安く早く便利に利用できるようになればいいなと思っています。将来的には自社で飛行機買うかもしれないですね。笑」
🗞夢がありますね!機体にはぜひテルミックのキャラクター“てるみちゃん”を入れてください!笑
最後に読者の皆様へメッセージをお願いします。
「DX化は一刻も早く取り組むべきだと思います。機会があれば弊社の工場に足を運んでいただくとその重要性に気付いていただけるはずです。2030年、6Gの時代が到来した時に始めるのでは遅いのです。現在と同様の従業員数で倍以上の売上を達成するには、今からともに取り組んでいきましょう。また、SDGsも同様に取り組むべき課題です。DX化と同時に環境に配慮した取り組みも怠らず推進していくことで、20年後も活躍できる企業になっていけると信じています。」
*ライトアップされたりんくう常滑工場:360°view VR工場見学はこちら!
〜🗞ものづくり新聞編集部より🗞〜
テルミックさんは現場でのDXに限らず様々な場面で社長がリードしています。トップが現場を見つめた上でDXに取り組むことで、単なる業務改革にとどまらず、働きやすさの確保にもつながると感じました。製造業でDXは簡単に達成できる課題ではありませんが、ひとつずつ解決していくことで大きな取り組みへと成長していくということを再認識したインタビューでした。また、女性が多いというテルミック社員の皆さまにお話を伺う企画も予定しております!
テルミックさんの取り組みを詳しく知りたい!参考にしたい!というものづくり企業の皆さまは、コロナ禍が落ち着いたらぜひ工場見学に参加することをおすすめします。編集部も時期を見てお伺いしたいと考えています。まだ直接相談する段階ではないという方もお気軽にご連絡ください。
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