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『自閉スペクトラム症のある青年・成人への精神療法的アプローチ』を読んでみた

こんにちは。
ものくろです。

今回ご紹介する本は、倉光 修(監)『自閉スペクトラム症のある青年・成人への精神療法的アプローチ』、金子書房、2021年。です。

本書を選んだ理由は、自分自身にASDの傾向があると自覚しており、青年・成人のASDへの治療法に興味があるからです。
ASD児の場合、ABA(応用行動分析)やTEEACH(自閉症及び、それに準ずるコミュニケーション課題を抱える子ども向けのケアと教育)などがありますが、成人のASDに対する治療法はあまりパッとしない印象です。強いて言えば、CBT(認知行動療法)がそれにあたりますが、こちらもあまり耳にしたことがありません。
また、ADHDには、治療薬としてコンサータやストラテラ、インチュニブがありますが、ASDへの治療薬は現時点ではありません(ASDの治療薬として、オキシトシンが以前から注目されていますが、最近はオキシトシンへの注目度も下がってきたように感じております)。
もちろん、ADHD/ASDは脳機能障害であり、薬を飲むことで脳の神経回路が定型発達のそれに変わる訳ではなく、あくまでも症状を抑える、足りない部分を補うという意味での治療であり、世間一般的な意味での「治療」ではないことはご注意ください。

このような背景があり、僕にとって成人のASD治療について書かれた本は非常に興味があります。一般的に、ASDには認知療法や精神療法は向いていないと言われており、行動療法やCBTが推奨されているように感じますが、その中であえてASDの精神療法に取り組んだ本書に希望を感じました。

ちなみに、先日『ニューロダイバーシティの教科書』を紹介したばかりなのに、医学モデルとしての精神療法的アプローチを紹介するのは何故なのかと疑問に思われる方もいらっしゃると思います。
それは、ニューロダイバーシティは社会モデルから来ている概念(医学モデルへのアンチテーゼ)ではありますが、治療に対して反対している訳ではないからです。そして(少なくとも僕の場合には)、神経学的多数派の人たちと考え方や価値観が異なることによる孤独感や摩擦、違和感などの精神的ストレスを日々感じており、同じようになれたら良いのになあと感じることがままあるからです。これは吃音についても同じです。吃音プライドや自閉プライドを紹介しているにも関わらず、治せるのなら治したいと考えているのは矛盾しているように見えるかもしれませんが、人間なんてそんなものだと思います。ただ、治したくない(自分らしさが好き。色々あり結果的に諦めている。または、現状の治療法ではコスパの割にあまり効果がないので期待していない。そもそも医療機関のリソースが圧倒的に足りない。ロケーションの問題等)という考え方の人も一定数いらっしゃり、そのときはその人の意思を尊重することが大切だと思います。理想を言えば、治す選択肢と治さない選択肢が自由に選べる環境があれば素晴らしいかもしれないですね。

話が脱線してしまいましたね、すみません。
本書は、2018年に東京大学武田先端知ビルで行われたシンポジウム「自閉スペクトラム症と精神療法的アプローチ」の内容を書籍化したものになります。

本書の内容は、以下の通りです。

第1章 自閉スペクトラム症のある人への精神療法的アプローチの可能性―互いの関係性を基盤にして 倉光 修

第2章 障害学生支援室における自閉スペクトラム症のある大学生への支援―東京大学での取り組み 川瀬英理

第3章 サイコドラマの視点からの自閉スペクトラム症のある人へのアプローチ 横山太範

第4章 森田療法と知的障害のない自閉スペクラム症―相互的コミュニケーションの可能性への模索 小野和哉

第5章 自閉スペクトラム症のある人への精神療法の基本姿勢―事例からの検討 綱島三恵・田中康雄

第6章 受容的交流療法と自閉スペクトラム症―主体性を重視したアプローチ 渡辺慶一郎・岩崎沙耶佳

第7章 描画療法と自閉スペクトラム症―「自分らしく生きる」ためのサポート 木谷秀勝

第8章 新しい取り組みと自閉スペクトラム症
[1] 世田谷区受託事業「みつけばルーム」の取り組み―社会参加のモチベーションを高めるピアサポート 綿貫愛子

[2] 自閉スペクトラム症のある人を対象にした会話形ロールプレイングゲーム(TRPG)を通じた楽しいコミュニケーション 加藤浩平

どの章も非常に興味深く読ませていただきましたが、個人的に気になったのは以下の4つです。

  • 第3章 サイコドラマの視点からの自閉スペクトラム症のある人へのアプローチ 横山太範

  • 第4章 森田療法と知的障害のない自閉スペクラム症―相互的コミュニケーションの可能性への模索 小野和哉

  • 第7章 描画療法と自閉スペクトラム症―「自分らしく生きる」ためのサポート 木谷秀勝

  • 第8章 [2] 自閉スペクトラム症のある人を対象にした会話形ロールプレイングゲーム(TRPG)を通じた楽しいコミュニケーション 加藤浩平

今回挙げされていただいた各章について、後々紹介させていただきたいのですが、今回はここまでとさせていただきます。

ちなみに、第1章で倉光先生が書かれてことがとても印象的だったので、引用させていただきます。

本書のタイトルは,『自閉スペクトラム症のある青年・成人への精神療法的アプローチ』ですが,ここで問われていることは,自閉スペクトラム症( Autism Spectrum Disorder,以下ASD:「自閉スペクトラム障害」とも訳される)の特徴を示す青年や成人に対して,精神療法的(psychotherapeutic:「心理療法的」とも訳される)アプローチがどれほど有益であろうかということではないでしょうか。この疑問に対する個人的見解を冒頭から述べると,私はASD等の診断・分類名を与えられる方々に対して行われる心理療法的アプローチは,少なくとも周囲の人々との間に互いに歓びを与えあえる関係(共存共快関係)を醸成することを一つの目標にするなら,ある程度の有効性・有益性が認められる可能性はかなり高いのではないかと思っています。

自閉スペクトラム症のある青年・成人への精神療法的アプローチ

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