君は何も知らない。
自分だけじゃない、そんなことを容認している関係を続けることに、どれほど意味があるのか。
そんなことを考え悩む時期は遠に過ぎ去った。
私には「忙しい」ただそれだけしか情報を与えてくれないのに、あの子には「・・・けどこの日なら大丈夫」とでも連絡を取っているのだろうか。
私は何か月もまともな連絡が取れず、何か月も会えない。
その間にも、その子とは会ってるんでしょ?
気にしていない余裕があるかのように、聞いてみたことがある。
「会ってないよ」
目を見て平気で嘘をつく。
目が泳いでるとか、そらしただとか、そんなことで真実は図っていない。
その答えが最初から嘘だってわかって、あえて聞いているのだから。
だぶん君は知らないよね。
そして、君が嘘を言おうだとか隠そうだとかそんな気持ちは一つもないことも知っている。
だって、悪いだとか私に対して嘘を言う必要も、真実を言う必要もない、と私を侮っていることを知っているから。
彼の行動パターンなんて、もうとっくに知り尽くしている。
「この日、どうかな?」
予定を聞いた連絡に一切返事をしないで既読スルーする時は、あの子と約束がある日。
私は当日にしか予定は決まらないけど、あの子はちゃんと予定を約束されている。
あの子と会っている日は、私の連絡には長い時間、既読にならない。
でも私と居る時に少し離れた所でスマホを触っている時は、おそらくあの子の連絡に返信している時だ。
だって、どうでもいい連絡は、誰からだとかワザワザ見せてくるから。
察してあえて絶対、近づかない。
知っているのかな、そういうこと。
・・・なんてね。そんなのわかっている、君が私の行動の意味なんて何も知らないことを。
知らないフリしてのぞいてやれとも思うけど、私はそんなことしたくない。
自分をこれ以上、惨めな女に貶めたくないから。
君は知らない。
メンヘラ、と呼ばれる類の女は、実際にない事実も現実に創り出し、被害妄想で相手を攻撃をする、本来ほんの一部のヤバイ人のことだけを指すんだよ。
でも男が言うメンヘラ女というのは、事実確認、検証を行う為にSNSを検索する、探偵女のことを指す。君もきっとそう思っているんだろうけど、
それなら世の女性は、ほぼメンヘラに違いないよ。
女なんて、男の発言や素振り行動で、7,8割わかってしまう生き物で、男の嘘なんて全部バレている。
わかってしまっているのに、わかっていないフリをしているだけ。
女の勘、なんていうのは、「勘」という不確定で主観的なものではなく、客観的に観察、経験や事実結果の根拠に基づいたものなんだよ。
SNSを確認してしまうのは、「もしかしたら違うかもしれない」という微かな期待という、好意、があるからだって、君は一生知ることはないだろうな。
全くありもしない事実を探す為ではなく、たとえ「やっぱり」の結果が9割の確率だとしても、調べてしまうんだよ。
・・・君が好きだから。好きでいたいから。
だから懲りずに今日も、来ない連絡を持つ間に、好きでもないあの子のSNSをのぞく。
今日も予感は的中。
お決まりの「やっぱり・・・」を、息を吐くように口にする。
あの子のSNSは匂わせ投稿で溢れている。
誰かにアテつけているのか、ただマウントとって自慢したいだけなのか、とにかく当人ら以外が見ても全く意味も面白くもないキャプションが並ぶ。
・・・既婚者が相手だってわかってるのかな。
そう、あの子も私も、君を取り合う立場では一切ない。
所詮、どちらも一番ではないし、この先、どうあがいても一番にはなれないどころか、何者にもなれない、何者でもないしょうもない存在なんだよ。
最近見ていたドラマの中で「愛人が前に出ようとするな、愛人は愛人でいろ」というセリフがあった。
愛人であろーがなんだろーがかまわない、その愛人という立場でいるのであれば。つまり一生、陰で隠れ続けろ。日の光は正妻だけのもので、その光の中に出たいなどと思うのは傲りだ、身分をわきまえろ。
・・・ズシっときた。
現に私が簡単に発見して見ているこんなSNSなんて、どこで繋がってバレるかもしれないのに、不倫の証拠を晒していることに呆れるし、自分が表に出たい欲を我慢できずにいるあの子と、何もしないけど関係は切れずにいる私。
自分を棚に上げるつもりはない。
私たちどちらも、やってることはクズだ。
だけど、あの子がフォローしている中に、奥さんのアカウントを見つけた時、ああ、この子は私と違って関係がバレて欲しいんだな、と感じた。
ここまで私はさすがにしない、そんな風に思うことで罪を軽くするように自分を庇う私は、どんなに醜くく見えるだろうか。
君はどこまで知っているんだろうか、そしてどこまで許しているんだう。
大丈夫なのかな、なんて一瞬思ったのは君を心配したんだろうか、あの子の評価を落としたい?それで自分を有利にしたい?それとも、自分との関係までバレてしまうんじゃないかって心配?
・・・くだらない、と我に返りSNSを閉じた。
君より、あの子より、何にも知らない奥さんより、一番、くだらなくて笑える存在は、この中できっと私だ。
愛されているから、全ての事実を隠されて何も知らない、という幸せを与えられている奥さん。
同じ立場の私よりも長い時間、リスクも無視して一緒に過ごせる待遇のあの子。
君にすら大事にされない私。
「あの子のことが嫌い」だと言って君と喧嘩した。
でも本当は「そんな女を大事にする君のことが一番嫌いだ」と言いたかった。
言えなかった。
自分は自分でその理由を知っている。
でも君は知らない。
君は何も知らない。
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