見出し画像

ニューノーマル時代を働くひとのメンタルヘルス〔転換期が来た〕

こんにちは。臨床心理士・公認心理師のつゆきです。

予測できない変化が連続するニューノーマルの時代において、企業・組織における人材育成のあり方は、根本から変わっていく必要がある。

私は産業分野が専門の心理士ではありませんが、企業でも働く心理士として、これからの働くひとのメンタルヘルスについて書こうと思います。結論としては「ニューノーマル時代の企業は、メンタルヘルスに力を入れたほうが、無駄がないし、生産性も高まるし、時代に先行して乗れていてかっこいい!」という内容を書いています。【4279文字】

COVID-19だからメンタルヘルスを取り入れる、ではなく、時代の数歩先を行く企業として

COVID-19によるリモート勤務の影響で、若手や新入社員のメンタルヘルスが危ないという話題もよく聞きますし、企業における「職場」という箱の役割の大きさについても数多く論じられています。

また、”雑談ができない”ことが、それを必要とするタイプの人のメンタルヘルスをこれほどにまで低下させるとは、思っていなかった方も多いのではないでしょうか。

(心理の業界では「雑談の治癒力」の話はよく出る話題です。ですが、雑談は、さあ雑談をしよう!としてしまうと「雑」談でなくなってしまうジレンマがあります。)

そして、EAP会社の心理士(多くは電話相談員)は常時人材募集中で事業も拡大し続けています。そこから考えると、実際に、メンタルヘルスへの援助の需要は高いと推測できます。

しかし、企業が、働くひとのメンタルヘルスに割いているリソースというのは、非常に少ないのではないでしょうか。

元人事の方のお話を聞くと「メンタル不調に陥った社員に人事のリソースを取られてしまうくらいならば解雇してはどうか」という話題もあがると聞いたことがありますし、私自身も、

メンタル不調に陥る「弱い人」と働きたくない
※ちなみに、不調に陥る人は「弱い」わけではありません。
会社で「メンタルケアの仕組みを導入する=メンタル不調者を出すような会社とまわりにアピールすることになる⇒メンタルケアは導入できない」

などと、言われたこともあります。(私は大激怒です)

上記のような、〔考え〕〔メンタルケアは「特別な人のためのもの」という思い込み〕を転換するきっかけ。

それがCOVID-19ではないかと私は考えています。後述していきますが、メンタルヘルスと生産性は深く関連しています。

メンタルヘルスへの取組は当たり前にあっていい。

COVID-19をきっかけに、もう見ないふりはやめませんか?

企業が人材育成に力を入れるのは、会社に利益をもたらしてもらうため。給与分の貢献はしてもらわなければ困るし、育った人材を簡単には手放したくない、というのが基本的な考えではないでしょうか。

一旦、メンタル不調に陥ったからといって、せっかくお金をかけて育てて来た人材を手放すのは、本当はもったいない。

専門職による〔的確なケア〕〔適切なタイミングでの休養⇒リハビリ⇒復帰〕があれば、企業の損失は最低限で済むことも多いはず。

また、専門的な知見に基づいた休養やリハビリにより、新たな目的・しなやかなメンタルを手に入れた社員は、これまでよりも多彩な角度からの利益を会社にもたらすこともできる。

これは夢物語ではなく、専門性の高いリワーク機関を経て復職した社員さんたちの体験談や復職継続率からも読み取れます。

的確なケアがあれば、その社員が企業にもたらせるものは豊かなはずなのに・・・。繰り返しますが、現状とても「もったいない」状態です。

また、メンタルヘルスやセルフケアへの関心が高い土壌さえ作ってしまえば、社員が自分自身で、または仲間たちとピア的に、メンタルヘルスへの予防的なアプローチを業務の中で自然と行っていくこともできるでしょう。

カウンセリングを自ら受けられる人は優秀な人材

また、海外ドラマをよく見る方は、バリバリのビジネスパーソンが「ちょっと、カウンセリングに行ってくる」「私のカウンセラーに会ってくるわ」といってカウンセラーに会うシーンを見たことがあるのではないでしょうか。

国にもよりますが、海外では日本とはまた違ったカウンセリングのイメージがあります。優秀な人材ほど、自身のメンタル面を客観的にモニタリングし、予防といえる段階で自身にケアを施します。

ロジカルに考えてみれば〔風邪気味のときに、その状況に気づき、早寝をする社員〕と〔風邪気味のときに、自身の小さな体調の変化に気づかず、ケアをしない社員〕のどちらが優秀な人材かはわかるでしょう。

メンタル面に関しても、同じことが言えます。

時折、「私にはストレスがない」という人もいます。けれど、そんなことはありません。私は先日「withコロナにおける コーピングレパートリー・バンク #1」というイベントに参加しました。そこで、臨床心理士の伊藤絵美先生は「ストレスがなくなるのは、しぬときだけ」とおっしゃっていました。

人は、常にストレスを受けています。どれだけ「ない」と言っても実際には受けているのです。もちろん量は人によって違いますし、ストレスによるつらさ・反応はそれぞれではあります。

あなたに命があるかぎり、大なり小なりストレスを受けているのは事実。

これからの時代「本当は受けているストレスを、「ない」と言い張るのはダサい」ので見ないふりはやめていこうよ、というのがこの記事の主旨です。

例えば、人は嬉しいことでもストレスを受けます。プロジェクトの成功、昇給、昇進でもストレス自体は受けますし、異動、転勤、メンバーの増減、などでもストレスを受けると言われています。ですから、企業とストレスは切っても切り離せないもののはずなんです。

こちらの、たんたんたんげさんのnoteには「スタバまじかっけえな!」が結論の記事が書かれています。スターバックスは心の健康と生産性の関係を潔く認め、従業員とその家族の心の健康に寄与しているとのこと。

とても面白い記事です。

注:この記事を拝見して。サイコセラピーは”問題を抱え事態が悪化している方々への治療のみ指す”とは限らないんじゃないかなーとは思っています。マネジメントや自己の探求のためにセラピーを受けている人も実際にいますね。コーチングとサイコセラピーの違いが気になる方は、シリーズ『COVID-19〈と〉考える』|ケアが「閉じる」時代の精神医療── 心と身体の「あいだ」を考える  の記事がおすすめ。細かくてごめんなさい。

〔リモート勤務で顕在化〕メンタル不調は誰にでも訪れる・・・

私たち、専門職からすれば、メンタルの不調は「特別な人にだけ訪れる」ものではなく「誰にでも訪れる」可能性があるものです。

先日、リワーク(休職中のかたのリハビリ機関)で働く臨床心理士からこんな話を聞きました。

働くひとのメンタル不調は、

・仕事上のトラブル
・家族のトラブル(ライフサイクルの問題)

が、複合的に生じたときに起こることが多い。

あなたが今、不調を起こさずにいるのは、この二つが偶然重ならなかっただけかもしれません。

そして、それに

「ひとりぼっちだな・・・」という感覚があると、悪い方に転がって行く。

悩みを「この人になら言える」という人がいたり、味方がいると思えていたりすることが、メンタルヘルスの維持に一役買っています。

リモートはどうしても「ひとりぼっち」を感じやすい働き方。仲間の気配も感じられず、気軽な雑談もしにくい。リアルな職場ならば、疲れた顔をしていれば声をかけてくれる人もいるでしょう。ですが、リモートでは、わざわざ用事があって”つながないと”、話すことができません。

いつ、だれが、”アフターコロナの弱者”になるかはわからない

わかりやすく”弱者”と書きますが、誰がどの瞬間に、高ストレス受傷者になかはニューノーマル時代において予測ができません。

noteの記事でも『これまで存在感で勝負していた上司だが、リモート勤務によって、仕事ができないことが露呈した』などの話がよく書かれています。

インターネット環境に接続できるかどうか、リモートに順応できるかどうかでも、生きやすさは二極化。自分のやりたいことがある社員と、協調しながら/指示を受けながら働くのが向いている社員とで、やりがいも二極化。

また、いま、COVID-19対策により、これまでスーパーなどで商品を触りながら買い物をしていた視覚障害のある方たちが、商品を触ることができずに困っているという話も聞くことがあります。

これまで当たり前にできていたことが、自分自身の問題ではなく社会の問題でできない。これはものすごいストレスでしょう(単純に困りもします)。

このように・・・

アフターコロナは、だれが、いつ、「時代に乗れない方」になってしまうかわからない時代なのです。優秀な人であっても、世の中の流れと何かがかみ合わなければ、途端に「乗れない方」になってしまいます。

今は予測できない変化が連続する時代。

それは、

メンタル不調が他人事ではなくなる時代、と言えるのではないでしょうか。


(追伸)COVID-19が起こした”総障害者化”


小児科医で東京大学 先端科学技術研究センター准教授の熊谷晋一郎さんは、このコロナ下に生じた変化を「誰もが不便を感じている”総障害者化”」と表現しています。

体が平均的な人と違うから障害者ではなく、その時々の社会環境に体が合っていない人々のことを障害者と定義します。体が変化しなくても社会が変化すれば、昨日まで障害者でなかった人が、ある日、障害者になることは起きるんですね。そういう考え方のことを“障害の社会モデル”というのですが、これほどまでに急激に社会が変化すると、大なり小なり全員が障害者になったと言えます。(https://www.nhk.or.jp/heart-net/article/364/

社会モデルの観点からすると、私たちはコロナ下において、みんなが障害者でもあります。

これらも変化し続けるニューノーマル時代。大なり小なりある障害が、「昨日までは小だったけど、今日から大」なんてことも起こり得ます。

「正直、手放したくない社員は、優秀で、健康で、明るくて・・・、メンタルヘルスの心配なんかしなくてもいい人ばかりだしなあ」と思われている企業の人事部の方や研修担当の方もいるかもしれません。

けれど、その手放したくない社員のメンタルヘルスが明日も好調かどうかは・・・。誰にも確信が持てない時代がやってきました。

サポート頂いたお金は、オフィスの維持に使っています。 ありがとうございます。