マルジェラを巡る冒険 #3

もしその靴を年に数回はくだけの、超秘蔵っ子いっちょうら靴に留めておけば、今でも美品の状態が保たれていたのかもしれない。
でも靴は履いて歩くべき道具であり、人生の相棒なのだ。

それに何より、この靴はどんなスタイルにもとてもよく合う。
メンズシューズを基調にしているので、パンツススーツにはもちろんはバッチリだし、ジーパンを履いてもカジュアルになりすぎず、ピリリと決まる。そして甲のところがきゅっとしまってスラッとしたフォームをしているから、意外にもブラックドレスなどのフェミニンなスタイルにもよくよく合う。

こうして色んな場所へのお供をしてくれている間に、少しずつ使用感が滲んでいった。

そして、7年、8年と経ち、メンテナンスが必要な時期になってきた。もともとデザインとして、始めから縫い目がほどけていたり、中の芯地がのぞいているような作りになっていた。買った当初から、いずれこの部分を皮切りに他の部分へもダメージが広がるのでは、という危惧があって、いずれはそこを補強しなくては、と思っていた。

一方で、すっかり履き込んだ靴を後生大事に抱えて、高級メゾンに持ち込んだりしても、店員から失笑を買うだけなのでは、という不安が頭をよぎった。

しかし、せっかくならきちんとしたところへ頼みたいと思い、まずは百貨店へ電話をかけて問い合わせた。

修理自体は承っていますので、一度お持ち下さい、とのことだった。
私はすっかり気分が軽くなり、靴を携え出掛けていったが、これが長い長い冒険の始まりだった。

つづく

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