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定年後の「不安」とは?【定年前に考える②】

 「定年」とは多くのサラリーマンにとって、よくわからない「不安」と「期待」が入り混じるテーマです。

 「定年」という区切りを持って、会社との関係も大きく変わる方がほとんどでしょう。どんなに会社が好きでも嫌いでも、一生居続けることは出来ません。何歳で会社を卒業するのか、卒業後の準備はいつからするのか、悩みどころではないでしょうか。

 筆者は現在50代後半ですが、勤務先は60歳から大幅な収入ダウンとなるので、今後の準備はしているものの得体の知れない「不安」はあります。住宅ローンもまだまだ残っていますし!


「お金」と「仕事」の不安

 老後不安には「健康」や「孤独」などがありますが、定年前後は特に
  ・「お金」の不安: 定年後の収入減でも生活していけるのだろうか?
  ・「仕事」の不安: もう宮仕えは勘弁だが、どんな仕事をすべきか?
 この二つが大きいのではないでしょうか。

 「定年の時期は事前にわかっているのだから、早めに準備をしておけばいいじゃないか!」と言うのは簡単です。しかし組織で仕事をしながら準備をするのは、様々な制約があり「思ったほど簡単ではない」というのが実感です。特に会社役員など経営陣なら尚更でしょう。

 何年もかけて事前に準備をしてきたつもりでも、「定年直前」はかなり心が揺れるようです。多くの諸先輩方が様々に悩まれているのを筆者は見てきました。
 でも定年後ほとんどの方は家計が破綻する事はなく、うまく乗り越えられています。なぜでしょう?

厚生年金保険は老後の支柱となる収入源

 それは「厚生年金保険」が思った以上に大きな収入源となっているからです。その結果「サラリーマンは簡単には老後破綻しない」と言えます。

 「えっ、年金はあてにならないんじゃないの?」と思っている若い方も多いでしょう。筆者も30年以上前はそう思っていました。
 しかし50歳を過ぎると、毎年郵送で届く「ねんきん定期便」には将来の年金受取見込額が表示されます。その見込額を毎年確認していく事で、初めて「年金はあてになりそうだ」と実感できるものかも知れません。

 ずっとサラリーマンで働いた場合、標準的な年金(モデル年金 ) では一世帯あたり月「22.3万円」の厚生年金受給となります。30年間受給すると単純計算で「8千万円」にもなります。「厚生年金保険があてにならない」という前提では、「現実的」な老後資金計画は到底立てられないでしょう。
 モデル年金:「賃金44万円(2019年度厚生年金保険の現役男子平均)の片働き世帯」が受け取る標準年金を指す。「一人当たり賃金22万円の共働き世帯」と読み替えることも可能。

 一方2019年の総務省家計調査(※資料1) の消費支出(教育娯楽・交際費除く)は約「21.4万円」です。家計の収支は「人それぞれ」なので一概には言えませんが、「モデル年金」で「最低限の消費支出」は賄えているのです。

 そこで、サラリーマンの老後家計は「厚生年金保険」がベースであり、そこから不足する分をどうやって補っていくかが基本的な戦略となります。よって「厚生年金保険」にしっかり加入していたサラリーマンは、持ち家さえあれば老後破綻する可能性は低いのではないでしょうか。

いつまで働いて、いつから年金を受け取るのか

 年金は65歳を基準にプラスマイナス5歳の幅で、つまり60~70歳の間で受取時期を自由に選択できます(2022/4からは60~75歳に拡大)。
 上記前提を元に「いつまで働いて、いつから年金を受け取るのか」を検討していきましょう。
 以下、厚生労働省の「繰下げ制度の柔軟化 関係資料集 (※資料2)」のモデル年金 を元にしたシミュレーションとなります。

■ 元気だけどもう働きたくない、趣味やボランティアで過ごしたい
 60~64歳の5年間は私的年金などで1,320万円(22万円×12ケ月×5年)の生活費を賄い、65歳からは厚生年金保険を受け取るパターンです。これは、ある程度老後資産の準備ができている世帯の選択肢でしょう(図①)。

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■ 少なくとも65歳までは働きたい
 継続雇用制度などで60~65歳の5年間働くパターンを想定している方は多いでしょう。①との比較では60代前半での資産取崩しを防ぎ、65歳から受給する年金額も月1万円アップします(図②)。

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 さらに70歳まで年金受給を繰り下げれば年金月額は32.6万円になり、②から42%も増額されます。65~70歳は私的年金などで資産を取り崩しての対応です(図③)。
 公的年金の本質は「長生きリスクに対する保険」なので、受給繰下げは老後の安心感を得るためにも検討の価値大です。

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■ まだまだ元気なので出来るだけ長く働きたい
 70歳まで働けば手持ちの資産を温存しつつ、年金額も図③より若干増やすことが出来ます(図④)。 

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※もっと働きたい方は、2022/4からは75歳までの受給繰下げが可能となります。75歳から受給する年金年額は84%増額となります。

■ 60歳からは短時間勤務にして、副業で自分のやりたい事を実現したい
 60歳からは短時間勤務にして、自営の副業で稼げるようになったら年金受給に切り替えるパターンです(図⑤)。人生100年時代を迎え、今後このような働き方が増えていくのではないでしょうか。
 もちろんもっと稼げるようだったら、70歳や75歳へ年金受給の繰下げも視野に入ります。その時々の状況で判断すればよいと思います。

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「年金繰下げ」に関するQ&A

 以下、「年金繰下げ」に関するQ&Aです。以下を判断する「ものさし」は、やはり「公的年金の本質は長生きリスクに対する保険」である事に尽きます。

【Q1】 60歳から収入も減ることだし、貰える年金は貰えるうちに早く受け取るべきだ。年金月額が減額されても「60歳からの繰上げ受給」の方が繰下げより良いのではないか。
【A1】60歳から繰り上げ受給をすると、年金月額は65歳受給より30%減(2022/4以降は24%減)となります。モデル年金で言えば月22万円が15.4万円(2022/4からは16.7万円)に減額です。比較的元気な60代前半から年金に頼って、「長生きリスクに対する保険」である(かつ人生後半戦の支柱となる)年金額を減らすのは得策ではありません。
 「俺は太く短く生きるから繰り上げでいいんだ!」と言う方もいらっしゃいます。心情的には理解できますが、65歳まで達した方が90歳まで生きる確率は男性4割・女性6割になっている昨今、皆さん案外長生きするものです。なので「安易な」繰上げは禁物です。繰上げする際はじっくり考えてからにしましょう。

【Q2】70歳まで繰下げた場合、65歳開始より得をするのは何歳まで生きた場合か。さらに、繰下げで年金額が増えると税金や社会保険料も増えるので、手取り額で考えるべきではないか。
【A2】損益分岐点やはり気になるところでしょう。様々な記事で取り上げられていますが、81歳11ケ月を越えて長生きした場合に70歳繰下げ受給の方が得となります。「手取り額」では各自治体で基準が異なるので一概には言えませんが、大体83~85歳以上が目安のようです。
 上記は知識として捉えるのはいいと思いますが、「自分が何歳まで生きるのかわからない」なら「想定外に長生きしてもお金に困らないようにする」ために、可能な限り「繰り下げ」で検討すべきです。損得のボーダーは気になるところですが、残念ながらどんなに精緻に計算しても「判断材料」には使えない情報ではないでしょうか。

【Q3】70歳まで繰下げ手続きをして69歳で亡くなったら、本人は一円ももらわない事になる。繰り下げには慎重な判断が必要ではないのか。
【A3】繰下げ手続きをせずに「繰下げ待機」にしておけば解決します。待機にすれば、例えば69歳になって今まで未受給の年金(月22万円の4年分なら1,056万円)を一括請求する事も可能ですし、もし受給せず亡くなった場合でも遺族が一括受給できます。かなり自由な請求が可能な制度なのです。

自由な年金の受取方法は、様々な働き方を支えている

 定年後どのように働くのか。老後財源の支柱である厚生年金保険をベースにして検討していきましょう。様々なバリエーションがあり、きっとあなたの仕事に関する選択肢もよりクリアになる事でしょう。
 ご自身の年金見込額でシミュレーションをされたい方は、「公的年金シミュレーター」や「ねんきんネット」の活用もご検討ください。

 ところで、自営業者の皆さんは「厚生年金保険」はなく「国民年金」のみです。しかしサラリーマンと違い定年はなく、また税制面でもサラリーマンより大幅に優遇されています。多くの方が早くから税制優遇制度を活用して老後の私的年金作りにチャレンジしている事と思います。

 問題なのはサラリーマンなのに厚生年金保険に加入できていない方です。このnoteでも再三取り上げていますが、厚生年金保険の「適用拡大」は「老後格差縮小」のための大命題となっています。この点は皆さんも深くご理解いただければ幸いです。


資料1:2019年 家計調査年報(家計収支編)p.18(総務省)
https://www.stat.go.jp/data/kakei/2019np/gaikyo/pdf/gk02.pdf

資料2:2019年10月18日 第12回社会保障審議会年金部会 参考資料
「繰下げ制度の柔軟化 関係資料集」p.8 (厚生労働省)
https://www.mhlw.go.jp/content/12601000/000558229.pdf


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