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年金受給開始時期「75歳」の意義とは

政府は2020/3/3に年金制度の改革法案を閣議決定し、今国会での法案成立を目指しています(追記:2020/5/29に成立しました)。この改革法案の中には、公的年金の受給開始時期を「60~70歳」の間で自由に選べる現行制度を、「60~75歳」に拡大する内容が盛り込まれています。
この事について、皆さんはどのように思われますか?

選択肢の拡大

「国は我々を75歳まで働かせる気か!」
いえいえ、何歳まで働くのかは本当に「個人の自由」です。そして、60~75歳までの範囲でいつから年金を受け取るのか、それも自由です。
筆者は今回の見直しは単に「繰下げ受給の上限年齢の引き上げ」であり、少子高齢社会の現状に合わせた「選択肢」の拡大として、大いに歓迎すべきというスタンスです。

なぜ歓迎すべきなのでしょう。それは「自分が何歳まで生きるかわからない」ことが老後不安の最大要因であり、その不安を今までより軽減させる効果が期待できるからです。

年金の繰下げ受給とは

75歳に受給開始時期を繰下げた場合、65歳から受給した場合と比べ年金年額は84%も増えることになります。現行では70歳に繰下げた場合の42%増加が上限だったので、今後は75歳まで年金を受け取らないで働くことにより、一生涯受け取ることができる年金額をさらに増やすことのできる選択肢が「追加」提供されるのです。今までの制度の改悪ではありません。少子高齢社会の中、出来るだけ長く働いて社会貢献したい、そのような考えの多くの方には朗報です。

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※図:資料1のp2より

この繰り下げに使用しているデータは「完全生命表」の「年齢別死亡率」などで、今回の改定で使用している平成27年データでは65歳の平均余命※21.8年(男女平均)をベースに計算されています。
    ※平均余命とは「ある年齢」から「あと何年生きることが出来るのか」の「期待値」で、上記であれば65歳の方は男女平均であと21.8年、つまり平均的に86.8歳まで生きるだろうということを示しています。

そして、繰下げは「数理的に年金財政上は中立であること」を基本として、増額率が設定されています。つまり、65歳から受給しても70歳から受給しても、下図のとおり受け取る年金総額は変わらない(損得はない)前提で算出されています。

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※図:資料1のp4より

しかし、損得がないのは「平均的な年齢まで生きた場合」の話です。冒頭申し上げたように「自分が何歳まで生きるかわからない」、そして公的年金の本質が「長生きのための保険」である前提に立てば、可能な限り繰下げを行い、何歳まで生きるかわからない老後の「安心感」を得るほうが得策だと筆者は考えます。現に、2015年時点で65歳を迎えた1950年生まれの方では、男性の3割以上、女性の6割が90歳まで長生きする見込みとなっています
(資料2: p3)。平均以上に長生きする可能性は誰にでもあるのです。

早く亡くなった場合は?

そうはいっても繰下げをして早く亡くなったら、被保険者本人は一回も年金を受け取る事が出来ないリスクがあるのでは?という疑問が出てくると思います。この対策としては、受給権が発生する65歳時点で「受給の繰下げ」手続きをするのではなく、年金請求手続きを「保留」にしておけばよいのです。
こうしておけば、例えば被保険者が69歳で長期入院して働けなくなり、年金を受け取りたい場合は、その時点で初めて「請求手続き」を行えば、65歳から受け取っていなかった年金を一括受給でき、その後も年金は生きている限り受給できます(その場合、繰下げ増額はされません)。
70歳以降の請求手続きについては時効5年の絡みがあるのですが、基本的には不利にならないよう配慮されています(詳細は※資料1のp7~8参照)。

長く働いてその収入で人生を謳歌する!

団塊の世代が全員75歳となる2025年に向けて、65歳以上の高齢者人口は急速に増加した後、緩やかな増加に移行します。そして、2040年には団塊ジュニア世代が全員65歳となり、直後の2042年に高齢者人口はピークを打ちます(なお、以降は高齢者人口も減っていきます。つまり、未来永劫高齢者人口が増えるわけではありません)。
しばらくは増えていく高齢者人口ですが、一方健康年齢も大きく伸びています。男女とも、2016年の70~74歳の新体力テストの合計点は、1998年の65~69歳の合計点を上回っているのです(資料2: p4)。たった18年での変化ですよ‼️
なので、元気なシニアの方は年金を65歳からもらっている場合ではありません。「75歳まで働かないといけないのか!」ではなく、「少なくとも80歳まで働いて、そのお金で旅行に、趣味に、人生を謳歌するぞ!」という考え方がこれからは主流になっていくのではないでしょうか。

※資料1:2019年10月18日 第12回社会保障審議会年金部会(厚生労働省)
https://www.mhlw.go.jp/content/12601000/000558227.pdf
    同 議事録:
https://www.mhlw.go.jp/stf/shingi2/0000204770_00018.html
※資料2:2019年9月27日 第10回社会保障審議会年金部会(厚生労働省)
https://www.mhlw.go.jp/content/12601000/000551466.pdf


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