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37歳マッチング相手が重度のドルオタだった

婚活アプリの有料会員に登録したのは、私が33歳の時だった。今でこそアプリ婚は珍しくないが、当時は「出会い系?」と勘違いされるくらい認知度が低かった。

私自身も「結婚できない男女」が使うツールだと認識していたし、お金を払って結婚相手を探す=敗北だと思っていたので、そこに手を出すのはプライドが許さなかった。

ところがある日のこと。

婚活中の親友が、婚活アプリに登録すると宣言した。

親友をひとことで形容するならド美人。その美人の親友がこんなことを言うのだ。

「仮に月2回合コンに参加して5000円払うんだったら、婚活アプリの有料会員に1か月5000円で登録するほうが出会いの確率高くない?」

まったくもってそのとおりである。

くだらない偏見や見栄に縛られない美人、さすが美人。

私はこれまでの主義主張をあっさり捨て、婚活アプリ激推進派に転向した。

さっそく、プロフィールを作って写真を選ぶ。親友と互いに写真を選んで難癖つけあったり、プロフィール文を添削しあったりするのは楽しかった。

アプリを始めて驚いたのは、"普通に"素敵な妙齢の男性が多数登録していたこと。モテない男性しかいないのでは? という偏見が崩壊する。

さらに驚いたのは、登録してすぐに、特別若くも美人でもないこの私に、それなりに「いいね」が届いたこと。毎朝、「どれどれ?」とアプリを開き、押された「いいね」を見てはニンマリと悦にいるのが日課になった。

実世界でこれほど男性から好意を持たれたことがあっただろうか? 承認欲求が満たされることこの上なしだ。

……ずっとこのまま登録していたい。

本末転倒だがそう思った。

こうして気をよくした勢いで、1か月で4人の男性と実際に会った。そのうちのひとりと恋人関係に発展し、のちに結婚したのが、現在の夫だ。

ちなみに、4人のうちのひとりに、なぜか毎朝桜の開花情報を配信してくれる不思議なお天気お兄さんがいた。彼との出会いと予想外の結末についても以下に書いたので、よかったら読んでほしい。

出会った彼(後の夫)と「付き合おう」と思った一番の決め手は、酒飲みだったことだ。

彼は初めて会った居酒屋で、よく飲んだ。酔っても変に陽気になったり、急になれなれしくなったりもしなかった。そして私が早めのペースでビールを5杯くらい飲んでも引かなかった。

アウトドア好きなのも好感度が高かった。友人を集めたバーベキューに誘った時は、火おこしやタープ貼りを手際よくやってくれたし、キャンプ通をドヤったりもしなかった。

背が高く、顔は濃いめ。少し痩せればイケメンといえなくもないルックス。オラオラ系の真逆の優しい心の持ち主のようで、間違っても人に手をあげたりしない、人の良さそうな37歳男性。バツなし。年収は年齢相応。

……非の打ち所がない。

こんなことがあるのだろうか? 何かきっと、許容しがたいことが…性癖が変態すぎるとか…あるのではないか?私はひそかに身構えていた。

ある平日の夜、私たちは仕事帰りに沖縄居酒屋で待ち合わせをした。

オリオンビールで乾杯し、和やかなムードになるかと思いきや、彼は緊張した面持ちでこう言った。


「実は、言ってないことがあるんだ」


キタ━━━━━━(゚∀゚)━━━━━━ !!!!!

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眼前をAA(アスキーアート)が埋め尽くし、私のなかの「2ちゃんねる」の住人が「詳細キボンヌ」「今北産業」などと盛り上がる。

借金か?実は認知した子がいるのか?公衆の面前なので特殊性癖の線はなさそうだ。

「何?」

2ちゃんの妄想のおかげで冷静でいられたと思う。

彼はおもむろにスマホを取り出し、Instagramを開いて見せた。そこには、アイドルの応援アカウントと思しき画面があり、アイドルの画像がずらりと並んでいる。フォロワー数は数万人

「前にももクロが好きだって言ったじゃん? 本気で……好きなんだ」

ももクロが「ももいろクローバーZ」というアイドルグループであることは知っている。代表曲は「行くぜ!怪盗少女」。

たしかに、彼は以前ももクロが好きだと言っていた。音楽フェスでももクロを見たとも。だがしかし、よくよく話を聞いてみると、尋常じゃない「好き」だった。

話を聞くうち、婚活アプリでプロフィールの趣味欄に「音楽・ライブ鑑賞、旅行」と書いてあった謎が解けた。

「音楽・ライブ鑑賞」はももクロのライブで、「旅行」はももクロの全国ツアー巡り。そういえば、ひとり旅でハワイに行ったと言っていた。アクティブな人だなあと思っていたのだが、まさかと思って聞いてみると、それもももクロのハワイライブだった。わざわざパスポートを取って初めての海外にひとりで行ったらしい。

筋金入りだ。

Instagramのアカウントは、毎日1枚、推しの写真を投稿していた。公式からの非公認を公言した応援アカウントだったが、彼女たちの誕生日には得意のPhotoshopを駆使して宣材写真並みのバースデーメッセージ画像を作成して投稿しており、クオリティが無駄に高かった。

なお、現在は本人たちの公式アカウントがあるためそれに敬意をはらってアカウントを削除しているとのこと。

ももクロファン仲間は日本全国に点在するそうで、ライブのたびに集まったり、一緒に旅行に行ったりして20~30代前半を楽しく過ごしていたそうだ。

彼は自信なさげに言った。

「一緒に、ライブに行ってくれない?」

正直、ももクロにはあまり興味がなかったが、一見アイドル好きに見えない彼の見た目と中身のギャップにやられかけていた。

そして、普段ほとんど大きな声を出さないし、感情を出すこともない。そして、付き合いたてにしては、スキンシップなどの愛情表現は少なめの彼。そんな彼が、ライブでは豹変したりするのだろうか? 

私は、彼に対する興味と、自分とはまったく縁のない芸能人の女の子たちに対する嫉妬に似た好奇心を持ち始めていた。

「いいよ! 私も行ってみたい!」

気がつけば、ふたつ返事でOKしていた。

彼は、一度うつむいてから顔をあげて、出会ってから初めて見るような大きな笑顔で笑った。

「彼女と一緒にライブに行くのが夢だったんだ……」

今まで聞いたことのない嬉しそうに照れた声に、私は萌えていた。念のため、〇〇命と書いたはっぴにハチマキを巻き「LOVE〇〇♪」と書いたうちわを振りかざす彼を想像した。

ギリ、許容できる。

変態でも借金持ちでもなかったのだ。少しドルオタだろうが、それがなんだ!!! 

私はなぜ「37歳ドルオタ男性」に引かなかったのだろうか?

それは、「何かに夢中になっている人」に対して、非常に興味があったからかもしれない。私自身もハマり症でのめりこむと周りが見えなくなるタイプだから……というのもあるが、熱くなって感動できる人が、私は人間らしくて好きだ。そして熱くなっている様子を傍から見て観察するのも好きだ。

絶対にブレない「好き」がある人は、例えば恋愛中でも、仕事が忙しくても、うまく気分転換ができるだろうし、自分の世界を持っていれば人の趣味や行動にも寛容になれる気がする。

そういう人だったら、私は信用できる。私にとって結婚するなら、無趣味な高収入男性(仕事に熱い情熱を持っている人は別だが)よりも断然ドルオタなのだ。

……それからしばらくして、夏のライブに2人分申し込んで当選したと彼から連絡がきた。

その週末、彼は「できればライブまでに予習しておいてほしい」と、ももクロのライブDVD一式を抱えて我が家にやってきた。

私は、彼と一緒にももクロのライブに参戦してどうなるのか!!!?

そのうち、続きを書いてみたいと思う。

※続きです






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