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【コラム】『D2C 「世界観」と「テクノロジー」で勝つブランド戦略』ーデジタル時代にミュージアムが編む「物語」を想う

知人からおススメされたD2Cにまつわる本を読んでみました。

内容としては、D2Cというものは、岡田斗司夫が提唱していた「評価経済」に、デジタル技術とデータ戦略がミックスされたものだな、という印象でした。

ただ、自分に身近な「ミュージアム」をテーマに、「自分は博物館に対してどのようなアクションを起こせるだろうか」と考えさせられたので、感想を交えてつらつらと書いてみます。

D2C(Direct to Consumer)とは?

そもそもD2C(Direct to Consumer)とは何か。本文内で引用されている「辞書的な定義」は下記の通りです。

新しい消費の価値観を持つミレニアル世代以下のターゲットに対し、ユニークな世界観を下敷きにしたプロダクトとカスタマーエクスペリエンス、SNSや店舗を通じた顧客とのダイレクトな対話、垂直統合したサプライチェーンを武器に、VCから資金調達を行い、短期間に急成長を目指すデジタル&データドリブンなライフスタイルブランド。

ー『D2C 「世界観」と「テクノロジー」で勝つブランド戦略』3p

ミレニアル世代とそれ以下、つまり1980年から1995年の間に生まれた世代とそれ以下の世代をターゲットに、デジタル技術やデータを最大限活用し、顧客と協創する「物語」を売ることによって、短期間で急成長をとげるビジネス戦略、だと私は捉えています。

ミュージアムは非常に長期的な視点を求められる業態(100年、1000年残る文化や自然環境を守り考え、実践する分野だと考えています)なので、VCからの資金調達や、短期間での急成長自体はそぐわないかと思います。

ただ、旧来の伝統的なブランドが手掛ける小売のやり方とは一線を画しており、ミュージアムの経営にもフィットする部分があるのは否めません。

本著の中でD2Cの核とし、下記の3点が挙げられています。

①世界観・ストーリー作りに投資をすること
②顧客との関係性作りに注力すること
③デジタル起点のビジネス・ブランドつくりを行うこと

ー『D2C 「世界観」と「テクノロジー」で勝つブランド戦略』198pを元に大澤が改変

これらを軸に、ミュージアムを起点に実践ができないか考えてみました。

ミュージアムが編む「物語」とは?ー①世界観・ストーリー作りに投資をすること

インスタグラマー然り、ユーチューバー然り、「お金で買えない人気」がある種経済の指標となる「評価経済」。

この概念が日本で提唱されてから10年近くたつのですが、ミュージアムはその影響を受けてきたのか?受けたのならばどのような形で導入されたのか?というのが現在の疑問です。ミュージアムマネジメント学会とかで発表されてたりしないかな?

言わば、ブランディングという「物語を売る」という考え方を、どこまでミュージアムは引き受けてきたのか、というところ。来館者がどのような博物館体験をし、それが自身のライフスタイルの中にどう配置されるのか、どのような影響を与えるのか、という考え方を博物館はやってきたのか?という点です。

このあたり、ぱっと思いついたのは新設の水族館あたりは上手くやっているのかなという印象です。そして水族館は家族連れやデートスポットとして、ある種定番ですので、物語の中に組み込みやすいのかなと思います。四国水族館、川崎水族館など、ブランディングに気を配っている印象です。

あとはリニューアルオープンした滋賀県立美術館もそうかもしれません。館名から「近代」を外し、ミッションには「応接間からリビングルームへ」という見出しが躍っています。

この10年で新設されたミュージアムとして、大きな美術館では、森美術館(2003)、国立新美術館(2007)が挙げられます。どちらも「美術館に行くこと」を、ミレニアル世代の「おしゃれな行動やライフスタイル」に押し上げた印象は確かにあります。

既存のミュージアムには何ができるのかといえば、自分たちのミュージアムがミレニアル世代以下にどう受け取られているのか、どう受け取ってほしいのかを戦略的に構築することが必要です。

そのヒントとして、これ、先日私が衝撃を受けたんですけど。うちの家族がハマっているYouTubeチャンネルに「ゆる言語学ラジオ」というのがあるんです。

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そしたらたまたま博物館の話題が出てきまして、「目黒寄生虫館」が「サブカル野郎が行きがちなデートスポット」として紹介されていて。もうびっくりで。

この回です↑ぜひ見てみて。

私は生まれも育ちも北海道の田舎だったので、こういう文脈で東京の若者の中に「目黒寄生虫館」が収められていることが、もう大発見だったんです。ちょっと感動しました。ここにめっちゃヒントがあると思うんですよね。

もしかしたら皆さんも、ご自身の博物館が地域の人たちや若者に、「えっ!こんな文脈で捉えられているの?」と驚きの受容の姿があるかもしれません。それをリサーチすることから始めてみてはどうでしょうか。

博物館コミュニティがつくる協創者ー②顧客との関係性作りに注力すること

ちょっと前に書いたコラムですが、「文化財を守る意味」をどう伝えるかというテーマで書いたことがありました。

この中で、「文化」の人間は、文化財を守りたがる人たちを増やす活動に邁進せよ、と書きました。

例えばですが、大阪市立自然史博物館。認定NPO法人 大阪自然史センターによる友の会の活動が活発で、市民を巻き込んだ形で「大阪の自然を守る」活動に邁進しています。

なにわホネホネ団などの博物館内グループもそうですが、コミュニティ作りが上手く、市民をコミュニティのメンバーに引き込み、そこから常にフィードバックをもらい、活動に活かす仕組みができているなという印象です。

認定NPO法人 大阪自然史センターのニシザワマキコさんがご自身の誕生日に「バースデードネーション」を仕掛けた際(それもすごい取り組みですよね)、寄付サイトにこのような一文を掲載しておりました。

一番驚いたのは、「人のアイデアを面白がる」「言い出しっぺを大事にする」という大阪の文化でした。生来、思いついたりアイデアが突然降ってきていてもたってもいられなくなることが多かった私には、「まず制止する」のではなく「そんなにやりたいなら、どうやったら実現するか一緒に考える」方向に動いていく文化に感動したのでした。

ーニシザワマキコのバースデードネーション:博物館と共に活動するNPOを応援してください https://syncable.biz/campaign/1833

来館者を、協創者にする。せっかく博物館には友の会があるので、興味を持たせ、どんどん仲間や味方に引き上げていく地道な運動が、グッズもそうですが巡り巡って博物館全体のバックアップになると思います。

これは『D2C』でも言われていたことですが、仲間を増やし、そしてその仲間がどのくらい長い間仲間でいてくれるのか。それを重視することの大切さを、博物館も取り入れるべきだと思いました。博物館ブランディングもそのためにあるものだと。博物館評価においても、その点を評価の対象に入れることもぜひ検討してほしいですね。

細やかなデータ活用ー③デジタル起点のビジネス・ブランドつくりを行うこと

公立の博物館などで、これをやっているところはどれだけあるのかしら…?と思うほど、このデジタル起点のビジネス・ブランドづくりはなかなか取り組まれていないのではと思います。

D2Cブランドは創業当初から大量のエンジニアや、SNSマーケティングのプロを揃える。データ分析やSNSを通じたコミュニケーションを積極的に行い、また、それぞれの施策の結果を細かくデータに取り分析していく。グロース手法や、使用するKPIもテック企業のそれに近いことが多い。
店舗展開の戦略にもデータがふんだんに使用される。
店舗の設置は、自社ブランドの名前が検索されたロケーションのデータに基づいて行われる。また、顧客とのコミュニケーションも、WebサイトやSNSを通してなされる。独自のソフトウェアを開発し、需要予測に基づいて材料の発注や製造なども行っている。

ー『D2C 「世界観」と「テクノロジー」で勝つブランド戦略』21-22p

SNSで博物館担当者が発信することは、このコロナ禍でかなり進んできたように思います。学芸員個人が発信することも、まだ手探りではありますが模索している状況であると言えましょう。

ただ、博物館の関係者が言う「来館者」って具体的に誰を指すのか、「来館者」は博物館に何を望んでいるのか、これらをデジタル起点に分析するデータサイエンティスト的な役割を持つ人など、公立の博物館の運営者にはまずいないだろうな…と。私立ならどうだろう、まったく無いわけではないだろうと思うので、ここらへんちょっと調べてみようと思います。

勉強不足なので森美術館ぐらいしか浮かばないのですが…!

ただ、博物館の中の人たちにできないなら、それこそ、ミュージアムショップが引き受けられる分野じゃないかとも考えています。

博物館内でデジタルマーケティングの専門家を置けないなら、ミュージアムショップから積極的に仕掛けていき、ショップとしてのブランド力を高め、博物館に還元することができないかなと。そういうやり方だってありじゃん?と思います。

おわりに

税金が投入された社会教育施設なので制約が多いのも事実です。そして博物館はお金が無く、人手が無い…とはもうずーっと、ずーっと言われている。

ですが、博物館経営論や、博物館メディア論学徒、出身者の皆さんにもここら辺ぐいぐい食い込んでほしいところです。研究でもいいし、自主的な活動でもいいし、外注してもらえるような活動をしたり。

個人的には、学芸員はただでさえ多忙なので、研究にウエイトを置いた学芸員とは別に、「質の良い外注先」になれるように舵を切るのも、将来的にアリだと考えています。

ぼんやりとした感想で恐縮ですが、夏休みの読書感想文でございました。

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