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生まれて初めてのインタビュー……ぶんごころ塾

アロマセラピストをされていた
50代の清家佳子さんが、
ぶんごころ塾のレッスンに来られました。
笑顔がとても人懐っこい女性です。

今回課題のインタビューをされたのは
生まれて初めてだったそうですが、
頑張って1200字の記事にまとめられました。

 使命を知る人                                             
                     清家佳子
                   
 「緩和ケアは私のライフワーク」と語る声には
 張りがありブレがない。H市在住のアロマセラ
 ピスト、瀬川恵子さん。市民病院の緩和ケア病
 棟でアロマトリートメントのボランティアを始
 めて十三年が経つ。             
<A>
              *お名前は仮名。

初回に書かれたタイトルとイントロが、これです。

ここでアロマセラピストの瀬川さんを紹介しています。
肩書きを並べるばかりでなく、
声の様子をなんかを入れているのがいいですね。
少し瀬川さんが感じられます。

  トリートメントの対象は、末期がんの患者。
 緩和ケア病棟は、積極的な延命治療ではなく、
 がんの痛みをコントロールしながら、穏やかに
 終末を迎えてもらうための治療を専門に行なう
 ところである。            
<B>
  瀬川さんはこの病棟で月二回、希望する患者
 さんに施術を行なっている。
      <中略>
  しかしこの病棟では同じ患者を何度も施術す
 ることはほとんどない。次の活動日には亡くな
 られていることもここでは日常だ。          
<C>

イントロに続く段落は、こんな感じです。
<C>を読むと、
厳しいボランティアなんだなあとわかります。
その先の段落では
アロマテラピーとはどういうものか、とか
ボランティアをする側の思い、とか
が書かれています。


驚かされるのが、次の段落です。

  先日、瀬川さんの施術の最中に患者が亡くな
 った。その家族は看護師に言った。

 「気持ちいいマッサージを受けながら亡くなっ
 た父は幸せでした、本当にありがとうございま
 した」
                  <D>

えっ、まさか、施術の最中に。
と、びっくりすると同時に
その時の様子を知りたくなります。

清家さんにその気持ちを伝えると、
もう一度インタビューしてみるとのことでした。

そうして書き直された文章は、
リアリティがあってとても内容の良いものでした。
そこでちょっと思い切って
アドバイスしてみました。
ここをイントロにしませんか、と。

清家さんは時間をかけて、
何度か書き直してまとめられました。

 いのちに寄り添う〝手〟
                    清家佳子

  ゆったりとした音楽をかけながら、ある患者を
 マッサージしていると、傍にいた娘さんらしき女
 性がかすかな異変に気づいた。
 「……お父さん?……」
  患者は静かに息を引き取っていたのだ。その家
 族はあとで看護師に言ったそうだ。
 「気持ちいいマッサージを受けながら、亡くなっ
 た父は幸せでした」
  先日、末期がん患者の臨終に立ち会ったのはア
 ロマセラピスト・瀬川恵子さん(48)。看護師か
 らマッサージの手を止めるよう促されるまで気づ
 かなかったという。生と死の境目がない、それほ
 ど穏やかな最期だった。

これが、最終のタイトルとイントロです。

読む人は、イントロの最初の数行で
読むかどうかを決めてしまいます。
どんなに大切なことが
その先に書いてあったとしても、です。

でも清家さんが書き直したイントロには、
読む人を引っ張り込んでしまう
そんな力があります。
その先を読みたくなります。


清家さんはなぜ今回、
瀬川さんにインタビューしたのか。
その思いは
初回に書かれた文章にこうありました。

  たとえ二、三十分でも残されたわずかな時間
 を施術にもらい、感謝されていいことしたと思
 うのは、インスタントなボランティア側のエゴ
 なんじゃないか。私がセラピストだった時代に
 悩んだことを瀬川さんにぶつけてみた。

アロマセラピストという仕事は
ネガティブなマインドを相手することが多く、
それを続けるのがあまりに辛くなって
今、清家さんは中断されているのだそうです。


清家さんがぶつけた質問に対しての
瀬川さんの答えが、
最終作品にはこんなふうに書かれています。

  だが彼女は悩んだことがあった。患者に施
 できるわずか二、三十分の間、痛みを少し和

 げてあげたからといって、患者は本当にあり

 たく思っているのだろうか。
 「ボランティアする私のエゴじゃないか」 
  そんな気持ちで活動を続けるうちに、あるこ
 とに気づいた。痛みを和らげてあげる、という
 のも上から目線であると。
  患者とセラピストの関係はフラットだ。する
 側、される側ではなくお互い穏やかであればそ
 れでいい。そう思えたら肩の力が抜け、施術が
 楽しくなったという。
 「私は患者さんから、幸せをたくさんもらって
 るねん」
  自分のしたことを喜んでくれる人がいる、役
 に立っていると素直に感じられるようになった。


清家さんは
この後に続くエンディングで、
瀬川さんへの想いをまとめられています。

  緩和ケアは常に、死が隣にある過酷な現場で
 ある。脆弱なメンタルでは通用しない。しかし
 彼女はそこに居場所を見つけた。心身ともにコ
 ンディションを整え、その〝手〟で患者にいの
 ちの温もりを伝える。安らかな最期は、患者に
 も遺される人にも大切だということを身を持っ
 て知ったのだ。
 「緩和ケアは私のライフワークやから」
  瀬川さんは今日も、そっと病室のドアをノッ
 クする。


このあたりを読んでいると、
清家さんが自分に言い聞かせているような
そんな気もしてきます。

読み終えると
そこに瀬川さんの姿が浮かんでくる、
素敵なエンディングです。



インタビューを受けた瀬川さんは、
答えているうちに
今まであまり深く考えてこなかったことが
鮮明になったと喜ばれていたそうです。

最近、清家さんは
アロマセラピストの仕事を再開した
と報告してくれました。

               ……ぶんごころ塾



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