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【掌編小説】年賀状のやりとり

 むか~し、むかし、あるところに、やたらとお正月が好きな二人のお殿様がおりました。

 二人のお殿様は、お互いに負けず嫌い。そのため、競い合って、それぞれ、同じ時期に、同じよ~~~なお城を、隣同士に建てました。

 そして、二人のお殿様は、それぞれのお城を『年賀城ねんがじょう』と命名しました。

 すると、二人のお殿様は、「我が城こそ『年賀城』と呼ぶに相応ふさわしい城じゃ!」、と張り合い出しました。

 やがて、「年賀城は、二つもいらぬ!」と、いくさが始まりました。

 と言っても、どちらのお殿様にも兵はおらず、ただただお殿様同士が、ただただお互いの城にやりを投げ合って、ぶつけ合うという、小競こぜいでした。

 とは言え、せっかく建てたお城。お互いに大切なお城が傷つくばかりで、投げる槍の費用も掛かるばかり。

 そこで二人は、相手が投げて来る槍を、無傷で取って、それを投げ返せば、お城も傷まず、槍の費用も節約出来ることに気づきました。

 で、早速、翌日から、槍合戦やりかっせんだけだった戦が、お殿様たちの、お殿様たちによる、お殿様たちのための、槍取やりと合戦かっせんへと発展しました。

 槍を投げては相手が取り、それを投げ返しては、また、相手が取る。お互いに、「これだったら、お城にも傷がつかず、槍も一本あれば済むし、ええやないか♪」と気づき、何年も何年も、すごく経済的な戦が続きました。

 この一本の槍が、どちらの槍だったかさえ、もう、お互いに忘れてしまいました。

 ある日、お互いに、「こういうのを、いつまでも続けているのは、ほんと、バカげているよなぁ……」と、100歳になって、やっと気づきました。

 それでお互いに、101歳になる年のお正月に、「ええ加減、ぼちぼち、お互いに槍取り合戦、やめませんか?」と、書状を送り合い、お互いに了承することになりました。

 それを機に、お互い、お正月には、お互いの安否を気遣う『年賀状友達』ならぬ『年賀状殿たち』となりました。

 やがて、長い年月としつきを経て、この『年賀城の槍取り』が、いつしか『年賀状のやりとり』として、広く日本に定着。

 今日こんにち、現代日本の年賀状文化に繋がったとさ。

 めでたしめでたし。

 日本の伝承話。

 ウソのようなホントの話。

 ……な~んてことは絶対にない、ウソのようなウソの話。

 ニャハ♪

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