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いつものように幕が開き/旅芝居のこと、人間のこと

旅芝居を追い出して何年かした頃に、
興味を持った役者が居た。
変な空気を放っていた。
すごく巧いのに力を出し惜しみしているように見えた。
元は座を率いていたらしい、
表立っては言えないことをしたために移籍をして来たとは後から知った。
笑っているのに死んだような目をしていた。へらへらしていた。
 
声をかけた。「女形が観たい」過去に得意としていたと知ったから。
でも機会がほぼないと言う。
「明日やな」また次の日。「ごめん明日やわ」試されていると思った。
妙なお客さんがついていた。
若くないけれど若いその女もまた暗い目をしていた。
彼女が客席に座った日に女形をした。
似合っていない若作りの舞台に私には見えた。
でも女は少なくはないご祝儀を付けた。妙な近さだった。
私は通い続けた。勿論、女形は観られない。
ある千穐楽数日前に役者が言った。呑みに行こう今日夜の部が終わったら。
警戒した。でも舞台の話が聞ける機会だと思った。
行った。嫌な目に遭いかけた。逃げきった!! 逃げ切った??!
 
翌日に女形をすると言ったから吐きながら行った。
 
すごい集中力と気迫で踊った。
 
数年見た。
 
例の変な女にいわれのない事から怨まれたりもした。
その変な女を他客から庇ったり守ったりもした。
いろんなことを見たり聞いたり体験したりした。
旅役者の座員は最低限の食と住は保証されていても給料はびっくりするような金額であること。
たとえば単身赴任の場合だと仕送りのお金にも苦労するということ。
じゃあそのお金はどうやって稼げばいい?
日々会うたくさんの客、入れ違っては消えていく客、それでも毎日舞台に立つということ。
夢と魔法なんかない。ランドでもなければシーでもない。濃い化粧顔の下で泣いている笑っている。そうして芝居を舞踊を演じている。
 
件の役者はもう観てはいない。
更にギラギラの炎を燃やす老役者と縁が出来た。
でもその人も数年で舞台に立たなくなった。
一番最初に縁が出来た舞台の上の職人役者は業界の理不尽さや現実により2年前に引退を決めた辞めた。
 
芝居が好きだ。舞台が好きだ。芸が好きだ。
役者は好きかと訊かれたらわからない。
でもさまざまな役者や客や舞台やそれぞれの観方を私は否定はしない。
 
あの日の女形は『美しい昔』だった。
ベトナムの『雨に消えたあなた』の日本語カバーだ。すごかった。
その後もいろんなところでいろんな嫌な目に遭いかけたりしたがすべて逃げ切ってきた!!! 逃げ切ってきた??! 今では笑えるし笑う、そして書く。書いていく。
 
件の役者のもう一度スイッチが入った時の女形も忘れ難い。
『飢餓海峡』だった。
見巧者や他座長の贔屓から「本当に良かった」と言われて本当に満足そうな表情を浮かべていた。忘れられない。
 
旅芝居は人間そのもの。芝居小屋ではすべてが出る。
だからこそ私はこれからもその客席に座るのだろう。

『喝采』も良かったな。

いつものように幕が開き、だ。



最初、タイトルを「それは飢餓海峡か否か」にしていた。
意味的にはそっちやねんけど、
前向きな方として「喝采」の方にしました。
喝采、意外とこれ、踊る人もいなければ踊れる人(ちゃんと)もいない。

ちなみに「歌芝居・飢餓海峡」版は私的にはあまり好きではない。
皆「いーたこさーんー」ばかりにとらわれすぎな気がしています。
やっぱり左幸子やん三國連太郎やん、水上勉やん。
(長くなるからこの辺で(笑))


大層若い頃に読んで&観て、の、つぶやきも出てきました。10年前です(笑)



以下は、ちょろっとですがいつもの自己紹介 。
と、苦手なりにもSNSあれこれ紹介、連載などなどの紹介!!も。
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ご縁がつながったりしたらとても嬉しい。

大阪の物書き、中村桃子と申します。 
構成作家/ライター/コラム・エッセイ/大衆芸能(旅芝居(大衆演劇)やストリップ)や大衆文化を追っています。
普段はラジオ番組の構成や資料やCM書きや、各種文章やキャッチコピーやら雑文業やらやってます。
現在、lifeworkたる原稿企画2本を進め中です。
舞台、演劇、古典芸能好き、からの、下町・大衆文化好き。酒場好き。いや、劇場が好き。人間に興味が尽きません。

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