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花道一人旅/旅役者の夢

『花道一人旅』と云う歌がある。
九州が生んだ旅芝居界のBIGスター、
現在御年86歳の沢竜二が若い頃にリリースした、自身の半生を振り返る歌だ。
どろんどろんに泥臭い歌詞をでろんでろんに泥臭い歌声で歌い上げる。
多くの役者たちに敬意を込めて歌や舞踊で使われる歌でもある。
特にハレの披露の場や千穐楽などに。自己を投影しやすいのだろうと思う。
これがかかると劇場中が妙な空気になる。
老いも若きもカシコもミーハーも皆黙り涙ぐむのだ。
役者目当て客も通気取り客も、皆、皆がだ。
有無を言わせぬ「土着的な」「人間としか言いようのない」圧倒的な空間が広がるから。
これが、これぞ、旅芝居、旅役者、みたいな!
例えばそれを否定したりよく言わない人でも、皆、皆!
 
先日も観た。復帰記念公演にて。大病から復帰した役者のお祝い公演だ。
彼を慕うゲストたちも全国から駆け付け、大会というかたちではないが、行われた。
友人に誘われ、考えた末に、足を運んだ。
個人的にはこの劇団には思うこともありすぎる、けれど、
そんな主観で物を言っているとたぶん一生もう観ることがないし、と思ったのと、
遠方からわざわざ行くという友人に会う目的で行った。
 
ゲスト総揃い〝らしさ〟満載の芝居(つまりはそういうことです)が終わり、口上挨拶に子や座員らが出てきた。
私が行ったのは夜の部なのだが、昼の部であったことを踏まえての「お願い」があった。
「舞台でのお贈り物などは、曲が終わってからお願いします。
 まだ座る(屈む?)から立つっていう動きがしんどいみたいで。
 昼の部終わってちょっと倒れそうになったんで」
切実だった。本音だった。と、思った。本当に。
「ウチのオヤジは幕開きトップで出ますんで」
 
トップで出てきた「本日の主役」が踊った。
イントロがかかった時点で隣の席の友人が私をつついた。私も「来ましたね」と答えた。
台詞部分をマイクを持って御自身で語られた。台詞が終わるとマイクを置いて、踊り出した。
客席は感傷と感慨モードで包まれる。夜だから、より一層かもしれない。
もう曲の力か本人の力かわからない、いや、両方だ。
 
「命はひとつでも、夢はいくらみても死にません!
明日も明後日もその先もずっとその夢をひらい続けてゆくんだ!
お客さん、お互いに、夢をひらって、生きてゆきましょうや!!」


なんだ。なんなんだ。私でもグッと来るものがあった。
本日の主役が、病から復帰した彼が、感慨深く一挙一動、丁寧に、伝えるように踊る姿に。全くもう。
踊り終わって、客席に御礼の気持を仕草で伝えて、去ろうとする。
そこに、お客さんがちらりほらり、いや、少なくない数が押し寄せる。

〝贈り物〟だ。贈り物、とは旅芝居の場合、ソレだ。
 
すると、先程の、曲のカラオケバージョンが繋がれて流れてきた。
 
私は泣き笑いをした。
 
そりゃあ、こんな日だもの。贈り物、来るよね。来ない訳がない。
その時間を見越して曲のカラオケ(インスト)バージョンが流れる。
音源がそのまま流れたのか、意図して繋いだのかはわからない。いや、私は後者だと思ったのだけど。
 
でも、目の前にはなんだかシュールな光景が広がっていた。
シュールで、本気本音で、有無を言わせぬ光景が。
舞台にお客さんがひとりずつ来る、彼は膝を曲げて贈り物を貰う。
旅芝居ではお馴染みのそのことが、復帰後の若くないからだは、しんどいのだろう。
だから支える。舞台袖で見守っていた子供らや座員らが、支える。
そうして、ひとりずつ。支えられ、貰う。貰う、支えられる。
Repeatされる泥臭い曲のきらきらしたカラオケの中で。
皆、いい表情(かお)をしていた。

なんだ。なんなんだ、だ。
 
完璧である、すべてが。完璧でない世界で、この瞬間、すべてが。
 
私は笑い泣きをし、唸りながら、思った。

やはり旅芝居とはブルースだソウルだ、魂だ叫びなのだ、と。
勿論、時代に合わぬダメなところは勿論改善していかなくてはならない。
魂の叫びを叫びきって消えていった者たちのためにも。

でもそうなんだ、きっと。ずっと。

私はそれを、この光景を、そのブルースを、好きかと言われたらわからないが否定はしないしたくない。
生きていることを。生きているそのものそのことを。
 
旅役者って。
旅役者って?
「大衆演劇が好きってなかなか人に言えないんですよねえ」
「大衆演劇ってババアが色気でキャーキャー言ってるやつでしょ」
「どさまわりでしょ」
はい。そうです。
って本当のことを言うとまた「自称・通」気取りの半可通な奴らがいきり立ったりする。
それはあなたが自分が観ているものを肯定できず自分のために自分の好きなように引き上げたいからじゃない? と、いつも思う。
でも、うん、それもわかる。わかるよ。
でも〝そっちだけ〟〝そっちばっか〟は違うやん?
 
沢さんのこの曲を十八番として歌うある役者は、他の多くの役者は気を遣って敢えて言い換える歌詞を換えずに歌う。
 
「俺はそれでもドサ役者」
 
テイチクレコードのHPに掲載されている沢さんのプロフィールにはこうある。
 
「趣味「芝居・酒・女」」
 
おいおいおい。もう。ほんとに、もう。
 
でも、皆、皆、なにより、体大事に、元気にやで。ほんと。ほんまにね。

ただでさえ体をこわす役者や業界人が少なくないのだから! ほんまに! ね!


(南條隆とスーパー兄弟 2022.10・17@浅草・木馬館 二代目復帰公演)
 
 
 

今回の話は前回の話と、私的には、セット。
(だから2本まとめて書いた&アップしました)

 

この日のつぶやき


この日の主役を7年前に某大会観た時のこと。これも、忘れられない舞台でした。

 

『花道一人旅』、私的には、亡くなったみやま省吾座長が歌うそれも忘れられません。
今も聴けますね。歌っている音源で踊っている役者さん(お弟子さん)たち、いますね。いいですね。


 *
最後のomake。10年前、76歳の沢さん@大阪を観た際の豪快エピソード、兄弟船篇(笑)

 
 ◆◆◆
以下は、ちょろっとですがいつもの自己紹介 。
と、苦手なりにもSNSあれこれ紹介、連載などなどの紹介!!も。
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大阪の物書き、中村桃子と申します。 
構成作家/ライター/コラム・エッセイ/大衆芸能(旅芝居(大衆演劇)やストリップ)や大衆文化を追っています。
普段はラジオ番組の構成や資料やCM書きや、各種文章やキャッチコピーやら雑文業やらやってます。
現在、lifeworkたる原稿企画2本を進め中です。
舞台、演劇、古典芸能好き、からの、下町・大衆文化好き。酒場好き。いや、劇場が好き。人間に興味が尽きません。



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あなたとご縁がありますように。今後ともどうぞよろしくお願いします。

秋。体も気持ちもしんどくなりがちやけど。皆、無理せず、どうぞどうぞ、元気でね。



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