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『落研ファイブっ』(58‐2)「オールドベアーズ戦第二ピリオド」(下)

〔多〕「Goshなんてこった!」
 試合時間残り十秒を切った所で吹かれた笛に、多良橋たらはしが思わず頭を抱える。


〔青〕「ここでっ。何とここで痛恨つうこんのPK。オーバーヘッドシュートの態勢たいせいに入った樫村熊五郎かしむらくまごろう選手に、山下選手が触れてしまったーっ」

〔本〕「ビーチサッカーに不慣れゆえのミスですね。さあ、後はゴレイロの天河てんが君が防げるか」
 天河てんがは腰を低く落として、じっと熊五郎の体軸たいじくを見定めた。


〔青〕「ゴール! 『奥座敷おくざしきオールドベアーズ』ピヴォ樫村熊五郎かしむらくまごろうのPKが見事に決まったあっ。ゴレイロの天河てんがも方向は読んでいたが惜しいっ」

〔青〕「『落研ファイブっ』対『奥座敷おくざしきオールドベアーズ』の試合は三対四で『奥座敷オールドベアーズ』の勝利となりましたっ」


※※※



〔多〕「お疲れ皆Bravoだっ。良くやったぞ」
〔仏〕「あと一ピリオドあるんだよなホントは」
 仏像が心底悔しそうにピッチを見つめる。

〔天〕「コースは読めたんだがな。あのじいさんただ者じゃねえわ」
〔山〕「あのコースが読めた時点ですげえって」
 がっくりと肩を落とす天河てんがを山下が抱きとめた。

 

〔熊〕「一時は冷や冷やしたよ。良い試合が出来て良かったわHahaha」
 アメコミ笑いを披露しながら、熊五郎はレモンのはちみつ漬けを炭酸水で割った。

〔権〕「ういーっ、不味まずいもう一杯っ」
〔八〕「あいよっ」
 八五郎がガラス瓶から茶色のどろりとした液体をすくって権助ごんすけのコップに入れる。

〔八〕「飲むかいって言いたいところだが、子供とハンドル握ってる奴にはやれねえな」
〔桂〕「あれだけ激しい運動をした後にアルコールですか」
〔清〕「この一杯のために生きてる」
 清八がぴっかぴかの頭をタオルで拭いつつ、茶色い液体を水で割った。

〔八〕「水で割ってるから度数は低いが、アルコールが入ってる事にゃ違いねえ」
 エロカナ軍団こと日光女子軍団を引きつれてピッチ脇へと戻って来た餌が、興味深々で自家製ドリンクを見つめた。

〔八〕「おいおい、坊ちゃんにはまだ早えって」
〔餌〕「クコと八角はっかく、ニンニク。何か虫みたいなのいるんだけど」
〔八〕「蜂の子だよ。スタミナつけるのにゃ最高だ」
 うへえっと顔を背けると、餌はミネラルウォーターに口をつけた。


〔加〕「ゴー様ゴールおめでとうございますっ(≧▽≦)」
 加奈が、仁王(阿形あぎょう)ポーズで仏像ににじりよる。

〔仏〕「ありがとう」
 平板な声で一言返すと、仏像は山下をお供にしてその場を立ち去った。

※※※

 仏像が公衆トイレに入ろうとすると、鍵の掛かった個室からしくしくとすすり泣きをする声が聞こえてきた。
〔仏〕「ぎゃーっ。お化け―っ」
〔山〕「落ち着けっ」
 仏像が山下を盾にしてそろりそろりと個室に近づいた。

〔服〕「どなたかおられるのですか」
〔仏〕「服部君かよ」
 聞き覚えのある声に、仏像は安堵あんどの声を上げた。

〔服〕「政木まさき君!? 助かった」
〔仏〕「どうした、まさか紙が無かったのか」
〔服〕「うん。誰か来るのを待ってたんだけど、全然人の気配が無くって」
〔仏〕「とりあえずペーパー持ってくるわ。あれ。無い」


〔山〕「『紙切れの場合は管理事務所まで――』」
〔服〕「もう無理だ。俺今度からあだ名がウコンだ」
 山下が読み上げる張り紙の無常さに、服部は声を上げて泣いた。

〔仏〕「落ちつけって俺ら高二じゃん。そんな小二みたいないじめしねえよ。もうちょっと待ってろ」
 仏像は山下を服部の話し相手に残して、管理事務所へと駆けこんだ。


〔服〕「助かった。政木まさき君たちが来なかったら、俺いつまであのままだったのかと思うと」
〔仏〕「秋じゃなくてよかったな」
〔服〕「何で?」
〔仏〕「スズメバチいるじゃん」
〔服〕「いやあああっ。サブいぼたったわ」
 一時間近くぶりに青空を見た服部は、モアイのような目元を更に細めてかぶりを振った。

〈彼女とGo〉

 服部を回収した仏像が会場に戻ると、飛島一家に他三チームの姿が消えていた。

〔加〕「ゴー様おかえりなさーい。これから皆でお昼食べに行こうって話になったんだけど来ますよね(^_-)-☆。ひー君も来るよね」
 かつら多良橋たらはしの影に隠れてぶるぶると震える下野しもつけを回収すると、仏像は下野と一緒に山下をたてにした。

〔仏〕「俺ら行けないから」
 申し訳程度の女子地引網じょしじびきあみスマイルを繰り出すと、エロカナ軍団は奇声を上げながら仏像に駆け寄った。


〔多〕「Sitおすわりっ! ゴー君はお相手がいるのっ。君たちが好きにできる相手じゃないの」
 盛りの付いた女子高生を制する一言に、落研メンバーとプロレス同好会のみならず、サッカー部二名も色めき立った。

〔山〕「お前彼女いつの間に作ったの」
〔下〕「マジっすか」
〔仏〕「黙秘権もくひけんを行使する。それはそうと、シャモは」
〔多〕「二人きりにしてやろうかだってさ」

〔桂〕「節度を持って、清いお付き合いに留めなさい」
 桂は教師らしく、シャモに釘をさす。

〔三〕「でもシャモもう成人してんじゃん」
〔仏〕「生霊が未成年なんじゃ」
〔下〕「生霊っすよ。何万年生きてるか分からねえっす」
 三人がこそこそと言い交わす隣で、餌がシャモを指さした。

〔餌〕「大丈夫です。シャモさんから生気は完全に抜かれています。変な気を起こしようがありません」
 半解凍状態にはなったものの、シャモは焦点の合わない目でしほりに手を引かれるばかりであった。

※本作はいかなる実在の団体個人とも一切関係の無いフィクションです。


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