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【漬物レシピ】四季漬物鹽嘉言(1) 沢庵漬など

出典:国立国会図書館デジタルコレクション『四季漬物鹽嘉言

大坂天満の石田氏なる大根屋といへる人
  本願寺より御改革の役を蒙りし時
   御改革石田のおもみよくきゝて
 大根屋こそかうのものなれ
      浪花 春迺屋不美人

※ 「石田氏」は、江戸時代後期の商人 石田いしだ敬起よしおき。通称、大根屋だいこんや小右衛門こえもん。西本願寺の財政を立て直したことで知られています。
※ 「本願寺」は、京都の西本願寺。

出典:国立国会図書館デジタルコレクション『四季漬物鹽嘉言

上方にては 漬物つけもの押石おしいきとて、ごとべつこしらへおくなり。

生物なまものかすつけるには、おけ二重にぢうそこをこしらへ、あなをあけて、したぬかを入れおきみづをとるなり。

澤庵漬たくあんづけ
ぞくにいふ 沢庵たくあん和尚おせうの漬はじめし物といひ、また禅師ぜんし墓石はかいし まるき石なれば、つけ物のおし石のごとくなるゆへしか名つけしといふ。又、一説いつせつには たくわへ漬のてんぜしともいふ。なにはともあれ、人間にんげよう経済けいざいの品にして、万戸ばんこ一日もかくべからざるこうの物の第一だいいちなり。

大根だいこんせうよきをゑらび、つちあらひ、日あたりよき ところ乾場ほしばをしつらひ、十四五日乃至ないし廿日あみて日にかわかし、夜分やぶんしもげぬやうに手当てあてしてほして、小皺こじわ出来できたるほどを見てつけるなり。おけは、四斗しとだるさけ明立あけたて殊更ことさらよし。又、ふるき四斗樽をつかはゞ、米などを入れて底の間にはさまりゐるははなはだあしく、米粒こめつぶあれば酸味をしやうずる物なり。こゝろつくべき事なり。小糠こぬかもよくふるひ、小米のまじらぬやうにすべし。

ちなみにいふ、古き樽はしめしたりとも、塩水はもるものなり。用心あるべし。

※ 「しもげぬ」は、野菜が寒気や霜などで凍って傷まないようにという意味。霜げる。

出典:国立国会図書館デジタルコレクション『四季漬物鹽嘉言

一樽の 分量ぶんりやうは、ぬか しほ あわせて一斗、大根の大小によつて差べつあり。およそ、大根五六十本、又は七八十本、あるひは百本、小糠七升、塩三升、塩糠共によくもみ合せ、桶の底の方へは大根のふときをまわし、一段いちだん/\に糠をふりて漬るなり。随分 おしつよきをよしとす。水の一杯いつぱいにあがるを度とするなり。それより押石おしいきすこしゆるめ、塩水しほみづのこぼれぬやうにしてたくわふ。

是は冬よりつけて、あくるはる 正月口をあけるのなり。かくするは、二三月頃までにつかひきる仕法しはふなり。又、かうじまいを入るもあれど、それにもおよばぬことなり。押石、上方かみがたにては丸石まるいしは用ひず、つけものゝおしにつかふ石は石屋にてこしらへてうるなり。大小共かくのごとく手かけをつけおき、いくつかさねつむとも あぶなげなし。いたつてべんりよし。

又、四五月なつ土用どよう越には、ぬか六升、塩四升、五升五升と等分とうぶんにするもあり。糠をげんじ塩がちにすれば、いつまでもあぢのかわることなし。

※ 「おし」は、おす、おさえる力という意味。
※ 旧暦の月は現在より一ヶ月遅いので、正月は現在の二月にあたります。
※ 「仕法しはふ」は、仕方、方法のこと。
※ 「手かけ」は、 器物の手をかける所のこと。ここでは石屋で作られる押石には手をかけるためのくぼみが付いていることを指していると思われます。

※ 「なつ土用どよう」は、立秋の前日(現在の七月二十日頃)から秋の土用(立冬の前日)の入りまで。


同三年澤庵たくあん 又 五七年漬
としひさしくたくわへおくには、ぬかは右の 分量ぶんりやうじゆんじて、三年ならば ぬかを減じて、しほの方二升あまりし、五七年ならば四升斗りも増なり。一ケ年にあてれば、しほ七八合ほど余分よぶんにすべし。大根もなみより五六日ばかり かわすぎたるやうにほしてつけるなり。これとても水の十分にあがりたるとき、一端いつたんおしをゆるめて、大根に塩水しほみづすわして、又、もとのごとくにおしをかけるなり。沢山たくさんつけときは、おけを三ツ ぐらゐつみかさぬるもよし。

ちなみにいふ、多年たねんたくわふおけにはしほ分量ぶんりやう 年月ねんげつ一ゝいち/\たる書付かきつけおくべきなり。年月としつきすぐれば見わけがたきものなり。

出典:国立国会図書館デジタルコレクション『四季漬物鹽嘉言

澤庵たくあん百一ひやくいちづけ
あき茄子なすびしほおしにしてたくわへおきはるはやく口をあける。沢庵漬たくあんづけの大根のあいだに 右の塩押しほおし茄子なすびはさみつけるなり。塩押茄子のつけやう末に出せり。

一桶ひとおけつねより塩五合もげんじてよし。茄子の塩いづゆへなり。大根の風味ふうみいたつ加減かげんよく、茄子なすびにも大根のあまうつりてあぢわひよし。はるこうの物になすびはことさらめづらしく、きやくづかひにもなるべきなり。これ百一ひやくいちづけといふ。

出典:国立国会図書館デジタルコレクション『四季漬物鹽嘉言

きざみづけ
沢庵たくあん大根だいこんくき干葉ひばにして おほくたくわへおきて、惣菜さうざいに遣ひ、しるにすべし。右の茎の中よりやはらかき わかかぶをゑりおきて よく洗ひ、小一寸ぐらゐきざみて大根を短冊たんざくにうちて、くき等分とうぶんにまぜて、醤油せうゆだる一杯いつぱいならば、しほ一升ばかり入て よくもみ、手頃てごろなる押石おしいしをかけてつけるなり。十余日すぎてざつとあらひ、醤油をかけて、当座とうざぐひにすべし。なま漬は無用なり。すこしつきすぎたる方がよろし。

※ 「ゑりおきて」は、選り置きて。
※ 「つきすぎたる」は、漬け過ぎたる。

大坂おほさか切漬きりづけ
上方にてはくもじといふ。又、くきともいへり。

大根だいこんかぶ等分とうぶんくきともにきざみこみて、醤油せうゆだるならばしほ五合を入て よくもみあはせ、つよおしつけるなり。十余日を経てざつとあらひ、かたくしぼりてかうものばちいれおき菜箸さいっばしにて自分じぶんくうほど手塩てしほざらへとりて、べつにちいさき片口かたくちうつわ醤油せうゆを出しおき銘々めい/\にかけてくうなり。是《これ》、|醤油せうゆをかけすごしてもすたらぬやうに利勘りかんなる工夫くふうなり。上方かみがたにては、もつぱらすることなり。ぎれよく、いたつて淡薄たんぱくなる風味なり。

出典:国立国会図書館デジタルコレクション『四季漬物鹽嘉言

浅漬
ふとき大根をゑらみ、よく らひて水気みづけをかわかし、酒樽さかだるのあきたてへつけるをよしとす。大根五十本、はなこうじ一枚、しほ一升、かうじしほをよくもみあわせ、一段いちだん/\にふりて、その あいだごと新藁しんわらを十五六本づゝしくなり。

うへのかわにしほばかりつかみほどまき、押蓋おしぶたをして、つよおしにてつけるなり。水十分にあがりて廿日ばかりにてつきかげんなり。風味ふうみよき所 十余日のうちなり。れば酸味すみいづものなり。はやつかひきるがよし。

二丁町の茶屋にてつけるをことさら風味よしとす。一樽、二樽をも一日の内に得意とくい方へ音物いんもつにするなり。久しくたくわへがたき所なればなり。新わらをはさみつけるは色のよきためなり。

※ 「ゑらみ」は、選び。
※ 「音物いんもつ」は、贈り物のこと。
※ 「二丁町」は、江戸の二丁町にちょうまち(日本橋人形町あたり)のことでしょうか。中村座がある堺町さかいちょうと市村座がある葺屋町ふきやちょうをあわせて、二丁町と呼ばれたそうです。

大坂浅漬あさづけ
ほそき大根をあらひ、をさらず、くき共に四斗しとだるならば、しほ一升斗りをくわへ、おしをつよくしてつけるなり。水よくあがりて廿日ばかりをしてつかふ。是とてもきざみて醤油せうゆかけてふ。当座とうざ雑用ざうようなり。

出典:国立国会図書館デジタルコレクション『四季漬物鹽嘉言

過し頃 浪花にありける時
   茶粥にくもじといふ事を
        花笠文京

にごり江の なにはなしとも 朝茶かゆ
 ゆがみもじにて たうべたりける

※ 「くもじ」は、大坂おほさか切漬きりづけのこと。
※ 「にごり江」は、濁り江(水の濁っている入り江)でしょうか。
※ 「ゆがみもじ」は、ひらがなの「く」のこと。くもじの掛詞になっています。
※ 「たうべ」は、たうべ。頂く、食べるという意味。たうぶ。

『四季漬物鹽嘉言』📝
(1) 沢庵漬など (2) ぬか漬け 奈良漬けなど (3) 梅干しなど (4) 塩漬け他



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