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芝菌品(たけのしな)

出典:国立国会図書館デジタルコレクション『日本山海名産圖會 5巻 [2]

おふるをきn、又、じんといふ。木におふるをせんと云。

きんは、和名鈔わめうせう タケせんをキノミとよめり。きん数種すしゆあり。木菌もくきん(キクラゲノ類)、土菌ときん(ツチヨリ生する類)、石菌せききん(イハタケノルイ)とうにして、品數ひんすうはなはだおゝし。これ宋人そうひとちん仁玉しんぎよく菌譜きんふあらはして、はなはだつまびらかなり。本草ほんそうに云、およそきん六七月のあいだしつねつ [執+火] して、山中さんちうせうずるもの あまなめらかにしてくらふべし云々。しかれども、菌譜きんふ本草ほんさうするもの、本朝ほんてうあるところ多くはおなじからずして、こと/\くはべんじがたし。

これぞくにクサヒラとはいへども、和名抄わめうせうにては、菜蔬さいそをクサビラといへり。中国ちうこくおよび九州きうしう方言はうげんには なはといふ。尾張おはりりへんには みゝと云。

※ 「和名鈔わめうせう」は、『和名類聚抄』のこと。平安時代中期に編纂された辞書。
※ 「宋人そうひとちん仁玉しんぎよく菌譜きんふ」は、宋の陳仁玉が編纂した『菌譜』という書物。国立国会図書館デジタルコレクション『學圃雜疏』『香譜等合鈔』で見ることが出来ます。
※ 「本草ほんさう」は、明の時珍じちんによって編纂された本草学書。『本草ほんぞう綱目こうもく』。国立国会図書館デジタルコレクション『本草綱目卷【全号まとめ】』で見ることが出来ます。


出典:国立国会図書館デジタルコレクション『日本山海名産圖會 5巻 [2]

さいはいたけ
ぞくに、霊芝れいしといふ。 一名 科名草くわめいさう 不死草ふしさう 福草ふくさう
和訓わくん 又 カトデタケ サキクサ

本草ほんざう五色芝ごしきだけといふ仙薬せんやくなり。商山せうさん四皓しこうとり くらふてより群仙ぐんせん服食ふくしよくとす。また五色ごしきほか紫芝ししあり。以上いじやう六芝ろくしわかつ

なかにも紫芝ししは多し。地上ちじやうせうじて沙石しやせきちうあるひは、松樹せうじゆなどに一度ひとたびせうずれば、幾年いくねん同所どうしよせうず。初生しよせい黄色きいろにて、日を赤色あかいろび、ちやうじてむらさき褐色ちやいろくきくろふして光澤かうたくあり。かさうらきれずなめらかなり。あぢは五色ごしき五味ごみそなふこれ一菜いつさいに三たびはなさくの瑞草ずいさうにて、日本にほん延喜式ゑんぎしきにも祥瑞しやうすいたり。瑞命禮すいめいれい王者わうじや仁慈じんじなれば、芝草しさうせうずといふはこれなり。

※ 「商山《せうさん》」は、陝西省商県の東南にある山のこと。商嶺。南山。
※ 「四皓しこう」は、漢の高祖の時、世をのがれて商山に隠れた四人の老人(東園公とうおんこう綺里季きりき夏黄公かこうこう甪里先生ろくりせんせい)の総称。商山しょうざん四皓しこう


そのかたち一本ひともとはなれておふるあり。又、むらがせうずるもあり。又、一けいかさなせうじて、マヒタケのごときものあり。又、くきえだせうじて、かさあるもあり。又、かさなくくきのみせうじて たけじやくばかりに、えだせうじ、鹿しかつのごときもあり。これ鹿角芝ろくかくしといふ竒品きひんにして、先年せんね伊勢いせ山中さんちういだす。すべ品類ひんるい百種ひやくしゆ  ばかりなを竒品きひんもの本草ほんざう綱目かうもくくわし。

丹波たんばには、首途かどでいわひて、これおくる。伊勢いせにて萬年まんねんたけといひて、正月の辛盤ほうらいかざり、江戸ゑどには子コジヤクシといひ、仙臺せんだいにてはマゴシヤクシといひて、疱瘡ほうそうくなり。

※ 「辛盤ほうらい」は、辛盤(五辛ごしんれた盤で、正月に用いる)に、蓬莱ほうらい(蓬莱山をかたどった台上に、松竹梅、鶴亀、尉姥などを飾ったもの)の読みをあてているようです。


胡孫眼さるのこしかけ
これたけ種類しゆるい也。せうじてくきなし。おほなるもの四五尺にもおよぶ也。


香蕈しいたけ
一名 香菰かうこ 香菌かうきん 處蕈しよじん

日向ひうがさん上品じやうひん とす。おゝくは熊野くまのへんにもいだせり。しいの木にせうずるを本條ほんじやうとす。たゞし、自然じねんせいのものはすくなゆへに、これを造るにしいの木をきつあめたし、米泔しろみづそゝぎて、こもおほひ、日を經てせうず。又、かしの木をきりつくるもあり。とりて、日にかわかさずあぶかわかす。故ゆへに 香気かうきまつたし。又、さほ●しとは、木におひながらかわかしたるものにて、香味かうみはなはだ佳美かびなり。これ漢名かんめう家蕈かしんといふ。かたち松蕈まつたけのごとく、くき正中まんなかくものをしんとす。

出典:国立国会図書館デジタルコレクション『日本山海名産圖會 5巻 [2]

又、かん雷菌らいきんといふものあり。うたがふらくは、つくたけるいなるべし。通雅つうがに云、椿楡構杯などをおのをもつてうちり、そのかわひさしくあめたゞらかし、米潘こめのしるそゝぎ、らいおとけば、たけせうず。もしらいならざるときは、大斧おほおのをもつてこれてば、たちまちたけせうずこといへり。

これ香蕈しいたけつくはうのごとく、いま 和州わしう吉野よしの、又、伊勢いせ山などにつくりいだせるもの 日向ひうがにはまされり。そのはうは、枎移しでおゝくきりて、一所ひとところ にあつめ、すこつちうづめ、かきゆいまはして、かぜいとひそのまゝ晴雨せいうさらすこと、およそ一年斗 ほどよく腐爤ふらんしたるをうかがひて、かのおのをもちうちて、いれくのみにて、米泔しろみづそゝぐこともなし。されどもそのはじめおゝふるはすくなく、大抵たいてい 三年ののちを十分のさかとし、それより毎年まいねんおゝふるのすくなければ、又、おのれつゝ、年をかさぬなり。

はるなつあきで、ふゆはなし。その内、春のもの上品じやうひん として、春香はるこせうす。なつかさうすあぢおとれり。又、べつ雪香ゆきこいゝて、絶品ぜつぴんものふちあつく、形勢ぎやうせいまつたく そなへり。これ春香はるこうちよりえりいだせるものにて、うらなども潔白けつぱくなるをせうせり。

※ 「通雅つうが」は、明の時代に方以智によって編纂された語学書。
※ 「 和州わしう」は、大和国やまとのくに


出典:国立国会図書館デジタルコレクション『日本山海名産圖會 5巻 [2]

石耳いわたけ
一名 石芝せきし

熊野くまの天狗てんぐみね絶頂ぜつてう大巖おほいわあり。そのうへおゝせうず。みな山石さんせきじやうけわしき にあり。

夏月かげつくはねつ [執+火] のときは  はなはだ  せうにして 松蒳まつのこけ のごとく、おもて 黒色くろいろ裏青うらあをいろかたち木耳きくらげくきなし。くろところ いわにつきてせうず。

是を採には梯をかけ縄にすがり

これとるには、はしご をかけ、なはにすがり、あるひは、ふごに乗りて、えだよりつりさがり、などの所為しよいのごとし。よそめのおそろしさには似ず、さるづたふよりよりもやすし。うぐひすもかくのごとくしてるといへり。今、又、吉野よしのよりいづるものを 上品じやうひん とす。

或は
畚に乗りて木の枝より釣下り


附記
このたけしなはなはだおゝし。

松蕈まつたけ
松蕈まつたけは、山州さんしうさんをよしとす。大凡およそ牝松めまつにあらざればせうぜず。ゆへに、西国さいごくには牡松おまつおゝゆへ松蕈まつたけしくなくして、茯苓ぶくりやうおゝし。京畿けいき牝松めまつおゝきがゆへに、たけおゝくして、茯苓ぶくりやう すくなし。

※ 「山州さんしう」は、山城国やましろのくに
※ 「茯苓ぶくりやう」は、松の根に寄生するサルノコシカケ科のマツホド。松塊まつほど


出典:国立国会図書館デジタルコレクション『日本山海名産圖會 5巻 [2]

玉蕈しめぢ

布引蕈ぬのひきたけ

初蕈はつたけ
うら緑青ろくせうのごとし。尾張おはりへんにては、あをはちといふ。

滑蕈なめたけ
西国さいごくにては、水たゝきといふて、ふゆせうず。

天花蕈ひらたけ
高野かうやよりおゝいだし、諸木しよぼくにもせうず。

舞茸まひたけ
ひらたけにて、一茎いつけいおゝく、かさなせうはりのごとし。せうにして、さきむらさきなり。

木耳きくらげ
木耳きくらげは、樹皮きのかわつきせいじ、初生しよせいうす黄色きいろ赤色あかいろおびたり。とりかわかせば、黒色くろいろへんず。日本にほんにて接骨木にはとこのきせうずるを上品じやうひんとす。

桑蕈くわたけ
桑蕈くわたけは二しゆありて、かたきはくわ胡孫眼さるのこしかけ なり。やわらかなるは 食用しよくやう木耳きくらげ なり。このえんじゆにれやなぎ楊櫨うつきなどにみなたけせうず。

杉菌すぎたけ
杉菌すぎたけすぎ切株きりかぶせうじ、ひらたけに深山しんさんに多し。

葛花菜くずたけ
くず精花せいくわにして、紅菌べにたけこの種類しゆるいなり。是《これ》に|一種いつしゆはるなまずるものをうぐひすたけ、又、さゝたけといひ、丹波たんばにて 赤蕈あかたけ南都なんとにて 仕丁してうたけ とうあり。

雚菌おきたけ
雚菌おきたけは、あしはぎなかにせうずる 玉蕈しめじなり。九月ころにあり。

蜀格いのころたけ
蜀格いのころたけは、ハリタケとも り。つね針蕈はりたけにはことなり、本條ほんでうかさりてせうじ、かさのうらはりありいろしろくあぢにがし。

地耳うしのかわたけ
地耳うしのかわたけ  は、陰地いんち丘陵きうれう樹根きのねおゝせうず。あし みぢかおゝく かさなり  せうず。おもてくろ茶褐色ちやいろあり。うらしろくしてきれなく、皮蕈かわたけいろ くろく して、これ同種どうしゆなり。黒皮くろかはたけも、これおなじ。

蕈類たけるい大抵たいていみぎのごとし。このどくありて、食用しよくよう にせざるものおゝし。あるひは、  竹蓐すゞめのたまご  、竹林中ちくりんちうせうじ、土菌ども●たけ はキツネノカラカサともいひて、これにも鬼蓋きかい地岑ち●ん鬼筆きひつの種類あり。



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