見出し画像

妹の住む果てしなく遠い島は日本の遥か先を行っていた

10年と少し前、スペインに家族ができた。学生時代ドイツに留学し、そのまま就職して暮らしていた一番下の妹が現地で出会ったのが、スペインのカナリア諸島出身のFくんだった。優しくて、明るくて、穏やかで長身で超イケメン。おまけにとってもいい匂い。青森の妹と完全なる敗北宣言をし合った(笑)。

田舎の両親はスペイン人の婿殿ができたとびっくりし、父は私と青森の妹が結婚した時はけろっとしていたのに、末娘が異国の地で新生活をするための荷物を詰めながら、泣いていたらしい。簡単には行けない海の向こうっていうのがたまらなく寂しくて、切なかったのだろう。いつも肝がすわっているが、その時も母は強かった。娘が幸せならそれが親の幸せだから、と涙も見せずにあれこれ準備していたようだ。いつか自分もそんな境地になれるのかしら。子どもが成長するにつれ、親の気持ちを体感し、折々で感謝の念がこみ上げる。

さて、初めて2人揃って日本に挨拶に来た時、私たち家族はHola!しか言えず、英語もろくに話せないので、妹にほぼ通訳してもらい、何とか挨拶をした。言葉は通じないけれど、目を見れば人柄の良さが分かる。帰りがけに妹の肩にコートをかけてあげる時の優しい眼差しに、妹の幸せな未来を確信した。

あれから11年、妹は女の子を1人授かり、幸せに暮らしている。Fくんは家事も育児も自然にこなし、よくぞ巡り会えたと家族全員が感心するくらい素敵な人柄だ。

妹の国際結婚がきっかけで、これまで自分が信じて来た当たり前が、当たり前ではなくなった。日本は色々と保守的だと気づくきっかけになり、子ども達、特に2人の息子には自分のことは自分でやるように、ことあるごとに声をかけている。(典型的な昭和の日本人男性のパパさんにも聞こえるように。)

大人の凝り固まったゴリゴリの昭和な価値観を変えるのは簡単ではない。まずは自分が柔軟な気持ちで、臨機応変に変化して行こうと思う。世界に視野を広げ、俯瞰でものごとを見つめようと心がけて子ども達に語りかけているが、思春期の耳に届いているかは疑わしい。いつか大人になって思い出してくれたらいいか、くらいの気持ちで、「世界は広い、ちっぽけなことに捕らわれて視野を狭めるな、いろんな価値観がある、いろんな人がいるよ。」等と繰り返す私。かなり鬱陶しいに違いない。

男女平等、ジェンダーレス、LGBTQ、嫁や主人の呼称問題、夫婦別姓、育休などと潮目が変わって来たかのように見える。既存の制度を変えるのは、未来ある若者のパワーだと思う。その若者を育て上げるのが母ちゃんの使命だとすれば、日々の疲れも無駄ではないかもしれない。今日も頑張ろう。

海外生活経験ゼロの専業主婦母ちゃんが、ワールドワイドな感覚を子ども達に植え付けるのは至難の業だけれど、妹家族に刺激されて、何でもかんでもこなしてしまう母親像を少しずつ変えるよう、手を引き始めた。1歩下がって見守るのは忍耐力が要るが、大人も子どもも自立しなければ。成熟した人間形成の難しさに悩む日々はしばらく続くだろう。

親が人生を楽しむ背中を見せて未来に希望を持たせること、と何かで読んだ。閉塞感たっぷりな昨今、眉間にシワが寄りがちで、呼吸も浅い。ストレスで昨夏はさすがに陽気な私も奥歯が1本割れた。いけない、いけない、とにかく「笑う門には福来たる」で笑顔でいられる時間を増やして行こう。穏やかなFくんのように。おおらかで明るいスペインの家族のように。

姪は、「男性同士の結婚式と女性同士の結婚式しか出たことが無いの、男女のはまだなのー。」とある時笑顔で話していた。何て朗らかに話題にできるんだろう。そんなおおらかで素敵な国を1度は見てみたい。

毎年6月に日本に母娘で帰国し、8月末までゆっくり滞在する。向こうで食べられない新鮮な魚介、特に魚卵を堪能し、貴重な納豆や母の手料理を食べまくり、1年分を充電してスペインに戻る。1年おきに、Fくんと友人や家族も訪れ、そのたびに一緒に食事をしたりする。姪は日本語も堪能で、たまに通訳を面倒くさがる妹よりも丁寧に通訳をしてくれる。あの可愛い笑顔に会いたいなあ。

渡航制限されている今、妹は健気に、入手できる食材で和食をたまに作っている。日本で故郷に帰られない私とは比べ物にならない想いを抱きながら、それでも妹は生活を楽しむ工夫をして踏ん張っている。きっと家族と穏やかに微笑みながら。

妹が暮らすのはカナリア諸島のラスパルマス。年中常夏ならぬ常春の、暖かくて穏やかなアフリカの左側にある島。春には桜にそっくりなアーモンドの花が咲き、海が綺麗で自然に恵まれたリゾート島。

画像1

「いつ島に来るの?私ばかり日本に来てるよ。」と毎回姪に聞かれている我が家。行かなきゃね、必ず行くからね。

冒頭の写真はFくんが作ったシーフードパスタ。週末に親戚が集まり、ゆっくりランチをするのだそう。いつか本場の味を食べに行きたい。

Fくんは日本語を勉強している。片言で話が通じるようになった。一方の私は恥ずかしながら日々の忙しさを理由に努力の欠片も無い。今こそ始め時。ワールドワイドは母ちゃんからスタートだ。時間のある今のうちにスペイン語とパエリアをこっそり習得しよう。

この記事が参加している募集

一度は行きたいあの場所

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?