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第三回RANGAI文庫賞応募&第三回G氏賞応募作品 俳句連作『らんすゐ』

二年前に作ったやつなのでヒドい…。

『らんすゐ』  田中目八


罪輕き天使は海に雷去りぬ

海霧の美しく魅惑と嘘とあり

章魚の眼の昏きに浮上がる愉樂

鯖火燃ゆ影はうしろ髮となりて

春闇のみなもに招く鱗かな

春愁の戲る尾鰭からノクターン

春波の戀人搖るるヴオカリーズ

忘れ汐魂よばふ波乙女どち

幻氷を愛撫してをり水に飢ゑ

蝶よ蝶海溝に待つ婚約者

いなづまを逃れて水底に嫁ぐ

波に髮梳かせ恍たり十六夜

澄む水に朽ちて融けゆく愉悅かな

紅き澪產みて歸るや月白し

凩の果を破りてわだなかへ

たそかれの弦嗚咽して波の華

海淵に人子は生れず鐘氷る

さくら貝汝のかたちを失へり

望潮オルガンを離れゆくあぶく

夜は水の梅は木乃伊の香りけり

藤浪や穢隱匿して淫美

花冷や求むる膚の何時も濡れ

蝌蚪を呑み蛙を吐きし女かな

喉奧に何處よりするいづみの音

泉美し觸れてはならぬと泣く女

杯に游がせるなみだや素足

婚禮の誰も祝はずブラツクバス

盲人のはんざき愛す闇も水

汗に汗まじへて釀しゐる夜半

濡肌の薔薇の痛みや耽溺す

川骨やみづに觸れれば懷かしき

羅のまつはる膚の雫かな

肌脫ぎのあをきに流る美酒を

汗垂るる先に繋がる魚世界

ブレケケケクスブレケケケクス洗ひ髮

浴槽の女去りけり水中花

深淵をはんざきの吐く夜想かな

夜の桃に育ちぬ籠女みづに病む

死せばまた水に歸るや澤桔梗

水は死を抱きゐたり葡萄酒釀す

長き髮垂れある水面鳰の笛

水を出で髮瀆れゐる鵠鳴く

夜焚火や抱きあふ爲に半身捨つ

荒卷や吾妹に水域の呪縛

函に滿つ荒卷の香比丘尼の手

白息を緋に塗りこめて髑髏杯

寒凪に血の一滴や渾沌へ

みづは血を何時も求めて花の陰

花筏追ふ君をちに海の齶

水盤の果つや水盤に生る


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