マイクロノベル『キスチヨコの島』
犬と街灯さんで『読む前に書け』という15分でお題に沿って400字詰原稿用紙一枚に書くというイベントで書いたものです。
お題は私が出したチョコレート。
旧仮名、旧漢字に変えて400字の範囲で少し推敲してます。
僕たちの住むこの島から遠くに見える島はぼんやりとした三角錐のかたちをしてゐて、僕たちはそれをキスチヨコの島と呼んでゐた。
キスチヨコの島はいつも靄のやうなもので覆はれてゐて、白、ときには銀色に包まれてゐて、ここからでは島に家やマンシヨン、工場など、町があるのか、そもそも人が住んでゐるのかもわからなく、いろんな噂だけがこの島の住人よりも遙かに多く生まれては消えていつた。
さうしていろんな噂がすべて消えてしまひ、誰もキスチヨコの島のことを口にしなくなつた頃、島は跡形も無く姿を消してしまつてゐた。
そのことに氣づくと、またキスチヨコの島がどうなつたのかについて、この島の住人よりも遙かに多くの噂が生まれることになつた。
キスチヨコの島は今もたまに消えては現れてを繰り返してゐる。