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BFC2幻の2回戦作 俳句連作「あいてる窓から失礼しますよ」―文芸無宿(改訂版)

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「あいてる窓から失礼しますよ」―文芸無宿 田中目八


ずつと夢ずつと夢ゆめさるすべり

罌粟坊主猿も小文をものしたり

しんじつは頁を逃ぐるバナナかな

敗北の度に喰ひたし大鰻

頸キレイふんどし洗ふ裸かな

晩夏とはつはものたちが傷の跡


タゴール忌家が無いなら鳥を書け

西鶴忌マトの大きは芸の無き

十六夜やだむと踏込む八極拳

小指からたたみはじめよ鬼胡桃

鮭不鳴とびきりを世にぶちこみぬ

第一章以後は書かれずもみぢ散る


煮凝や生るるたびに世の震ふ

闘は祷りにひとし枯蟷螂

盡く苦闘なりけり埋け火活く

闘へば腹が減るなり鷹の爪

狼のゾンビは要らぬ痛みこそ

佇つことのすべては裸木で知つた


ゑうとらん者が持ち去るお年玉

これがマア最終稿か春隣


―改訂版発行にあたって―

この度「『あいてる窓から失礼しますよ』―文芸無宿」の改訂版を作るにあたり、作者の了承を得て初版には無かった句の読み仮名と季語の表記を巻末に加えた。但し作者の意向により季語の詳しい説明はリンクを貼るに留めた。リンク先は全て『きごさい』を遣わせて頂いた。参照されたい。

なお、※は版元である私、水鼓洞主人によるものである。快く許してくれた作者に感謝したい。

―俳句の読み仮名、季語及び注―

ずつと夢ずつと夢ゆめさるすべり(ずっとゆめずっとゆめゆめさるすべり)

季語:百日紅(さるすべり)仲夏

罌粟坊主猿も小文をものしたり(けしぼうずさるもこぶみをものしたり)

季語:罌粟坊主 (けしぼうず/けしばうず)晩夏

松尾芭蕉―初しぐれ猿も小蓑をほしげ也(猿蓑所収)―のパロディであろう。

しんじつは頁を逃ぐるバナナかな(しんじつはぺーじをにぐるばななかな)

季語:バナナ(ばなな) 三夏

敗北の度に喰ひたし大鰻(はいぼくのたびにくいたしおおうなぎ)

季語:鰻(うなぎ)三夏

頸キレイふんどし洗ふ裸かな(くびきれいふんどしあらうはだかかな)

季語:裸(はだか)晩夏

晩夏とはつはものたちが傷の跡(ばんかとはつわものたちがきずのあと)

季語:晩夏(ばんか)晩夏

※松尾芭蕉―夏草や兵どもが夢の跡おくのほそ道所収)―のパロディと思われる。

タゴール忌家が無いなら鳥を書け(たごーるきいえがないならとりをかけ)

※無季。タゴール忌はインドの詩人、ラビンドラナート・タゴールの忌日1941年8月7日。ここではタゴール忌を初秋の季語として遣っている。

西鶴忌マトの大きは芸の無き(さいかくきマトのおおきはげいのなき)

季語:西鶴忌(さいかくき)仲秋

※西鶴忌は、始め俳諧、後に浮世草子・人形浄瑠璃作家で名を成した井原西鶴の忌日である。 元禄6年8月10日〈1693年9月9日〉作者は大阪の人。

十六夜やだむと踏込む八極拳(いざよいやだむとふみこむはっきょくけん)

季語:十六夜(いざよい、いざよひ) 仲秋

八極拳は中国武術の一つ。作者は『拳児』世代である。

小指からたたみはじめよ鬼胡桃(こゆびからたたみはじめよおにくるみ)

季語:鬼胡桃(おにくるみ)晩秋 

鮭不鳴とびきりを世にぶちこみぬ(さけなかずとびきりをよにぶちこみぬ

季語:鮭(さけ)三秋

第一章以後は書かれずもみぢ散る(だいいっしょういごはかかれずもみじちる)

季語:紅葉散る (もみじちる/もみぢちる)初冬
※秋の部の句群にあることから、恐らく作者は季語:紅葉且つ散る(もみじかつちる)晩秋―と思い違いをしたと思われる。季節の並びとしては問題なかったのが救いではある。

煮凝や生るるたびに世の震ふ(にこごりやうまるるたびによのふるう)

季語:煮凝(にこごり)三冬

闘は祷りにひとし枯蟷螂(たたかいはいのりにひとしかれとうろう)

季語:枯蟷螂(かれとうろう)初冬

盡く苦闘なりけり埋け火活く(ことごとくくとうなりけりいけびいく)

高柳克弘―ことごとく未踏なりけり冬の星(「『未踏』ふらんす堂」より)―のパロディか。

季語:埋け火(いけび)三冬

闘へば腹が減るなり鷹の爪(たたかえばはらがへるなりたかのつめ)

季語:鷹の爪(たかのつめ)三秋

正岡子規の―柿くへば鐘が鳴るなり法隆寺―のパロディと思われるが、冬の句群にあるのにも関わらず秋の句が入っているのは明らかに作者のミスであろう。

狼のゾンビは要らぬ痛みこそ(おおかみのゾンビはいらぬいたみこそ)

季語:狼 (おおかみ/おほかみ)三冬

佇つことのすべては裸木で知つた(たつことのすべてははだかぎでしった)

季語:裸木 (はだかぎ)三冬

※「佇つ(たつ)」は俳人が好んで遣う言葉であるが、本来はたたずむの意で、訓読みでは「たつ」とは読まず「まつ」が正しい読みではある。

ゑうとらん者が持ち去るお年玉(ようとらんものがもちさるおとしだま)

季語:年玉(としだま)新年

※「ゑうとらん」は酔うとらん。

これがマア最終稿か春隣(これがマアさいしゅうこうかはるとなり)

季語:春隣(はるとなり)晩冬

小林一茶の―是がまあつひの栖か雪五尺―のパロディであろう。


―この作品について―

最後まで読んで頂いて有難うございます。ブンゲイファイトクラブ2という企画から派生発生した#BFC2幻の2回戦という企画に参加するために作った作品です。宜しければ皆さんの作品を読んで頂いて気に入った作品にご投票下さると嬉しいです。

―画像について―

最後になってしまいましたが「お気に入りの短詩に画像を添えて著者に想いを伝えるプロジェクトのまっしゅ」さんが素晴らしく素適な画像を誂えて下さいました。ご覧の通り素晴らしい見立てとなってます。まっしゅ(M*A*S*H)さんは「摩衆楼蘭feat.くま茶」名義で上記BFC2幻の2回戦作に連句で参加されております。ご興味持たれた方はぜひご覧になってみてください。まっしゅさん有難うございました。

目八 拝



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