七月の俳句など
あつあつを呉れる肉屋が手の汗よ
揚げたてのコロツケといふ五月晴
香水のひともいざなふ揚油
コロツケにのどごしのある水無月尽
盤上を歩むがごとし甲虫
甲虫PPバンド手締めして
段ボール箱に締め跡かぶと虫
片蔭の奥より伸びてくるチーズ
炎帝へ母の求めしピザトースト
トーストの皮剥がれたる夏の雲
ピザへ手を伸ばせば蜘蛛の糸なりし
ステージや鬼火の千変万化しつ
きみいろの鬼火に埋るドームかな
空蝉にプロメテウスは火を蔵し
エデンとは空蝉のなかくぐり抜け
元気さうに見えれば元気カーネーシヨン
カーネーシヨン笑へば祖の貌現るる
この夏のすべてに君やナポリタン
蜘蛛の囲を舞台へかへる童巫女
サイフオンの朝を木槿の溶くる雨
トーストや雨に透けたる木槿の端
珈琲店いまも木槿の雨のなか
トーストや木槿の端の雨に透け
どっち?或いは「や」切れより
バタートースト雨に透けたる木槿の端
バタートースト木槿の端の雨に透け
ハブランサス財布に入れてゐるシール
メヒカリの呪を膚に古のあを
サイフオンや生れて水母の大音響
くじらみな未生をひとと生れしか
花茄子やグリル喫茶を出て真昼
白鷺の去るに告げたり紫光せよ
うどん屋におはぎを買うて土用前
土用餅なくて買ひたるおはぎかな
粒あんのいま紫に晩夏光
ああ弥助汝のこゑに搗く夜船
あんぱんの空洞説に飛行船
文明はいまあんぱんと名をかへて
地獄八景いまあんぱんのところ
火は水を憧れ消ゆる百日紅
珈琲に錨を下ろす酷暑かな
空蝉をチンチン電車過ぎりけり
夏風邪といふははめ殺しの窓に
土用餅おのれを遺るものに入れ
鰻重を廃墟にしたるノスタルジー
鰻いま光速となる着いてゆく
アイスコーヒ替へ時らしき亀の水
近づけば亀藻掻きたる夏の雲
入口にゐるのは亀か黒南風か
万緑を乗せて何処へゆく亀よ
炎天に紛ふことなき亀の鬱
あさがほや大衆劇場おほき町
朝顔や冷たいシチユー食べる母
生贄の記憶にひらく大向日葵
ひまはりの不気味の下に待つてゐる
向日葵のバスは西へと弟よ
昨晩の残りいうれい温める
一晩に凝るいうれい冷や飯に
豆乳に幽霊打つが京豆腐
豆乳よりさつと幽霊汲みあげて
シロワニに何度も確かめる先生
ゼリーポンチを泳ぐ海豚の傷だらけ
海亀と太郎の裔と伯爵は
寒蟬鳴く街は数多のうろ抱へ
天帝にいまだ屈せず百日紅
いやはての口笛のごと晩夏光
蜻蛉の過ぎりて窓のさざれ波
じくと噛みしむる厚肉夏怒涛
始発待つひとびと翳り秋近し
市電保存されてザムザを待つ晩夏
潰されて悦ぶ覆盆子たんじやうび
苺ミルク歳の数だけ顔がある
バースデーケーキ半分八月に
秋日傘シヨートケーキのやうなひと
スポンジを透るひかりの馬肥ゆる
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