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ラデュレの彼


電子辞書をバックに忍ばせ、家を出た。


待ち合わせ場所は池袋。

私が東口に着いたとき、彼はすでにいた。

彼はシンガポール人で、1日前にサークルで知り合った。
ゲストとして来ていて、彼の半生をスピーチしてくれた。
あまり理解はできなかったけど、成功している人というのはわかった。


待ち合わせ場所に着いて早々、彼から可愛らしい紙袋に包まれた手土産をもらった。
ラデュレのマカロンだ。

当時の私は、「ラデュレ」を知らなかったし、マカロンも初めて見た。

いくらかも分からないけど、私が今まで食べたお菓子よりも高価なのは紙袋を見れば一目で分かって少し緊張した。

「ありがとう」

という言葉と、すごく嬉しい、というボディーランゲージも付け加えた。


サンシャインシティに行って、餃子を食べた。


ずっと緊張していて、味はあまり覚えていないけど、彼が入場料も餃子代も支払ってくれたことだけは覚えてる。


夜は、大戸屋に行った。

大戸屋を選んだ理由は、日本食を楽しめて、ご馳走してあげられる値段だからだ。


私は、甘酢あんかけ定食を、彼は、母さんのチキン煮を頼んだ。

彼は「おいしい、おいしい」と言いながら、チキン煮を頬張った。

日本の何が好きなのか、シンガポールはどんな国なのか。
そんな会話を楽しみながら、ゆっくり食事をした。

時々、彼の言う言葉が分からなくて、その都度電子辞書で検索をした。

音だけでは検索もできないので、彼にスペルを聞いたりもした。

手探りで会話をしていくのが、刺激的な体験だった。
どうして私がこんなことをしているのか、分からなかったけど、この機会にありがとう、という気持ちになった。


お会計の時、私が払おうとすると、彼がいいよ、というジェスチャーをして、全部払ってくれた。


今日は、人生で初めてのこと尽くしで、生きた心地がしなかった。



一時間と少しかけて家に帰った。

彼からメッセージが来ていた。

I like you :)

like you なんて初めて言われたから、どう返信したらいいか分からなかった。


今日は、本当に、分からないことが多い日だ。



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