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「僕と先生の話」

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長編小説。実直な主人公「僕」と、不思議な絵本作家「先生」の物語。(全43話・完結)
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2020年12月の記事一覧

小説 「僕と先生の話」 22

22.戦場へ 僕が1階に降りるまでの間に、着信音は止まった。それでも、僕は応接室に居る先生に…

坂元 稔
3年前
5

小説 「僕と先生の話」 23

23.倒れた忠犬 喫煙所に行くと、先生が室内の椅子に脚を組んで座り、何本目か分からない煙草…

坂元 稔
3年前
13

小説 「僕と先生の話」 24

24.鉄槌 夜の工場を訪ねてから、約2週間後。  僕が出勤するなり、先生は苦々しい顔をして「…

坂元 稔
3年前
6

小説 「僕と先生の話」 25

25.保護 複数の締切が重なる忙しい月を無事に乗り越え、先生は「一週間くらい、湯治に行きた…

坂元 稔
3年前
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小説 「僕と先生の話」 26

26.片鱗 翌日。松尾くんは、今日も和室の隅でぐったりしている。午前中は、特に調子が悪いら…

坂元 稔
3年前
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小説 「僕と先生の話」 27

27.逃走 その日、僕が出勤すると、出迎えてくれた先生は眼鏡をかけておらず、眼は真っ赤だっ…

坂元 稔
3年前
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小説 「僕と先生の話」 28

28.勇姿 松尾くんが逃走してから、4日目。僕が資料室で先生の最新作を読んでいると、先生が髪をぐしゃぐしゃに掻き乱しながら入ってきた。  先生は、僕の正面にある椅子に腰を降ろし、深くため息をついた。何日も眠っていないかのような、やつれた顔をしていた。 「お疲れ様です」 僕は、読みかけの絵本を閉じた。 「……彼の居場所が分かった」 「あ、良かったですね!見つかって」 「いや、決して良くはないんだ」 先生の表情は険しい。 「え……?」 「彼は……あの日、私の家を飛び出した後……現

小説 「僕と先生の話」 29

29.「死活問題」 これは、負傷した松尾くんが「退院できたら、先生に会いたい」という電話を…

坂元 稔
3年前
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小説 「僕と先生の話」 30

30.曇天 あれ以来、岩下さんは週に2〜3回訪ねてくるようになった。和室で仮眠を取ったり、2階…

坂元 稔
3年前
4

小説 「僕と先生の話」 31

31.「虎穴の主」を前に 僕は出勤日にも関わらず、先生に車を借りて古本屋に行き、自宅にあっ…

坂元 稔
3年前
6

小説 「僕と先生の話」 32

32.「過去形」にする 玄関先での攻防から数日。先生は寝室に閉じ篭りがちになった。「頭が痛…

坂元 稔
3年前
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小説 「僕と先生の話」 33

33.夕陽 松尾くんと再会できた翌日。僕が退勤する時間。  先生は、在籍中には必ずそれを被っ…

坂元 稔
3年前
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小説 「僕と先生の話」 34

34.元来の自分 僕はもう、漫画の描き方を忘れてしまった。人体や衣服を正確に描くことさえ、…

坂元 稔
3年前
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小説 「僕と先生の話」 35

35.再起 表記揺れを修正して印刷し直した物語を、僕は先生に手渡した。先生は、その場では読まずに「一人で じっくり読みたい」と言った。  数日後、先生は読み終わった物語を返してくれた。 「素晴らしかったよ。ありがとう」 「とんでもないです」 「あまりにも素晴らしいから……こんなものを描いてしまったよ」 僕が貸していた紙の束に続いて、普段、先生が絵本の原稿を入れているのと同じ封筒を手渡された。 「見てもいいんですか?」 「もちろん」 普段なら、絶対に開けてはならない封筒である