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吉田 修一 「路」 を読んで、今また台湾に行きたい

2000年に日本の商社が獲得した高速鉄道工事事業で、2007年から日本製の新幹線が台湾を走る。そのプロジェクトに携わった日本人女性が中心のストーリーです。始めは、プロジェクトX的なお仕事がんばる小説かなと思っていたが全然違って、面白くて一気に読んでしまった。

一昨年、台湾を旅行したときに、高雄から台北まで新幹線に乗っていた。正直、鉄道にあまり興味はなく、日本で走っているのとかわらずキレイな新幹線だな、JR西日本ってカンジだな、というくらいの感想だった。一緒に乗った友達が、流れていく風景を「岡山っぽい」と言って、そういえば岡山みたいな景色って結構あちこちにあるよねと大笑いしたのと、駅弁が異常に美味しくて盛り上がったのを覚えている。あれは楽しかった。読後の今乗れば、もっと感慨深いだろうと思います。

本の中でみんなが食べている台湾料理やスイーツ、家族連れが乗るバイク、街ごとの景色や空気のカンジが、旅行したときの自分の感覚と本当に近くて、読んでいて登場人物たちが目の前でリアルに動いているように想像できた。

いろいろな人物が登場するが、台湾で生まれて高校生まで過ごし、戦後の引き上げからは日本の高度成長期を生きた老人の話が、私は一番面白かった。なぜか、日本統治時代の台湾を勝手にほんの一時の出来事のようにイメージしていたから、台湾で生まれ育ち、思春期を過ごした人がいたことが意外な気がした。戦後生まれの歴史認識とは、本当に表面的で浅い。いや、私が不勉強なだけです。実際に統治された期間は1895年から1945年の50年間だから、自分のスケールで考えると、当事者として生きていたら、長く大きな影響を受けただろうと初めて理解した。

老人の話以外も、仕事よりは台日で暮らす人の7年間の日常がメインだけど、不思議なのは、精密に制御されハイスピードで走る鉄の塊を輸出する日本側の男性がみんな、個人としてはとてもデリケートで見ていて苦しいことだ。小さい男の子が声を上げて喜ぶような車輌を作る人たちは、内ではストレスを抱えてピリピリしていて、一人狭い世界に自分で囚われていくカンジ。対照的に、台湾の生活にすんなり馴染む日本人女性や台湾育ちの男性の明るさ、包容力に救われる。しかしこれは、著者が「日本人男性」だからこう書くのかな、と思ったりもする。

初めて台湾を旅行したときのことを思い出した。台北初日の夜、地元の常連さんが通うような食堂に入ったが、注文の仕方がわからずキョロキョロしていると、近くに座っていた学生っぽい男の子が、大丈夫?と英語で話かけてくれた。親切で嬉しかった。ここも魯肉飯がものすごく美味しくてとても満足し、単純に、台湾に旅行に来て良かったなと思った。

最近、ウイルス対策で台湾のニュースを見ると、何か羨ましい。若くて有能な人が、当たり前に活躍している。悲壮感がなく、前向きで合理的だ。また近々行きたいな。安心して出かけられるために、早く日本国内も落ち着くといいのだけど。






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