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Xの肖像

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筆者の気分とかなり連動しながらぐだぐだ書いてるオリジナル小説です。悩める中学生のお話。割と何もかもがすげー内向的な作品。諸々修正して投稿中です。
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習作⑥「創作は僕を救わない」

7月24日 天気:くもり、蒸し暑い

 本を読み、感想を言葉にすることは僕が人生において大切にしていることだ。しかし、どんなにインプットとアウトプットを繰り返したところで、いつも心の中にぐちゃぐちゃになった何かがそのまま残っていて、僕の心の中がちっとも満たされない感じがする。

 自分のことを自分の言葉で、自分のこととして表現することがこわい、こわいというか、許されないことだと思っていた。

 僕

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習作④-6「橋間④」

習作④-6「橋間④」

 昨夜、別れる前に、橋間が言っていたことを思い出す。
「俺は生きるのが怖いけど、君は死ぬのが怖い。だから俺たち2人とも不幸だろ、それじゃ、生きるのも死ぬのも怖くなくなったら、幸福になれると思うんだ」
 そのときは思わず橋間の顔を見たけれど、彼はいたって真面目な顔をしていた。今自分の言ったことが真理であると言わんばかりだった。    
 私はそんな安直な考え方に不覚にも、なるほど、と思った。世間の幸

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習作④-5「橋間③」

習作④-5「橋間③」

「君の気持ちはわからないけど、ある意味ではわかるかもしれない」
 ある夏の日の夕方、橋間はチューブのシャーベットを吸いながら足をぶらぶらさせていた。
「死ぬのが怖いのと死にたくないってことは違うんだろ」
 私はうなずいた。あまり実感の伴わないうなずきだった。
「俺たちはみんな人生に終わりがあるからまともに生きようと思えるんだよ、終わりがなきゃ、何したって構わなくなるからさ」
 俺は怖い、と橋間はぽ

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習作④-4『幽栖の夢』

『絶望とは憎むべき感情だろうかというのが、長らく私にとって最大の考察テーマだった。息苦しく、気がふれそうなほど苦しみに喘ぐ夜に、それでもその苦しみを愛せるかということが、この人生の行く先を決めると信じていた。』
 手に取った本の冒頭には、そんなことが書いてあった。
「苦しみを愛せるか……」
 難しいことを言っているなと思った。苦しみを愛せればそれはもう苦しみではないのではないか。
 僕は、発作で絶

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習作④-3「或る文学少女」

 がたんごとんと、世界が音を立てて揺れていた。繋がったまま走るいびつな箱の中には、信じられないくらいたくさんの人間がびっしりと詰め込まれていて、箱が揺れるたびに僕は知らない人間とぶつかってしまう。優しい人は、ごめんなさい、と言ってくれるし、僕も会釈くらいは返せるけど、酷い人は舌打ちしてくる。
 なかなか不愉快な乗り物だと思う。

 時刻は午前10時過ぎ。
 僕は隣市にある駅前の大きな本屋さんに行く

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習作④-2「橋間②」

 橋間に出会ったのは、私が仕事で手ひどく失敗した日のことだった。帰り道はめそめそしていたけれど、だんだんやけくそになって、コンビニに突入してお酒を買い込み、その足で公園に向かった。
 ベンチよりブランコの方がきれいだったのでブランコに座った。そのまま黙々とビールを喉に流しこんでいるとだんだん気が大きくなってきて、私はおもむろに靴を脱ぎ、靴下も脱ぎ、ブランコを漕ぎ始めた。ブランコに乗ったのは久しぶり

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習作⑤「Yについて」

 ときどき、苦しさが頂点に達しようとしたときに、思考が暴走することがある。そういうとき、僕は必ず、君を思い出す。

「僕は君を殺したい。君ごと僕の中にある卑屈さを殺したい。全部君のせいだ。君が悪い。僕が友達を、僕によくしてくれる人をいつまで経っても信じられないのは、君のせいだ。」

 これは、打ったまま消せないメモだ。

◇ ◇ ◇

 中学に上がったばかりの頃、こんな僕にもまだ友達がいた。その子

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習作④-1「橋間①」

 死ぬことが怖かった。
 中学生くらいの頃、夜にひとりでいるときに、いつか来るのであろう人生の終わりを想像して、途方もない恐怖に幾度となく襲われた。
 私の人生はどう終わるんだろう。病気だろうか、老衰だろうか、苦しむだろうか。いや、そういうのならまだマシだろうな、もしかしたら通りすがりに誰かに殺されてしまうかもしれない。もし私の終わりがそうだと決まっているなら、どうかひとおもいに、長く苦しませずに

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習作③「親愛なるこの夜に」

 頭が痛い。
 鼻の奥と胸の奥の気道がキュッと狭まってる感じ。息苦しい。
 低気圧か、くそ、外を見なくたって体調でわかる、わかってしまう天気。
 そして尋常じゃない気だるさと下腹部の違和感、ふらふらする浮遊感。何か支えが欲しい感じ。
 僕は床に座り込んで読んでいたサン=テグジュペリの人間の土地をベッドの上にぶん投げた。ベッドの上だから多少乱暴にしても受け止めてもらえると信じて。
 ため息が溢れる。

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習作②「フレッドと月さんの話」

 午前4時半頃。
 僕は緋色の研究を読み始めたばかりだった。ふむふむ、ワトソンはこういう人か、くらいのところまで。ホームズはヒーローのように見えてヒーローっぽくないところが好きだ。ちょっと科学的すぎるって素敵だ。

 そんなことを悶々と思いながら文字の海から引き上げて、僕は窓を開けた。
 少しひやりとした空気の中に、ぱらぱらという雨の音、煙たい匂いと、土の匂いと、葉っぱの匂いが滲んでいる。この完璧

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習作①「フレデリック・ダネイと多々野さんの話」

 じっと座ってるのは苦手だし、先生は大して偉くもないのに偉そうにしていて不愉快だし、みんなは休み時間になるとサッカーとか野球とかしかしないし、宿題はめんどくさいし、朝起きるの苦手だし、ご飯も早く食べられないし、要するに、僕は学校生活を送るのに全く適していない人間なのであった。
 みんな頑張ってるからお前も頑張れよ、甘ったれんなと言われても、そんな苦しい思いをしてまで学校に通わなくても勉強はできるし

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