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レストラン閉店に見るオーストラリア経済の現状


 オーストラリアで有名なレストランが次々と閉店していることが話題になっています。オーストラリアで起こっていること、オーストラリア経済全体の動きを解説したいと思います。

オーストラリアのレストラン業界の現状

 今回取り上げるのは、シドニーなどで有名なレストランが次々と閉店しているという話題です。

 シドニー地区にある有名シェフ、カイリー・クォン氏が2021年に開いた「ラッキー・クォン」が、わずか3年で閉店することを発表しました。カイリー・クォン氏は中国系オーストラリア人3世で、テレビにも頻繁に出演する有名シェフです。母親から教わった広東料理や、シドニーの人々に愛されてきた食事に、オーストラリアの先住民の食材などを加えて「オーストラリア・カントニーズ」という新しいジャンルを作り上げました。

 次に、シドニーで35年の歴史を持つ世界的にも有名な日本人料理人、和久田哲也氏の「テツヤズ」も閉店することになったと報道されています。和久田哲也氏は22歳の時にワーキングホリデーでオーストラリアに渡り、オーストラリアの有名シェフのもとでフランス料理を学びました。1989年にはフランス料理をベースにした懐石料理形式のコース料理を出す「テツヤズ」をオープンしました。その後人気店となり、数々の賞を受賞しました。2013年には日本政府から「Master of Cuisine Award」が授与されました。シドニーの中心部に日本庭園まで備えた素晴らしい店舗を経営していましたが、2024年7月で閉店することが決まったとのことです。

https://www.tetsuyas.com/

 この他にも、日本食レストランも閉店しているという情報があります。

閉店の背後にある経済的要因

 これらのレストランがなぜ閉店に追い込まれているのか、最大の理由はインフレによる賃金の上昇と高熱費の上昇が大きく影響していると見られています。

賃金

 オーストラリアの最低賃金は2024年6月まで時給23.23豪ドルでしたが、3.75%引き上げられて、2024年7月からは24.1豪ドルになります。これは日本円で大体2,500円ほどになります。去年は8.7%引き上げられていましたので、今年の上昇率はマイルドになっていますが、それでも近年、賃金が大きく引き上がってきています。

インフレ

 現在、オーストラリアは先進国の中で最もインフレに苦しんでいると言われています。他の多くの国でインフレが落ち着いてきたと言われている中で、オーストラリアは依然として厳しい状況にあります。6月26日に発表された5月の消費者物価指数は前年比+4.0%で、前月の+3.6%を大きく上回り、予想の+3.8%も上回りました。アメリカの消費者物価指数が+3.3%なので、オーストラリアの消費者物価指数の伸びがまだ高いことが分かります。

オーストラリアの労働市場

 オーストラリアは、パートタイマーの時給が比較的高い国で、パートタイマーも含めて賃金が粘り強く上昇する傾向があります。これは、オーストラリアの人々がオーストラリアの自然を愛し、広大な大地でのんびりと暮らすことができるこのオーストラリアの生活を愛しているからです。そのため、バリバリ働きたいというよりは、パートタイムでもいいからのんびり暮らしたい人が多いと言われています。人種に関わらず、パートタイマーを好んでやっている人も多く、パートタイマーの賃金が比較的高い傾向があります。
 企業側から見ると、人件費が高くつきやすいと言えます。一度賃金上昇がスタートすると、しぶとくインフレが高止まりする傾向があります。

 粘着性があるとされているいくつかの品目があります。それらの品目が上がってくると、粘着性があると見ることができます。その品目というのが1つはサービス、もう1つは家賃です。このサービスと家賃に粘着性、つまり継続性があるのは契約期間があることと関係していると言われています。
 サービスというのは人がサービスを提供することになりますので、そのサービスを提供する従業員の賃金の動向と密接な関係があります。

5月15日の米消費者物価指数発表に向けて

オーストラリアの製造業

 そして、資源を輸出する一方で、製造業などは弱さもあります。輸入の多い国でもあるオーストラリアでは、通貨安になってくると、輸入物価の高騰を受けてインフレに繋がりやすくなります。

オーストラリアの金融政策

 そのため、インフレを抑えるために金融政策で対応することが必要になります。現在、世界の中央銀行は利下げの時期を探り始めており、欧州のECBやカナダの中央銀行などはすでに利下げを開始しています。しかし、オーストラリアの中央銀行RBAは今月行われた会合で利下げの議論はしておらず、むしろ利上げの議論をしたと言っています。
 6月26日に消費者物価指数が予想を上回ったことから、次の会合でオーストラリアの中央銀行RBAが利上げをするのではないかという見方が強まってきています。この7月から所得減税が行われることも影響しています。

所得減税とその影響

 この減税策は元々前の保守党政権の時に行うことが決まっていたものです。現在の労働党政権になってから、より低所得者層が恩恵を受けられるように修正されています。金額にして230億ドルで、1,300万人以上が恩恵を受けるといった見方があり、GDPを1%程度押し上げると見られています。
 減税自体は経済にとってプラスに働きますが、こうした一種のばら撒き政策でまたインフレを押し上げるのではないかと見られています。中央銀行はインフレ抑制に前のめりになっており、それがまたいくらか成長率の伸びを抑えることになりそうです。

オーストラリア経済の長期的な視点

 オーストラリア経済はコロナパンデミックがあった2020年を除くと、1991年からずっとGDP成長率がマイナスになったことがないということで有名です。
 リーマンショックの時もマイナスにならなかったですが、足元のインフレの高止まりとそれを受けた金融引き締めなどで、このところ成長率は徐々に下がってきています。この背景にはオーストラリア最大の貿易相手国である中国経済が低迷しているということも影響しています。

レストラン業界の将来

 シドニーのレストラン業界の関係者の中では、2008年のリーマンショック後の金融危機よりも、今のオーストラリアのレストラン業界は厳しい環境にあるといった声も聞かれています。一度上がり始めた賃金上昇率が落ち着くのには時間がかかると見られています。そして、中国経済の低迷などのマイナス要因もあり、しばらくオーストラリアのレストラン業界は厳しい環境が続くことになりそうです。
 有名な日本食レストランも閉店しているというのはとても残念なことですが、しばらく上向くのは難しいかもしれません。


ご参考


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2024/7/1にInstagramを開設しました。
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