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フランスの政治変動と国債と株式市場への影響


 欧州議会選挙が終わり、フランスで総選挙が行われることが決まった結果、フランス国債の利回りが急上昇し、フランスの株式市場も大きく下落する展開になっています。今回は、このフランスの政治情勢について簡単に解説します。

株価指数と債券市場の動向

 フランスの代表的な株価指数は、6月10日から14日にかけての1週間で6%以上下落しました。債券市場では、欧州各国の国債の利回りを見る際、財政状況の良好なドイツとの利回りの差で見るのが一般的ですが、フランスとドイツの10年国債の利回りの差は、6月7日時点で0.48%でしたが、6月14日時点で、0.77%まで拡大しました。1週間での拡大幅としては 欧州債務危機の2011年以来の大きな動きとなりました。水準としても0.8%を超えてくると2012年以来ということになります。

選挙とその影響

 ここまで大きな動きになっている理由は、6月30日と7月7日に予定されている総選挙の不透明感と、選挙後に財政悪化の可能性が高まってきているためです。
 大手メディアで極右と言われているルペン氏の国民連合がどこまで議席を伸ばすかが注目されていますが、国民連合が一部の選挙区で中道右派と言われている共和党と選挙協力をする用意があると発表しました。どこの選挙区で選挙協力をするのかまだ不透明なところがあるようですが、一部でも協力できれば国民連合が過半数を取る可能性が高まると見る向きが強まりました。

国民連合と左派連合の政策

 国民連合については、これまでEUに反対的なことを言ってきて、拡張的な財政運営を行う可能性もある政党です。これを受けて、ユーロとフランス国債が売られる展開になりました。このような状況の中で、6月11日には、この国民連合に対抗すべく、今度は左派の野党4党が選挙協力を行うことを発表しました。
 オランド前大統領がこの左派連合の統一候補として出場を表明するなど、この左派連合がルペン氏率いる国民連合の有力な対抗馬になりそうな状況になってきています。しかし、この左派連合も財政拡張路線を目指す可能性が高いと見られています。むしろ、国民連合よりも財政悪化の可能性が高いと見る向きもあります。左派連合はこれまでマクロン政権が進めてきた年金制度改革を元に戻す方針です。つまり、年金の支給開始年齢の引き上げを撤回するということです。
 マクロン政権はどちらに転んでも財政悪化の可能性があるという状況になっています。これを受けて、フランス国債が売られる展開になってきています。

ECBの対応とその限界

 欧州の一部の国の国債が急激に売られた場合、ECBがその国の国債を買い入れて市場を安定させるトランスミッション・プロテクション・インストルメント(TPI:Transmission Protection Instrument)という仕組みがあります。
 
ただし、ECBはフランスに対してはこの仕組みが使えない可能性が高いと見られています。ECBは、2010年前後の欧州債務危機の時もそうでしたが、無条件に財政危機に陥った国を助けているわけではありません。ここがEUやECBの難しいところではありますが、財政悪化で困っている状況を助けて欲しければ、財政赤字を減らすなど、ECBが定める基準を満たす必要があります。
 EUに反対的なことを言っているフランスの国民連合は、EUやECBに従う気がなく、財政赤字削減策を打ち出していません。そのため、ECBが定める基準を満たすことができず、このTPIという仕組みを使うことができないと見られています。

財政状況と格付け

 フランスの財政状況は、2020年のコロナパンデミック以降、悪化傾向が続いています。5月31日には、大手格付け会社S&Pがフランス国債の格付けをAAからAAマイナスに格下げしました。こうした事態を受けて、フランス国債は弱い動きが続いていました。
 フランス国債については特にデフォルトが心配されるようなことはないですが、一層利回りが上昇するようだと企業の借入れコストの増加を通して実態経済にもマイナスの影響を与える可能性があります。
 フランス国債についてはユーロ圏だけではなく、日本も含めて世界の機関投資家がたくさん保有しています。利回りが引き続き上昇するようだと、世界的なリスクオフ傾向が続く可能性があるでしょう。フランス国債については、元々ドイツよりも利回りが高い一方で、財政状況はスペインやイタリアよりも良好だということで、ユーロ圏の国債の中ではミドルリスク、リスクを抑えつつ比較的高い利回りの投資先として長らく世界の投資家から注目されてきました。

選挙の見通し

 今回の選挙では、マクロン政権が負けるのが既定路線ですが、国民連合が過半数を取れるのか、左派連合がどこまで議席を増やすのかが注目されています。
 一方、どちらも過半数が取れない状況になり、その後マクロン大統領が首相を任命し、内閣が編成され、それに対して不信任動議が提出されたとしても、国民連合と左派連合が対立してその不信任動議を可決できない状況になれば、与党連合が生き残る可能性もあります。

今後の見通し

 今後の世論調査などの結果次第で、フランスに関するリスクを落とそうという投資家が増える可能性もあります。しばらく神経質な展開が続きそうです。また、動きがありましたらアップデートしていきたいと思います。よろしくお願いいたします。


ご参考

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