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欧州議会選挙の結果とマクロン大統領の戦略

 2024年6月9日、欧州議会選挙が行われ、予想通り右派が議席を伸ばしました。この結果を受けて、フランスのマクロン大統領は下院の解散と総選挙を行うことを決定しました。これにより、フランスではパリ五輪開催直前に選挙が行われることが決定しました。

欧州議会選挙の結果

 欧州議会選挙は、事前の予想通り右派が大きく議席を伸ばしました。
 中道右派と言われる最大の議席を有する欧州人民党(EPP)は、176から191まで議席を増やし、最大の議席を有する第一党を維持しました。
 中道左派と言われる欧州社会民主進歩同盟(S&D)は、139から135に議席を減らしましたが、引き続き第二党の座を維持しています。
 中道左派の欧州刷新(RE)は、102から83に議席を減らしましたが、引き続き第三党の地位を維持しています。

右派の議席増加とその影響

 メディアでよく極右と言われている欧州保守改革(ECR)は、69から72に議席を増やしました。また、アイデンティティと民主主義(ID)は、49から58に議席を増やしました。
 これらの結果から、全体として右派が議席を伸ばしたと言えます。しかし、EUの3大主流政党が過半数を維持する状況は変わらず、フォンデアライエン委員長率いる欧州人民党(EPP)が最大与党であるという状況も変わりませんでした。右派が議席を増やしたことはほぼ予想通りの展開であり、欧州議会に与える影響はある程度限定的です。

 欧州保守改革 (ECR)とアイデンティティと民主主義(ID) はメディアでは極右政党やEU懐疑派として一括りに語られることも多いですが、欧州保守改革 (ECR) はイタリアの与党であるイタリアの同胞などを中心としたグループであり、移民流入抑制などを主張しているものの、EU制度そのものには反対していません。そのため、一括りにするのは適切ではありません。

フランスの下院選挙の背景

 欧州議会選挙自体に大きなサプライズはありませんでしたが、この欧州議会選挙で、マクロン大統領率いる与党連合がメディアで極右と言われる勢力に破れたことを受けて、マクロン大統領は下院の解散を決定しました。そして、6月30日に第一回投票、7月7日に第二回決選投票というスケジュールで下院総選挙を行うことになりました。

マクロン大統領の戦略

 マクロン大統領は、今回の欧州議会選挙で与党が負けたことを受けて、国民に真を問うとしています。なぜわざわざ欧州議会選挙で負けたタイミングで選挙を行うのか、これは2027年の大統領選挙に向けた動きだと見ていいでしょう。

フランスの政治状況の変化

 もともとフランスでは、2022年の下院選挙の時に与党が大幅に議席を減らしており、現在下院では与党は過半数割れとなっています。現時点でマクロン政権は、様々な政策を進めるのが困難な状況になっています。
 先月末、格付け会社のS&Pがフランス国債の格付けをAAからAAマイナスに格下げしました。この時、S&Pはマクロン政権が柔軟な経済財政運営ができなくなってきていることを指摘しました。
 今のまま政権運営を続けても、今回の欧州議会選挙の結果からも分かるように、マクロン政権にとっては状況が好転するどころか、どんどん不利になっていく可能性もあります。そうであれば、意表をついたタイミングで選挙を実施した方が、マクロン政権にとっては、まだマシな結果になるのではないかという期待もあるかもしれません。

フランスの政治的「コアビタシオン」

 今回の一連の動きを受けて、フランス人に話を聞いてみると「コアビタシオン-Cohabitation」という言葉がよく聞かれます。「コアビタシオン」はフランス語で「同居」や「同性」を意味する言葉です。
 これから大統領と下院が「コアビタシオン」することになるということです。つまり、大統領はマクロン、下院はルペン氏が率いる国民連合が影響力を拡大すると見られています。
 これにより、マクロン大統領とルペン氏の二人が国政において同棲するというか、この二人が競争していく構図になっていくということが想定されています。マクロン大統領率いる与党も、2027年の大統領選挙に向けて、ルペン氏とどう戦うかが最重要課題になっています。

今後の展望

 今回の下院選挙は、それを見据えた動きだと見られます。仮に下院選挙でルペン氏率いる国民連合が躍進したとしても、その後、国民連合と下院で直接やり合った方が、大統領選挙は有利に戦えるのではないかという考えもあるかもしれません。

ルペン氏の政策変化の可能性

 これまでルペン氏はEUに懐疑的な発言や人種差別的な発言もたくさんしてきていますが、実際に政権を取ったら、イタリアのメローニ氏同様、EUを内側から変えていく方向にシフトチェンジするのではないかという見方も多いです。マクロン政権としては、ルペン氏が過激なやり方を封印してくれた方が都合が良く、大人しくさせてから戦った方が有利だと見る向きもあります。

総括

 以上が、フランスで選挙が行われることになった件についての詳細な解説です。今後も引き続き、フランスの政治情勢について最新の情報をお届けしますので、どうぞよろしくお願いいたします。


ご参考

 マクロン政権は増税しないで財政赤字を減らす方針を示しています。これが国債相場を支えています。しかし、増税しないで財政赤字を減らすためには歳出を減らすしかありません。歳出を減らすとなると、2024年の経済成長の足を引っ張る可能性が出てきます。

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