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生きづらさを抱える人。愛着障害について

愛着とは

愛着(アタッチメント)とは、ストレスに対する反応性や耐性、恐れの強さ、鎮静性などの乳児の気質的特徴と、養育者の乳児に対する応答性との相互作用の積み重ねによって形成される情緒的結びつきのことで、心理学の学術用語として初めて用いたボウルビィは愛着とは、「生存や安寧を確保するために、乳幼児が養育者に庇護を求めること」としています。

安定した愛着が形成されると、養育者を安全な避難場所である「安全基地」として、外の世界でも人間に対する信頼感を築くことができるようになると述べています。また、安全基地は3歳頃までに作られるとしています。

ボウルビィの愛着行動の発達

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心の安全基地

アメリカの発達心理学者であるメアリー・エインワースも1982年、人間の愛着行動の概念である「心の安全基地」を提唱しました。子どもは親との信頼関係によって生成される「心の安全基地」の存在によって外の世界を探索でき、帰ってきた時は安心できるのです。必要な時にしがみつける「心の安全基地」があるおかげで、大変なことを乗り越えていけるのです。しかし、安全基地であるはずの対象が不安定だったり、期待した時に不在になったりすると、子どもは不安を感じるようになります。それが継続的になると、発達にも良くない影響が出るのです。

現代においてはこの概念は子どもだけでなく、大人にも通じるものがあると言われており、パーソナリティの発達にも影響しています。

健康状態にも影響する「愛着」

精神科医の岡田尊司は「愛着障害 子ども時代を引きずる人々」の著書の中で「愛着障害とは、人が人をいたわり、世話をし、愛情をかけることにおける躓き」と述べ、その愛着スタイルは対人関係から健康まで左右するとしています。

このことは、われわれ大人においても基本的に同じである。安定した愛着によって、安心感、安全感が守られている人では、仕事にも対人関係にも積極的に取り組みやすい。
子どもであれ大人であれ、無気力だったり、消極的だったり、前向きな努力から逃げてしまいがちだったりするとき、そこには愛着の問題がひそんでいることが多い。無気力で逃避的なことを責める前に、安心できる居場所という「安全基地」がまず確保されているかどうかを、考えて上げることが先決だろう。もし安全基地を与えるよりも、脅かすことをしているならば、その点を改めるだけで、事態は好転するだろう。

「安全基地」を確保している人は、外界のストレスにも強い。さらに言うと、幼い頃にしっかりと守られて育った人では、大人になってからも、自分を守ることができやすいのである。
たとえば、ある研究では、二歳の時点で親から十分なサポートを得られた人では、青年期に恋人に、気軽に頼ることができる傾向を認めている。逆に言えば、二歳の時点で、親からの支えが乏しかった子どもでは、恋人にうまく甘えられないということである。愛着スタイルや愛着の安定性が、なぜ、うつ病やアルコール依存症の発症リスクに関係しているのかは、この点と無関係ではない。

https://www.clinic.kokoro-support.net/menu2-n.html より


愛着のタイプ

子どもの愛着を測定するためにエインズワースによって開発されたストレンジ・シチュエーション法によると、以下のタイプに分けられる。

ストレンジ・シチュエーション法は、養育者と子どもが遊んでいる時に、養育者が部屋から出た時の反応(分離場面)と、帰ってきた時(再会場面)の子どもの反応を観察する方法です。

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・回避型:養育者が子どもに対して拒絶的だったり、支配的であるため安全基地が機能していない。そのため、愛着行動は見られず、分離時の不安もない。また、再会場面でも自分から養育者に近づこうとしない。
・安定型:養育者が子どもの様子に敏感で、寄り添う態度であるため、養育者が安全基地として機能している。愛着行動を最も多く示すタイプで、分離場面では不安を表出するが、再会場面では自分から接近し、安心を得ることができる。
・抵抗/アンビバレント型:養育者は子どもの働きかけに無関心で、子どもへの働きかけがなかったり、気分次第では反応したりと一貫性がなく子どもは混乱する。そのため愛着行動は見られるが、安全基地としては機能が弱く不安定。そのため、分離場面では強い混乱を示し、安心するはずの再会場面でもなかなか混乱が収まらない。
・無秩序型:虐待的な養育を受けている可能性があり、養育者も精神的に不安定である。そのため、安全基地として機能しておらず、子どもの行動にも一貫性がない。分離場面、再会場面でも行動が安定せず、予想できない行動をとる。子どもに心的外傷がある可能性もある。


愛着障害

愛着障害には対人関係のパターンが全く異なる2つのタイプがある。

・反応性型:養育者に進んで愛着(アタッチメント)を求めることがないことを特徴とした障害。助けが必要な場面で助けを求められない。人との交流を求めない。表情に乏しいなどの症状がある。ネグレクトとの関係性が示されている。
脱抑制型:初対面の人に対し、不適切に過度に接近し交流を持とうとする特徴がある。


治療

心理療法やカウンセリングが推奨されています。心の安全基地を再び作ることが望まれます。愛着障害は、他の精神疾患を合併していたり、ASDやADHDと症状が似ていることもあり、愛着障害の治療を希望する時は、愛着障害に詳しい医師やカウンセラーに相談することをお勧めします。

<子どもに対して>
・安全基地の再構築
・養育者の支援(安全基地になっていない背景に養育者の困りごとがあることがある)


<大人に対して>
・身近な人との関係を安定したものにする
・自分が理想の親になる。自分で自分を認める。


最後に、岡田尊司先生が愛着障害を克服した人に対する言葉を記したいと思います。愛着障害を抱える方は、傷つきやすく、対人関係でつまづきやすいとされていますが、乗り越えていける気持ちになれる言葉です。

「愛着障害という根本的な苦悩を乗り越えた存在は、人を癒し、救う不思議な力をもっているのかもしれない。その人自身、自らの愛着の傷を癒すためにも、人を癒すことが必要なのだ。その過程を通じて、癒す側も癒される側も、愛着障害に打ち克っていけるのだ。」

<参考文献>
・公認心理師必携テキスト.福島哲夫編集.株式会社学研メディカル秀潤社発行.2018年5月.初版第4刷.
・愛着障害 子ども時代を引きずる人々.岡田尊司.光文社発行.2011年9月

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