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《土木文学》「戊辰鳥 後を濁さず」第35話

四月十九日(金)

 二階の三部屋目。つまり、今朝まで新婚夫婦が泊まっていた部屋を掃除している。これで全ての部屋を掃除できたが、宿泊者は、またジンベエザメのみと戻ってしまった。

 近年は、働き方改革の浸透やコロナで外出自粛を余儀なくされたことで、急速にテレワークの仕組みが発達した。そのおかげで、自由な働き方ができるし、住む場所を自由に選択できる時代となった。

 住んでみて嫌であれば出ていけばいい。
 そう。あの人のように。

 思い出したくもないし、土地のせいには断じてしたくない。
 ただ、残された私にとって、この2haを上回る土地はあまりにも広すぎる。

 全て農業組合の制度を使って、タダ同然で仲介管理をしてもらうのもいいが、自分の土地を素性すじょうの知らない誰かに耕される。いや、しっかりと耕してもらえず、土地を死なせてしまうといった想定できない様々なリスクもある。

 住んでみて嫌であれば出ていけばいい。
 そうはいかない。

 時代は確かに変化した。ただ全員が一律にその恩恵を得られるわけではない。
 カピバラ市民一人一人に一つ一つ異なる事情がある。

 だめだ。私もbadに入りそうだと思った時、先ほど登録完了した民泊版マッチングアプリ「ワラビー」の通知が鳴る。

 宿泊予約だった。
 名前は、Jomthong
 馴染みのない外国人の名前だった。

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