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《土木文学》「戊辰鳥 後を濁さず」第34話

四月十八日(木)

 なんだか追い抜かされていると実感したのは、サッカー少年団の高学年クラスの時だった。
 中学校のサッカー部は数名しかいなかったため入部は諦め、高校生になってようやくサッカーに関われた。
 部活のマネージャーとしてだったが、それでも嬉しかった。

 高校サッカー部は近隣の学生が集まったローカルチームであったが、高校教諭であるにも関わらず、現在A級ライセンスを持つほどの指導者が顧問をしていたため、強い選手が集まり、最終的に全国高校サッカー選手権神奈川県予選準優勝という華々しい結果を残したチームであった。

 質実剛健しつじつごうけん、文武両道を掲げる我が校は、旧制中学であり歴史も古く、学区内トップの高校であった。そんな公立の進学校であるにも関わらず、やってることはどうなのか、サッカー推薦というものがあるという噂で、部員はみんな幼いうちからサッカーに打ち込んできたエリートたちであった。

 そう、一人だけを除いて。
 一人だけ紛れ込んできたサッカー素人がいた。
 それが、自称生物部推薦で合格してきたモグラである。

 モグラは初日から練習についていけず、メンタル的にはこらえていたが、数ヶ月後、右膝が爆発した。リハビリは半年に及び、「素人+ブランク」で、もうついていけないと思ったようだが、何故か部活を辞めることはなかった。
 そのため、そのまま三年生のインターハイ終わりの退部までリハビリメンバーだったが、部員のほとんどから相手にされていなかった。

 その時から、モグラに逃げ癖がついたようだが、私は知っている。

 毎日、部室の掃除をしていたことを。
 毎日、校外をランニングしていたことを。
 10kmマラソン大会で、部活内でビリ3だったことを。
 私は、その時、女子の部の5kmが精一杯だった。

 懐かしいな。と、結婚式の余興でモグラがくれたサッカーボールを見て思う。カラフルに高校サッカー部全員のお祝いメッセージがサインされている。

 一週ぐるっと、メッセージを読み、ゴミ袋に入れる。
 さぁ切り替えろ。あともう一部屋、整理整頓をせねばならぬ。
 これからどんどん予約が入ってもらわなければ困るんだ。

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