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《土木文学》「戊辰鳥 後を濁さず」第72話

七月十三日(土)

 今日は横浜戦だ。
 会場は新国立競技場。Jリーグが昨年から開催し出した「THE国立DAY」というやつだ。
 とは言っても、私は民泊の駆けつけ要件で神宮外苑なんて行けるはずもなく、最近はサブスクの配信アプリ「ジュゴーン」での観戦の日々が続いている。そんな、私のことを心配してくれたのか、横浜サポーターのシロクマが私の家に来て母屋のTVで、あいまみえることとなった。応援合戦だ。

 シロクマは横浜の攻撃的なチームに対するフォワードの意見を。
 私は守勢に立つチームであるアロワーナに対してディフェンダーとしての意見を述べる。
 やはり、サッカーは誰かと見たい。会場に行きたい。しかし仕方がない。

「ありがとう。シロクマ。」と、ハーフタイムに感謝の言葉を伝えた。

「トキ。お前、ありがとう。っていうようになったな。すっかり旅館の女将だな。」

 そうである。私はモグラの死後、なるべく感謝の気持ちを持つように心がけた。
 それが習慣化したのか、自然と出るようになった。今までは否定的に物事を捉えていたが、モグラのおかげでこの年になって変化することができた。モグラにも感謝したい。と、そのようなことをシロクマに伝えた。

「ありがとう。っていうのは大事な言葉だ。だが、お前モグラのやったことを美化してねぇか。もぐらはクズじゃねぇいいやつだったが、やったことはクズだ。自分を愛せるかが大事なんだ。
 人間な、誰しも良い時、悪い時の波ってやつがある。その悪い時に、死んでいい。自分を愛さなくていいってなったら困るだろ。
 結局自分を愛せるのは自分しかいないんだ。
 だから、自分を愛していいんだって、俺たち親は伝え続けなきゃいけない。
 こうやって言葉じゃなくて、態度でも何でも。
 だから、モグラはクズかもしれないけど、クズじゃないと思って、愛すんだ。
 いいところを探すんだ。
 あいつはいい笑顔をしていた。心のうちに熱いもんを持っていた。
 それだけで十分じゃねぇか。それが、好きだった。
 だがな。自分で死んだやつのことなんかもう聞きたくねぇ。
 あいつのことは思い出させんな。
 あいつはクズだ。さぁ後半だ。」

 その発言は許せなかった。

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