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[修行日記⑧] 衆寮(しゅりょう)

 旦過寮に入り7日程経った頃、入堂 ※1 が許されました。入浴が許され全身が石鹸の香りに包まれました。そして温かいお茶とすりこぎ羊羹 ※2 を一本頂きます。「まずはミッションを一つクリアした…それにしても羊羹が美味しすぎる!!」と少しだけほっとした瞬間でした。
 僧堂の裏手にある衆寮に移り、最初にいただく配役は「鍾洒」です。鍾司兼洒掃の略で鐘を鳴らしたり掃除をすることがおもな仕事です。修行僧は時計を身に着けていません。起床から食事、掃除、法要、就寝などすべて鐘や太鼓、大梵鐘等の音で確認し行動に移しますので、タイミングや鳴らし方を間違えてはいけない重要な仕事です。掃除にしても塵ひとつ落ちていないよう、使用する様々な道具も汚れなど無いように準備します。
 衆寮に入り数日経った頃、毎晩開かれる反省会で、自分はきれいにしたつもりでしたが掃除が行き届いていなかったことを伝えました。「~略~○○の掃除が不十分だった為△△さんより御注意・御指導いただきました。失礼いたしました!!」と言った後の古参和尚さんとのやり取りで返事の仕方が悪かったのか古参和尚さんの怒りにふれてしまいました。
 即座に旦過寮へと逆戻りです。「まさか︙逆戻りってあるんだ︙」と相当へこみました。しかし7番上山の他の7人は私の姿を見て絶対に同じ過ちを起こすまいと誓ったはずです(笑)
 数日後無事に衆寮に戻りましたが、失敗が無かったわけではなく、鐘の鳴らし方を間違えたり、食事の作法が悪かったりと毎日のように怒られていました。当時のノートには覚えなければならない事柄がぎっしりと書かれています。必死に覚えて身につけなければ前に進めないのです。学生時代には無かった切羽詰まった状況でした。
 そして4月初旬、さらに早起き、覚える事盛り沢山な「大庫院 ※3 」へ転役することになりました。(第九回に続く)

※1 僧堂に入ることを許される。
※2 門前のお土産屋さんでも販売している筒状の羊羹。
※3 永平寺の台所。修行僧の食事やお供えするお膳を作る。
本山での規則、指導内容は当時のものです。

齊藤崇広
平成2年新庄市生まれ。曹洞宗大本山永平寺での修行を経て、現在は横浜の寳袋寺で納所中。


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