燃えつきた棒

#名刺代わりの小説10選: 「ユリシーズ」/「百年の孤独」/「砂の女」/「苦海浄土」/…

燃えつきた棒

#名刺代わりの小説10選: 「ユリシーズ」/「百年の孤独」/「砂の女」/「苦海浄土」/ロマン・ガリ「夜明けの約束」/「失われた時を求めて」/「城」/「ダロウェイ夫人」/「薔薇の名前」/イヴォ・アンドリッチ「ドリナの橋」

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安部公房全集003

「保護色」: 【「(略)カメレオンは皮下に多くの色素粒をもった色素細胞があり、視神経を通して外界の色がこの細胞に伝えられると、一定の色素粒だけが選択的に拡散または集合し、体色変化が起きるのです。(略)私の学説が正しいとすれば、あなたのような人が続出し、やがて人類の過半数が保護色を呈するようになるはずです。】/ 案外、もうすでに多くの人類が保護色を持っているのではないか? 周りが赤なら赤に、周りが黒なら黒に、自在に体色を変化させることができれば、いつだって絶対に多数派でいるこ

    • 安部公房『飛ぶ男』

      そうだ、安部公房を読もう! 自前の動力ではまったく走れなくなってしまったので、新潮社の「安部公房生誕100年」キャンペーンに乗っかってみることにしました。 まあ、動かなくなったポンコツ車が、レッカー車に牽引されていくようなものか。/ 「飛ぶ男」: 【仮面鬱病の専門家の診断によると、保根はとくに生徒の獲物になりやすいタイプなのだそう言えば】/ 自慢じゃないが、「獲物になりやすいタイプ」といえば、僕をおいて他にはいないだろう。 鈍重で足元もおぼつかず、群れからはぐれやすく、

      • 芸術新潮 2024年3月号 「わたしたちには安部公房が必要だ」

        雑人、雑兵の僕には雑誌ぐらいがちょうどいい。 集中力を欠いていても、完食しなくていいのがいい。 つまみ食いならまかせておけ。 安部公房は、高校生の頃に出会って以来、ずっと精神的な父とも慕う作家だ。 もちろん不肖の息子であり、御本尊はいい迷惑だとは思うが。 安部公房の作品は、そのほとんどが今でもくっきりとイメージを刻んでいる。 『砂の女』、『燃えつきた地図』、『他人の顔』、『壁』、『棒になった男』等々。 もちろん、ファンだから、安部公房スタジオの演劇や、勅使河原宏の映画などを何

        • 一枚のコインの裏と表

          大谷選手の活躍が連日テレビニュースで取り上げられている。 僕は特に野球ファンというわけではないので、普段大リーグ中継は観ない。 どちらかと言えば、その時間があるならもっと海外や国内のドキュメンタリーを放送してほしいと思っているほうだ。 僕が気になるのは彼の年俸の方だ。 大谷の年俸は約100億円だそうだ。 僕が好きなサッカー界にはメッシがいる。 彼の最高年俸は、四年間で約858億円というのがあった。 大谷選手が、元通訳の男に24億円をかすめ取られた事件があった。 庶民にとっては

        安部公房全集003

          夢の中での日雀

          改札で切符を出すと、駅員にキセルを見咎められて、三百十円払わされた。 駅員の嫌な笑い。 身体中から嫌な匂いが噴き出してくる。 アパートへ帰ると父が来ていて、中野のアパートに住んでいる母と、またいっしょに住むことにしたと言う。 すわと部屋を出たところのバス停に来たバスに飛び乗る。 乗ってからはじめて気づく、このバスで中野に行けるのだろうか? ふらふらよろめきながら、バスの前に移動して、運転手に聞けば否。 ただちにバスを降り、タクシーに飛び乗る。 乗ってからはじめて気づく、母の住

          夢の中での日雀

          哀しみの街

          母の手を引いて なんども行ったスーパー  もう行けなくなった  母と通った病院も  いつも母がぼくの迎えを待っていた施設も  デイサービスも  もう行けなくなった  もちろんぼくはその街に もう住んではいないのだから  行かなくてもいいのだが  ふと気づく  この哀しみがウクライナと共鳴するのだ  あの街は 哀しみの街  母の思い出の住む街 ぼくの心に住んでいる街 

          金井美恵子『映画、柔らかい肌。映画にさわる』

          Filmarksという映画のレビューサイトに登録しているが、普段映画を観ても、めったに感想は書かない。 本を読んだ後のようには、すっと言葉が出てこないのだ。 そんな僕からみると、次から次へと泉のごとく湧き出てくる金井美恵子の映画にまつわる蘊蓄はすごい。 だが、あまりにも僕と趣味が違うので、思わず笑ってしまう。/ 【ーーよく、無人島に持っていく一冊の本は?という問いがあるでしょう。一本の映画といったら、何を持っていくか。(略) 金井 (略)ジャン・ヴィゴの『アタラント号』(一

          金井美恵子『映画、柔らかい肌。映画にさわる』

          須賀敦子『トリエステの坂道―須賀敦子コレクション』

          悲しみを癒すために、また須賀さんの力を借りることにした。 須賀さんの文章を読むことは、いつも僕を深く癒してくれるから。 本書の登場人物の多くは、イタリアの陽光の下で、みな濃い影の部分を持っている。 知能指数がかなり低く、問題児で、何度も警察の厄介になっているトーニ。 父と兄、妹を早くに亡くし、自らも四十一歳で急死する須賀さんの夫、ペッピーノ。 大半が戦争や病気などで夫を亡くした鉄道員官舎の人々。 貧しくて孤独で、それぞれの不幸せを抱えた小さな人々。 映画でいえば、ピエトロ・

          須賀敦子『トリエステの坂道―須賀敦子コレクション』

          夏目漱石『坊っちゃん』

          しばらく前から「坊ちゃん」が読みたかった。 だが、あいにく「坊ちゃん」は手元になかった。 そうこうしているうちに、時代劇専門チャンネルで「夏目漱石の妻」というドラマを観た。 英国留学帰りの漱石が神経衰弱の発作を起こす。その姿の痛々しいこと。 病を抱えつつ生きた漱石への親近感がにわかに増してくる。 そんなことで、kindle Unlimitedで「決定版 夏目漱石全集」をダウンロードした。160作品、7187ページがkindle Unlimited会員だと無料で読めるのはお得で

          夏目漱石『坊っちゃん』

          夏目漱石『吾輩は猫である』

          《さあさあお立会い! 御用とお急ぎでなかったら、ゆっくりと聞いておいで。 聞かざる時には、物の出方、善悪、黒白がトント分からない。》(筑波山ガマの油売り口上。https://gamaoil.jimdofree.comより。) 名もなき猫から文豪をつくるにはどういう風にするか? 涙が出ても心配はいらない。此の『猫』をば、しばし読みますれば、あな不思議、涙はピタリと止まり、ゲラゲラと笑いの生ずる魔法の薬でござりまする。/ 処女作にして、巻を措く能わざるこの面白さは凄い! 落語か

          夏目漱石『吾輩は猫である』

          東浩紀『存在論的、郵便的―ジャック・デリダについて』

          《25年後の『存在論的、郵便的』から『訂正可能性の哲学』へ──東浩紀氏とのディスカッション》のイベントに参加するため手に取った。 哲学書は足が速い。 何もすぐに古びてしまうなどと言っているのではなく、たちまちどこに置いたか分からなくなってしまうという意味だ。 とにかく、言えるのは、動かしすぎてはいけない、ということだ。 だから、やっと捕まえたと思ったら、よくよく見れば三度買いだったりもする。 額なりやすい割に、学なり難し。 棹に枕すれば寝にくいし、将に釘刺せば流される、とか

          東浩紀『存在論的、郵便的―ジャック・デリダについて』

          ターハル・ベン=ジェルーン『火によって』

          アラブ関連の文学を読むのは初めてだ。 どうしても、僕の目は、子供の頃から触れて来たアメリカや西欧の価値観に汚染されているだろう。 完全に中立な視点などどこにもないにせよ、これからの読書によって幾らかでも修正していけたらと思う。 読後、複雑な思いが残った。 「アラブの春」の発端となったチュニジアの一青年ムハンマドの焼身自殺を描いた物語。 たしかに、彼の焼身自殺がきっかけとなって、チュニジア市民の抗議運動が巻き起こり、独裁政権は倒れた(ジャスミン革命)。 そして、さらにそのうね

          ターハル・ベン=ジェルーン『火によって』

          ジョルジュ・シムノン『メグレと若い女の死』

          シムノン先生、今回はいつもとはちょっと趣向を変えて、メグレVSロニョンと来たもんだ。 これは面白い!メグレとロニョンの捜査合戦。 たそがれ刑事ロニョンの姿がやけに印象に残る。 「たそがれ界」のスター、ロニョン刑事ここにあり!/ 【ロニョン警部はロシュフーコー通りの歩道の脇で待っていた。背中を丸めたその姿は遠目にも打ちひしがれ、まるで運命の重みがずっしりと肩にのしかかっているかのようだった。一年中着ているグレーのスーツはよれよれで、アイロンなどかけたこともないのだろう。そのう

          ジョルジュ・シムノン『メグレと若い女の死』

          丸谷才一『いろんな色のインクで』

          丸谷才一による「書評のレッスン」と書評集➕エッセイ集。 二〇〇五年に出た本なので、取り上げられている本がやや経年劣化してしまっているのが玉にきずだが、丸谷才一の書評、エッセイの魅力が堪能できる。 丸谷との出会いはあまりかんばしいものではなかった。 まず初めに、世評の高い小説『たった一人の反乱』を読んでみたのだが、これが僕にはさっぱり面白くなかった。 それで、しばらく丸谷からは遠ざかっていたが、2022年、高松雄一・永川玲二との共訳のジェイムズ・ジョイス『ユリシーズ』で、めで

          丸谷才一『いろんな色のインクで』

          ジル・ドゥルーズ『プルーストとシーニュ 増補版―文学機械としての失われた時を求めて』

          ジル・ドゥルーズ/フェリックス・ガタリの『カフカ: マイナー文学のために』とともに、ドゥルーズの本の中では比較的手に取りやすい本だ。 大好きな文学作品について書かれた本なので読みやすくはあるが、とてもじゃないが分かったとは言えない。 それでも、興味深い指摘や分析がちらほら。 特に、付録の訳者・宇波彰氏の「ドゥルーズとプルースト」が興味深かった。 いずれ、再読は必至だ。/ 【芸術作品は、《失われた時間を再び見出す、ただひとつの手段》である。芸術作品は、最も高度なシーニュ※を持

          ジル・ドゥルーズ『プルーストとシーニュ 増補版―文学機械としての失われた時を求めて』

          岸本佐知子『ねにもつタイプ』

          カレー味のカールような軽〜い本が読みたかったので、手に取った。 いきなり扉の裏に複製禁止の注意書きがある。 【本書をコピー、スキャニング等の方法により無許諾で複製することは、法令に規定された場合を除いて禁止されています。請負業者等の第三者によるデジタル化は一切認められていませんので、ご注意ください。】/ 出たな妖怪!半引用の天敵、反引用め! なにしろ、『ねにもつタイプ』と自称しているぐらいだから、いつもの調子で無断引用して、訴えられたりすると面倒だ。 てなことをつらつら考

          岸本佐知子『ねにもつタイプ』