燃えつきた棒

#名刺代わりの小説10選: 「ユリシーズ」/「百年の孤独」/「砂の女」/「苦海浄土」/…

燃えつきた棒

#名刺代わりの小説10選: 「ユリシーズ」/「百年の孤独」/「砂の女」/「苦海浄土」/ロマン・ガリ「夜明けの約束」/「失われた時を求めて」/「城」/「ダロウェイ夫人」/「薔薇の名前」/イヴォ・アンドリッチ「ドリナの橋」

最近の記事

小林 真生 編著『レイシズムと外国人嫌悪』

しばらく前のことなのであまりよく覚えていないのだが、入管問題か何かの本の感想を書いたときに「荒らし」の方からコメントを頂いたことがある。 以前、筑波大学の東野篤子先生が、twitterで噛みついてくる「荒らし」の人に対して、その都度精力的に対応されているのを拝見してびっくりしたが(現在は東野先生はtwitterへの新規投稿を停止されている。)、僕はとてもじゃないがそんなことはできない。 個々の「荒らし」の方のコメントにその都度対応することはできないが、遅ればせながら本書の感想

    • 益満雄一郎『香港危機の700日全記録』

      NHK総合の『映像の世紀バタフライエフェクト「香港 百年のカオス 借り物の場所 借り物の時間」』を観て、たまらず本書を手にした。/ 2019年6月9日の100万人デモから五年が経った。 2020年には、反体制的な言動を取り締まる香港国家安全維持法が制定された。 2024年6月25日のNHK「国際報道」では、民主化運動で逮捕された夫の無実を訴える民主団体代表の陳宝瑩(チンホウエイ)さんを取り上げていた。 彼女が街頭で通行人に語りかけてパンフレットを渡そうとしても、誰一人立ち止

      • アンドレイ・プラトーノフ『ポトゥダニ川 プラトーノフ短編集』

        社会の底辺に生きる貧しい人々を描いた「ユーシカ」と「セミョーンーー過ぎた時代の物語ーー」のニ篇が心に残った。 「ユーシカ」: これは僕の物語だ。 またひとつ僕の物語を見つけた。 ◯ 地の中を 這いずりまわり 這い出でて 命のかぎり 鳴けよ爺蝉/ ◯救い難き とうに死すべき 愚者なれど たった二人の 女に生かさる/ ◯ 無能にて 殴られ蹴られ 笑われて 小さきものに そっと寄り添う/ 【遠い昔、古い時代のこと。私たちの通りに、見たところひどく年老いたひとりの男が住んでいた

        • 『ニール・サイモン戯曲集Ⅲ』

          井上ひさしの『芝居の面白さ、教えます 井上ひさしの戯曲講座 海外編』で、本書収録の「思い出のブライトン・ビーチ」が紹介されていたので手に取った。 前に『おかしな二人』を読んだときは、たしかに面白かったのだが、読んだ後に何も残らないスナック菓子のような作品だと思ったが、本書の「映画に出たい!」と「思い出のブライトン・ビーチ」はいたく気に入った。 他の作品も読んでみたくなった。/ 「映画に出たい!」: リビー:ニューヨークに住んでいる二十歳位の女の子。十六年前に家を出て行った父

        小林 真生 編著『レイシズムと外国人嫌悪』

          『大江健三郎全小説4 』

          ◯「狩猟で暮らしたわれらの先祖」: 今回、『水死』に関するイベントに参加するために、単行本や文庫本ではなく、わざわざ全集を選んだのは、この短篇が読みたかったからだ。 ではなぜこの作品が読みたかったのか、それは僕がこう考えているからだ。 「われらの先祖」ばかりでなく、「われら自身」もいまだに「狩猟」で暮らしているのではないだろうかと。/ 魔女を狩り、異端者を狩り、異教徒を狩る。 異民族を狩り、先住民を狩り、少数民族を狩る。 共産主義者を狩り、富農を狩り、走資派を狩る。 ウクラ

          『大江健三郎全小説4 』

          『世界 2024年7月号』

          特集2「日本の中の外国人」が読みたくて手に取った。 最初は、特集2だけ読んで終わりにしようと思っていたが、これだけは読みたいと思う文章が次々に目について、けっこう読まされてしまった。 この辺りは、本誌の力だと思う。 安田浩一「ルポ 埼玉クルド人コミュニティ」: ヘイトに携わる人々を見ると、どうしても一人の人物の姿を思い出してしまう。芥川龍之介「蜘蛛の糸」のカンダタである。/ 《犍陀多(かんだた)は、早速その蜘蛛の糸を両手でしっかりとつかみながら、一生懸命に上へ上へとたぐり

          『世界 2024年7月号』

          アレクサンドル・リトヴィネンコ、ユーリー・フェリシチンスキー『ロシア 闇の戦争』

          FSB(連邦保安庁)中佐だったリトヴィネンコは、1997年、オリガルヒのベレゾフスキーらの暗殺を命じられるも、これを拒否し、翌年11月の記者会見でこれを暴露したため、FSBを追われた。 2000年にイギリスに亡命したリトヴィネンコは、02年、フェリシチンスキーとともに本書を著した。 リトヴィネンコは、06年11月、何者かに放射性物質「ポロニウム210」を飲まされ、暗殺された。 もちろん、リトヴィネンコの毒殺は、アパート爆破事件FSB犯行説を説いた本書の内容と無関係ではないだろ

          アレクサンドル・リトヴィネンコ、ユーリー・フェリシチンスキー『ロシア 闇の戦争』

          大江健三郎『水死』

          [HMCセミナー 大江健三郎「水死」を読む]に参加するために手に取った。 実際には『大江健三郎全小説4』で読んだのだが、感想があまりに長くなり過ぎ てしまうので、文庫本『水死』の感想としてアップすることとした。/ 【ーーしかし長江さんは、洪水の流れに乗り出すお父さんを、正気の人間として書きたかったのでしよう? ーーそうです。しかも思い込みは持ち続けていて、今度もそれを実現する必要な段階として川に乗り出した、と書くつもりでした。(略)父親が水底の流れに浮き沈みしつつ、振り返る

          大江健三郎『水死』

          『入管の解体と移民庁の創設 出入国在留管理から多文化共生への転換』(加藤丈太郎編著)

          一人の著者が書いた本ではなく、「移民・ディアスポラ研究会」のメンバーの論文を編んだ論文集。 執筆者の中には、元入管職員4名も含まれている。/ ◯加藤丈太郎「出入国在留管理庁の解体と移民庁の創設」: 【「高度に発電した政治共同体であれ文明であれ、そのさらなる発展のためには、異質性を受け入れながらハイブリッド化することが絶対的に要請されている」】(ハンナ・アーレント)/ 法務省は、入管法をあらゆる法の上位に位置付けようとするが、これには、 「外国人に対する憲法の基本的人権の

          『入管の解体と移民庁の創設 出入国在留管理から多文化共生への転換』(加藤丈太郎編著)

          『東京人 2024年6月号 特集 「画業70年 つげ義春と東京」』

          僕のつげ義春との出会いは、竹中直人監督の映画『無能の人』だった。 映画を観た僕は、これはまさに僕の映画だと思い、たまらず原作を手に取った。 そこには、ゴーゴリが『外套』で描いたような無能な人々の生が描かれていた。 単行本『無能の人』(日本文芸社)には、「石を売る」「無能の人」「鳥師」「探石行」「カメラを売る」「蒸発」の六話とインタビュー「乞食論」が収録されており、映画はかなり忠実に原作の内容を描いている。 かくして、映画も原作も僕の永久保存版となった。/ ◯川本三郎「水辺の

          『東京人 2024年6月号 特集 「画業70年 つげ義春と東京」』

          結城英雄『ユリシーズの謎を歩く』

          ものすごく分かりやすい。 読んで行くと、僕の混乱した頭の中もだいぶ整理されたような気がする。/ 「第七挿話 アイオロス」: 【『オデュッセイア』との対応  『オデュッセイア』第十歌で、オデュッセウスたちは浮き島に住む風の神アイオロスから手厚くもてなされる。この神には六人の娘と六人の息子がおり、それぞれ娘を息子に妻としてめあわせ、家族は親しく饗宴に日々を明け暮れしており、オデュッセウスたちもその供応を受けたのである。】/ えっ!近親相姦! ここでは、あくまでも『オデュッセイ

          結城英雄『ユリシーズの謎を歩く』

          余華『ほんとうの中国の話をしよう』

          三十五年目の六月四日のために。 「六四天安門事件糾弾!ひとり読書デモ」敢行中。 黄昏れても、ポンコツでも、無能でも、燃えつきても、読書デモ実施中!/ 小説『活きる』や『兄弟』などの作家余華(ユイホア)が、「人民」、「領袖」、「読書」、「創作」、「魯迅」、「格差」、「革命」、「草の根」、「山寨(シヤンチヤイ)※1」、「忽悠(フーヨウ)※2」の十のキーワードで、大躍進、文化大革命、天安門事件、現代中国を斬る。2012年出版。中国国内で発禁処分! 必ずしも、悲憤慷慨ばかりではない

          余華『ほんとうの中国の話をしよう』

          『中国現代文学1』

          二〇〇八年四月に出版された本誌の創刊号である。 昨年末のひつじ書房の大特価感謝セールの際に、このシリーズの未入手本をまとめ買いしたが、そのとき創刊号だけは入手できなかった。それが今回入手できたので、さっそく手に取った。 毎年六月は、一九八九年六月四日の「六四天安門事件」を記念して、僕は中国関連の本を読むことにしているのだ。/ 残雪「阿娥(アーウー)」: 残雪にしては、思いの外読み易い。残雪版「青の時代」か?/ 阿娥という謎めいた少女が出て来る。 この少女、なんだか僕には作

          『中国現代文学1』

          高井有一『北の河』

          《ふるさとの訛りなつかし停車場の人ごみの中にそを聴きにゆく》(石川啄木『一握の砂』より。)/ 母は秋田県由利郡、現在の由利本荘市の生まれで、僕も子供の頃、よく母に連れられて、秋田に帰省した。 実家に帰ると母は、たちまち秋田県人へと豹変し、兄弟姉妹や友人たちと秋田弁で饒舌に喋っていた。 その言葉は、生まれは秋田市だが千葉育ちの僕には意味が分からないこともあったが、その懐かしい響きは今も耳に残っている。 はたして、秋田ゆかりの作家が秋田を描いたというこの小説に、その響きを聴くこ

          高井有一『北の河』

          『中国現代文学2』(中国現代文学翻訳会編)

          まず、史鉄生の随筆「人形(ひとがた)の空白」、「反逆者」のに強く惹かれた。 【ここには必ず一つの物語が、悲惨な、あるいは滑稽な物語が隠されているはずだ。しかし、私は考証する気はない。(略)物語は、ときには必要だが、ときには人に疑いを抱かせる。物語というものは物語自身の要求から逃れ難い。心を揺り動かし、感動の涙を誘い、起伏と変化に富み、結局のところ人を酔わせようとする。その結果、それはただの物語になってしまう。ある人の真実の苦しみが、ほかの人の編んだ楽しみに変わり、一つの時代

          『中国現代文学2』(中国現代文学翻訳会編)

          『平ら山を越えて』(テリー・ビッスン)

          「平ら山を越えて」: この短い物語で、展開が読めてしまうというのは、ちょっといただけない。/ 「ちょっとだけちがう故郷」: 一つのメルヘン。 主人公トロイのいとこの少女チュトの面影が忘れられない。 この短篇が読めただけで僕は満足だ。 ある日、トロイとバグは古びた競走場で、旧式飛行機のようなものを見つける。 そして、次の日、オンボロ飛行機は三人を乗せて空へ飛び立つ。/ 【チュトはトロイのいとこだが、姉のようなものだ。(略) チュトは十一歳、トロイよりひとつ年上というにはすこ

          『平ら山を越えて』(テリー・ビッスン)