『ニール・サイモン戯曲集Ⅲ』

井上ひさしの『芝居の面白さ、教えます 井上ひさしの戯曲講座 海外編』で、本書収録の「思い出のブライトン・ビーチ」が紹介されていたので手に取った。
前に『おかしな二人』を読んだときは、たしかに面白かったのだが、読んだ後に何も残らないスナック菓子のような作品だと思ったが、本書の「映画に出たい!」と「思い出のブライトン・ビーチ」はいたく気に入った。
他の作品も読んでみたくなった。/


「映画に出たい!」:
リビー:ニューヨークに住んでいる二十歳位の女の子。十六年前に家を出て行った父・ハーブに会いに来て、同居するようになる。
ハーブ:リビーの父。ハリウッド在住の売れない、書けない作家。
ステフィ:四十歳位の魅力的な女性。ハーブのガール・フレンド。/

【ハーブ 彼女にメモを残してくれよ、夕食はとても素晴しかったって。 
ステフィ 今夜、彼女に言うわ、いつ帰ってくるの。(腰をおろす) 
ハーブ わからん。今週は、三晩も四晩も外出してるのに彼女がどこにいて
   何をしてるか知らないんだ。今、何時だい、十二時半?少し帰りが遅い  
   とは思わないか? 
ステフィ (微笑む)いいえ。ちょっぴり素敵だと思うわ。悩める父親の世界へ 
   ようこそ。どんな気持、ハーブ? 
ハーブ こんな気持はいやだね。 
ステフィ 父親であることが? それとも心配することが? 
ハーブ どっちかを選べるのかね? 
ステフィ いいえ、切り離せないものよ。誰かを愛することは、人生の一秒一
   秒を絶えず恐れることなの。】/


「思い出のブライトン・ビーチ」:
サイモンが自身の半生を描いた三部作の第一部である。
シリアスな中に笑いが絶妙にブレンドされており、ぐいぐい引き込まれてしまう。
貧しい人たちの生活の哀歓を描いて、決して暗澹とした結末に持っていかずに、人生に前向きに立ち向かっていこうという読後感を与えてくれる。
1983年度のトニー賞を受賞している。

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