益満雄一郎『香港危機の700日全記録』

NHK総合の『映像の世紀バタフライエフェクト「香港 百年のカオス 借り物の場所 借り物の時間」』を観て、たまらず本書を手にした。/

2019年6月9日の100万人デモから五年が経った。
2020年には、反体制的な言動を取り締まる香港国家安全維持法が制定された。
2024年6月25日のNHK「国際報道」では、民主化運動で逮捕された夫の無実を訴える民主団体代表の陳宝瑩(チンホウエイ)さんを取り上げていた。
彼女が街頭で通行人に語りかけてパンフレットを渡そうとしても、誰一人立ち止まろうともしない。
いったいあのときの群衆は何処へ行ってしまったのだろうか?/


【「警察が来るぞ。一緒に退避しよう。Be water (水になれ)!ずらかれ!」午後8時過ぎ、群衆の誰かが叫ぶと、若者たちは一斉に走り去り、あっという間にいなくなった。「Be water 」とは、香港映画史に残るスター、ブルース・リーが語った言葉である。相手の出方をよくみて、臨機応変に対応するという意味だ。】(本書)/


それは、ブルース・リーの言葉を見事に映像化した美しい映像だった。
カメラは、上空から香港の街路を写している。
デモ隊の群衆が官憲に追われて、水のように摩天楼の間の街路を走って行く。
彼らは、瞬く間に四方八方へとビルの隙間に浸透して行く。
そして、彼らは地へ染み込み、伏流水となって消え失せ、やがていつか草となって立ち上がるだろう。/


《草以外に出口はない。…草は耕されない広大な空間のあいだにしか存在しない。それは空虚を満たすのだ。それはあいだに生える、ほかのいろいろなものにはさまれて。花は美しいし、キャベツは役に立ち、ケシは人を狂わせる。けれども草は氾濫であり、それは一個の教訓なのだ。》(ヘンリー・ミラー「ハムレット」/ジル・ドゥルーズ、フェリックス・ガタリ『千のプラトー 資本主義と分裂症』より。)/


《心を空にしろ 形を取り去れ 型を捨てろ 水のように 水は流れることも 砕くこともできる 水になれ 友よ》(ブルース・リー/NHK『映像の世紀バタフライエフェクト「香港 百年のカオス 借り物の場所 借り物の時間」』より。)

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