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2020年9月の記事一覧

マスクのある日常

マスクのある日常



 駅前に新しくできた写真機は、とびきり綺麗に写ると若者の間で話題だ。
 中でも特にマスクを美しく写すようで、写真館で撮影するよりも綺麗に仕上がるそうだ。
 流行に敏感な私の娘も興味があるようで、撮影の為の支度をしていたが身に付けたマスクから鼻先が覗いている。
「極めて破廉恥! 嫁入り前の娘が何をしてる!」
 と叱りつけた所
「これが流行ってんの!」
 と一瞥された。
 マスクの下というものは、

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サンタクロースを倒した日

サンタクロースを倒した日



サンタクロースというヤツは、子どもたちの欲するプレゼントが何であるかを探るために十月頃から傍に潜んでいるらしい。
それを聞いた僕は俄然、今年こそはあのひげ面にいっぱい食わせてやろうと、サンタクロースを捕獲する作戦を練った。
 僕は、ヤツをおびき寄せる為に『サンタさんへ』などと記された封筒を、勉強机の上に掲げ、足下には狩猟にて鹿等を捕獲する際に使用するトラバサミを設置した。
 トラップを仕込んだ

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海老太郎

海老太郎



パリの有名な団体に日本のバレリーノがいる。
初めて彼の舞いを目にした時の衝撃は今も忘れない。
そのしなやかな四肢は逞しい筋肉に包まれいたが、それでいて男性的な硬さを感じさせない。真綿のように柔らかく、うっとりするほど美しい曲線を描きながら彼は踊った。
 彼がプリンシパルとして演じた公演の後、嬉しことに食事を共にすることができた。
シーフードが好きな彼は、特にエビをこよなく愛した。
他の人より自

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空飛ぶベッド

空飛ぶベッド



 熱があると見上げた天井が回転して見えるのは何故だろう。
社会人になると風邪を引いただけで自己管理がなってないと揶揄されるが、そういうお前は肝臓にガンを患っているじゃないかと反発したくなる。が、身体中の熱が私のシナプスをたゆませていて行動に移せない。おそらく、熱が綺麗さっぱりなくなったとき、未来の私は過去の、厳密には今の私の行動に感謝するということも薄ぼんやり分かるので定時まで業務をこなした。

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スパイシーなMac Book

スパイシーなMac Book



Mac Bookからはカレー屋のネパール人の香ほりがする。
崎田さんがそんなことを言うものだから、じゃあ試しに分解して中を見てみようということになった。
個人経営をしている崎田さんは、先に入った給付金で懐が暖かい為に、少しの躊躇もせず十年間愛用したMac Bookを分解し始めた。これを機に最新のMac Book pro16インチを買うそうだ。
パソコンというものは、どういう理

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