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フラメンコについて その8(フラメンコギター・フラメンコ音楽の楽しみ方) -そして最終回-

これまで7回フラメンコギターに関する記事を書いてきましたが、いよいよ最終回の今回は締めくくりとして、フラメンコギターの楽しみ方、フラメンコ音楽の楽しみ方について書きたいと思います。これまでの記事のリンクは最後にまとめてあります。

まず、フラメンコギターの楽しみ方ですが、私は「とりあえずわからなかったらパコ・デ・ルシアを聴いておけ、おススメアルバムはこれだ!」とやってしまっているわけですが、もう少し本格的に楽しみたいと思われる方には、ぜひ古典的なフラメンコギターを聴いてもらいたいと思っています。

有名なソロイストとしては、サビーカスニーニョ・リカルドは外せません。サビーカスもニーニョリカルドも現役当時は結構な録音を残していたはずですが、今はCDやLPの形ではなかなか入手できません。が、ベスト盤や編集盤でも良いですし、サブスクなら逆に結構な曲数が上がっているので、彼らの音楽を堪能できます。比較的シンプルな曲が多く、フラメンコの型やリズム、曲調への理解も深まると思いますし、パコ・デ・ルシアから始まる新しい時代のフラメンコギターの違いも浮き上がってくるはずです。悲し気な曲、重苦しい曲が多いなという印象も最初は受けると思うのですが、それを乗り越えて聴き込んでいくと良さが分かるようになります。ぜひ、繰り返し聴いてみてください。

次の楽しみ方は「目で見て楽しむ」です。今まで音源中心の説明でしたが、フラメンコの華は踊りであることは間違いないでしょう。しかも拍手(パルマ)やカスタネット、足さばきなどから生み出されるリズム感はフラメンコにはなくてはならない要素。華やかで情熱的な踊りから繰り出される身のこなしやリズム感とギターがどのように絡むのかを視覚で楽しむのもフラメンコの醍醐味です。フラメンコではギターがリズム楽器であることがよくわかるはずです。Youtubeなどストリーミングで多くのフラメンコ映像が上がっていますのでコンテンツには困らないと思います。

また別の楽しみ方は「パコ以降のギタリストを聴く」です。同時代の天才で有名なのはセラニートですね。セラニートはパコよりは古典に寄り添ったプレースタイルが特徴ですが、先のサビーカスやニーニョ・リカルドのプレーを5倍ぐらい難しくしたようなテクニカルなプレーは圧巻です。わざと難しく弾いているのでは?と思えるほど笑。

ちなみに、いま日本でおそらく一番有名なフラメンコギタリストである沖仁さんのスペインでのギターの師匠がこのセラニートです。フラメンコギター愛好家の中でファンの多いギタリストです。入手できる音源が少ないのが難点ですが、サブスクに何曲か上がっているようですので、ぜひ聴いてみてください。

そして一時期フラメンコギター界に旋風を巻き起こしたのが、ビセンテ・アミーゴ。そのきりっとした甘いルックスと繰り出される新しいサウンドは別次元。私的にはこの人の曲は全てフラメンコのAOR(アダルト・オリエンテッド・ロック → おしゃれで都会的な大人のロック)だと思っています笑。何が別次元かというと、従前のフラメンコの型から全く想像できないコード感や曲調、いわゆる定番ギターフレーズがほとんど出てこないオリジナルフレーズの宝庫。もちろん、その裏返しとして好き嫌いは分かれると思います。先に紹介したサビーカスが大好きな愛好家の中には、あれはフラメンコじゃないという人もいるでしょう。しかし、ビセンテのプレーが圧倒的に新しく独創的な部分は認めざるを得ませんし、フラメンコギターの新たなファン層拡大に貢献したのは事実でしょう。

少しずつ変わりゆくフラメンコギターの進歩や発展を見つけるのも楽しみの一つというお話でした。最後にフラメンコの楽しみ方をザクっとお伝えします。

フラメンコは気長に無理せず楽しんでほしいと思っています。音楽好きの方ならわかると思いますが、どんな音楽ジャンルでもそのジャンルが好きになるには1年とか数年など、時間がかかるものです。フラメンコは幸か不幸か商業的な市場規模はロックやポップス、ヒップホップなどと比べても大きくありません。ようは十分にマーケットの状況に追いつくことができるということです。例えば今、米国のヒップホップを追いかけようとしたら大変です。ここ30年ぐらいのクラシックといわれるアーティストのアルバムを聴きつつ、目まぐるしく変わりゆく流行り廃りと膨大な新譜を追いかけないといけません。音楽を聴き続ける努力が別に必要なんです。

しかし、フラメンコはそういう市場構造にはなっていません。基本はライブ中心の音楽形態であり、音源は今なお名盤といわれるものがファンの中で聴き継がれ、新譜は出ますがロックやポップス、ヒップホップの数と比べれは極めて少ない。一方で音楽的な歴史は長いから、聴くべき音源は既にたくさんあり、必ずしも新譜を追いかける必要な無い。状況としてはジャズファンとちょっと近いと思います。ジャズファンも新譜を追っかける人はいるでしょうが、そうじゃなく今でもジャズ黄金期である1950-1960年代ぐらいのジャズを聴き続けている愛好家は多いはずです。それでも充分に楽しめるぐらい音源はあるわけです。

フラメンコは逃げません。いつもそこにあります。天才ギタリスト達の名盤も逃げません。何度も聴くことで良さがどんどんわかると思います(CDやLPは買える時に買っておかないと聴けなくなるかもですが)。フラメンコ音楽を3年も聴き続けたら、かなり詳しい人(かつフラメンコ好き)の部類に入れるはずです。一人でも多くの人にフラメンコの世界に慣れ親しんでもらって、フラメンコ好きになってもらえたら嬉しいです。

最後の最後にフラメンコのとっかかりとしてのおススメアルバムをご紹介します。ギターでも踊りでも歌でも何でもいいのでとにかくフラメンコってどんな音楽でしょうか?という人向けに紹介します(そういうのは第1回で書けよという声もあるかもしれません笑)。

オールマイティなフラメンコおススメアルバム「フラメンコ・フラメンコ / Flamenco Flamenco(オリジナルサウンドトラック)

こちらのアルバムはフラメンコ映画のサウンドトラックです。正直映画は観ていないのですが、そういう人でも安心して聴くことができる内容です。おススメポイントは、

・最近のサントラなので音や録音状態が良い
・フラメンコ特有の悲しさや重苦しさ、アラブ中近東風の曲調が少ない
・全般的にフラメンコの中ではおしゃれでモダンなサウンドを集めている
・歌と踊り(足音)、ギターが良く聴こえ、フラメンコの全体像が分かる
・過去のフラメンコ音源からのコンパイルだが、選曲が初心者に優しく、
 有名どころの演者もしっかり押さえている

という感じです。このサントラや映画音楽を構成した人は、フラメンコ音楽の楽しさを広めるうえで入門者がつまづきやすいところがよくわかっているんだと思います。

1曲目のルンバに代表されるように、この作品は選曲も全般的にキャッチーで、歌も踊り(足音)もギターも入っていて、音も良く、欧米のいわゆるスタンダードな音楽フォーマットに耳が慣れている人でもスッとフラメンコの良さに耳が付いていけるような内容です。ぜひ聴いてみてくださいませ。

無理やり詰め込みましたが、これで私の「フラメンコについて」は、また書き始めるかもしれませんが笑、一旦は終了します。

ありがとうございました。

過去記事へのリンクはこちらです。

その7

その6

その5

その4

その3

その2

初回(その1)


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