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フラメンコについて その6(フラメンコギターの聴き方 の続き)

今回で6回目となるフラメンコ投稿ですが、前回はパコ・デ・ルシアのおススメアルバム「二筋の川/FUENTE Y CAUDAL」の曲説明の途中でしたので、その続きとスペースがあれば他の次点となるパコのおススメアルバムについて書きたいと思います。前回までの記事のリンクは最後にまとめてありますので、そちらからたどってくださいませ。

前回の記事で説明できていない曲は4曲目と6曲目と8曲目です。曲のタイプから説明します。

まず、4曲目の"BULERIAS POR SOLEA"ですが、これはソレア風のブレリアスという意味です。ちなみに、この曲のタイプは 一般的には "SOLEA POR BULERIA(ブレリアス風のソレア)" ということが多く、私個人はこの二つは同義と理解しています(専門的には違いがあるようです)。

補足ですが、フラメンコの型の中には、フラメンコの母と呼ばる"SOLEA"という暗く悲しいトーンの型があり、普通フラメンコのアルバムには1曲このソレア(ソレアレス)の曲が入ったりするのですが、このアルバムには入っていません。

ソレアという型はかなりゆっくりな曲調なのですが(なので歌や踊りも感情を込めやすい)、それをブレリアス風にということでスピードを少し上げたものが "BULERIAS POR SOLEA" や "SOLEA POR BULERIA" であるとザクっと思っておいてください。

このブレリア風ソレア含め、今回説明する3曲のリズムは全て3拍子系で共通部分も多いです。フラメンコの3拍子系は12拍子でワンセットの形式がたくさんあり、フラメンコのリズムの根幹をなしています。

<3拍子系12拍のリズム例>
タン・タン・タン / タン・タン・タン / タカ・タカ・タカ / タカ・タカ・タカ (以降は繰り返し)

第1小節と第2小節が1拍ずつ3回を繰り返し、第3第4小節はその半分の長さで倍の音を刻みます。実際にはこの12拍にアクセントの強弱があり、曲の型によって違ったりするのですが、そこは省略します。

4曲目のブレリアス ポル ソレア ですが、パコのラスゲアードとゴルペ(右手の人差し指で弦をストロークした後、右手薬指(と時に中指)でギターのボディーを叩く奏法)が良く響き渡り、曲調も王道のソレアを踏襲していて聴いていて安心できる納得の演奏です。パコのフレーズもソレアの王道フレーズを少し感じさせつつもオリジナリティ溢れるメロディーとスリリングなプレーで素晴らしい。途中で挟まれるトレモロ奏法(トゥルルルルトゥルルルルと細かくギターの音を繋げる奏法)も音粒がそろいメロディも美しい。しかし、なぜか曲がフェードアウトで終わってしまうのは残念なところ。

8曲目の"ALEGRIA"(アレグリアス)は踊りのための曲で、その明るい曲調が特徴です。私はこの曲を聴くとスペインのオレンジなどを思い出すぐらいフレッシュで明るい曲です(スペイン南部はオレンジの産地ではないようですが)。アレグリアスはアルバムの中でソレアやタランタの暗く悲しい雰囲気から場をカラッと陽気に変える力を持った曲です。

ただ、パコのアレグリアスはそこまで明るくないです。曲の節目節目では明るいコードで解決していて、アレグリアスの良さが出ているところもありますが、同じぐらい暗めのメロディーのところもありますね。個人的な所感としては、もう少し明るい部分を増やして欲しいなとは思ってしまいますが、これもパコの個性なんでしょう。

ちなみに、パコは先人の天才であるニーニョ・リカルドのフレーズをたくさん盗んで学んだ(悪い意味ではなくミュージシャンはみんなやることですし、口伝が中心のフラメンコでは最初はみんな誰かのコピーです)といわれていますが、このニーニョ・リカルドはアレグリアスに大胆にマイナーコードを取り入れ名曲にしたてた実績がありますので、そのあたりの影響もあるかもしれません。

ちなみに、フラメンコギターでは曲の最後の方になると、クライマックスを知らせるためか気分が乗ってくるためなのか、曲が速くなって終わることがあります(そして終わりはリズムの10拍目です)。この曲ではそこもよくわかり、そのすがすがしさもあってアルバムの最後の曲にふさわしいと思います。

やっと最後の曲説明です笑。6曲目の"BULERIA"です。ブレリアスという曲の型は他の型と比べると比較的最近できた型のようです。その特徴はとにかく曲が速い。世界で一番速い3拍子の曲といわれているらしいです。BPMで200を超えることは普通で、フラメンコ業界ではリズムトレーニング用のCDが売っていたりするのですが(それぐらいリズムの理解が大事なんです)、手持ちのCDではBPMが230を超えるリズムトラックもあります。

曲の速さとそのリズムの激しさからくる攻撃性から、演者の感情が非常に高ぶるブレリアスはテクニック的にも見せ場的にもフラメンコの華と言ってよいと思います。実際、パコもブレリアスが一番好きなようです。まぁ、あんだけ弾けたらブレリアスは弾いてて楽しくてしょうがないでしょう笑。

このアルバムでのブレリアスは正にブレリアスの王道。パルマ(拍手)あり、掛け声ありで猛烈なスピードで引き倒すパコのギターは圧巻です。聴き慣れないうちは、どこから曲が始まるのか、どういうリズム構成になっているのか理解できないと思いますが、それを含めてスリリングさを味わってもらえればよいかなと思います。

ところどころ何度も出てくるフレーズ「テケテケテケンテッテーン」というメロディーはブレリアス特有のフレーズです。スピード命の型なので、あまりフレージングやコードワークで斬新すぎることを出来るスペースはありません。限られたスペースでオリジナリティを出すのが腕の見せ所ですが、パコは十分にオリジナルフレーズを入れ込んでいますし、曲のスピードを逆に煽るぐらいのラスゲアードやダウンセコでのスピード感や力強さは鳥肌モノです。ただ、こちらの曲もなぜかフェードアウトで終わるのが残念です。きちっと10拍目でバシッと終わってくれるともっとかっこよかったかなと思います。

今回はもう謝りませんが笑、曲紹介はなんとか終わりましたが書きたいことは書き切れませんでした。以降は次回にしたいと思います。パコの他のおススメアルバムを紹介しつつ、フラメンコギターの楽しさを語って締めくくれればと思っています。

興味を持っていただいた方は、次回の記事にもおつきあいください。

以下は過去記事のリンクです。

その5

その4

その3

その2

初回(その1)

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