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合田ノブヨ & Du Vert au Violet|コラージュとポプリのセット《半喪のパ・ド・ドゥ》

Text|Du Vert au Violet

 亡き妻のポアントは語る──ブリュージュとは、厳格なカトリシスムの大気に覆われた、わずかな出来事にも敏感に震える灰色の水面であるということを。
 こうして、ブリュージュの水面に、宿命の一滴がしずかに落とされた……

バレエ台本『死都ブリュージュ、半喪のパ・ド・ドゥ』
プロローグ「白の女、または宿命」より
(Mistress Noohl, 2012)

 モーヴグレイの霧に覆われた、ローデンバック『死都ブリュージュ』を逍遥する本作《半喪のパ・ド・ドゥ》——孤高のコラージュ作家・合田ノブヨ様とDu Vert au Violet(ドゥ・ヴェール・オ・ヴィオレ)の初コラボレーションとなる「コラージュとポプリのセット」を発表致します。
 初回【限定数販売】、再販は未定です。

夕暮がたのしめやかさ、燈火あかり無きしめやかさ。
かはたれどきは蕭やかに、物静かなる死の如く、
朧々おぼろおぼろの物影のやをら浸み入り広ごるに、
まづ天井の薄明うすあかり、光は消えて日も暮れぬ。

ジォルジュ・ロオデンバッハ「黄昏たそがれ
上田敏『海潮音』収録

 敬虔な私のいまの心持は輕薄なワイルドの美くしい波斯模様の色合から薄明りの中に翅ばたく白い羽蟲の煙のやうなロウデンバツハの神經に移つてゆく。

北原白秋『桐の花』アルス刊(昭和二十一年)

 上田敏『海潮音』収録「黄昏」で出会い、北原白秋『桐の花』で再会したベルギーの詩人ローデンバック(1855〜1898)。三島由紀夫『禁色』では、主人公の小説家が『死都ブリュージュ』を初訳する設定でした。

 近代文学の薄きページに霧のように浮かんでは忘れがたい印象を残してきたベルギーの詩人。くっきりとその姿が精神に刻まれたのは、代表作『死都ブリュージュ』を手にとってから——
 ロマンティック・バレエのはじまりと言われる「悪魔のロベール」の舞台が描かれ、そこに主人公の亡き妻にうりふたつのジャーヌが踊り子として登場する一冊。初めて紐解いたのは、折しもバレエへの熱情が極まり劇場へ足繁く通っていた頃。生と死のあわいを行き来する一冊とバレエ芸術との近似にいざなわれて、取り憑かれたように『死都ブリュージュ』の世界に耽溺していました。
 そうしてバレエ化への夢想はふくらみ、プロローグ付き全三幕のバレエ台本を執筆。

セットに付属する薄紙に刷られたバレエ台本

 本セットは、2012年に拙個展Mourning Objet Collection「バレエ詩集〜半喪のパ・ド・ドゥ」にて発表したバレエ台本から着想。時を経てモーヴグレイの廢都にふたたび出会い、コラージュ作家・合田ノブヨ様の繊細優美な感性を得て、誕生しました。

 繊細な銀箔が反射する半喪色のボックスを開けて、『死都ブリュージュ』の世界へ——
 霧の風景を見事に表現したコラージュ作品と三幕のプライヴェート・ポプリ、バレエ台本やポストカードなどが封入された豪華なセットです。

 一点一点、濃淡の異なるモーヴグレイの霧の背景は、合田さま手ずからアルシュ紙を緑茶で染めたもの。魔法の指先が紡ぐブリュージュの情趣が、美しき紙片から馥郁と立ち上ります。
 霧の風景に佇むのは、亡き妻の幻影。白のドレスに清廉な面差しが映える正面の肖像では、幻想的なモーヴグレイの諧調が存在の儚さを際立たせています。

 菫色のショールが流麗な後ろ姿の肖像。追いつこうとするほどに、蝶と共に離れていってしまう亡き妻。この世に未練を残す右足がドレスからそっと覗いて。
 上部には手染めのシルクリボンがやわらかな風合いで結ばれています。

 縁には銀の着彩が施され、エレガントな流線で断裁。隅々までじっくりと眺めたくなる合田さまの素晴らしい手仕事に、ため息がこぼれます。

 物語の余韻のように、裏側にまで立ち込める霧。「n.goda」のサインが霧の中から現れ、縁取りの銀彩が霧を額装します。

 ボックスに設えたバレエの舞台に飾って。あるいは、取り出してボックスの箔押し模様に立てかけて——舞台を演出するように、コラージュ作品の魅力を引き出してみてください。

 緞帳が上がり、バレエの舞台がはじまる高揚感。
 舞台美術を作り込むように、コラージュ作品とポプリを設置する台紙をデザインしました。

 1点1点、孔版でシルバー刷りを施した緞帳のドレープが菫色と薔薇色の紙に擦られ、襞の形にカッティングされています。奥行きが落とす陰影が、設えにブリュージュの気配を呼び込みます。

コラージュは薔薇モーヴ色のリボンで留めて

 緞帳は取り外すこともできますので、その時々、お好きな装いで飾ってみてください。

 「プライヴェート・ポプリ」とは、室内香ではなく、読書するように一対一で香りと対話する新しいスタイルのポプリ。天然原料のみを調合して1ヶ月以上熟成させた深い香りをゆっくりとお楽しみください。

薄紙に包まれてセットされているポプリの小壜

 ポプリは三幕のバレエ台本にそって調香されています。バレエ台本を紐解きながら、各幕の香りの舞踊をご堪能頂けましたら幸いです。

三幕のプライヴェート・ポプリ
霧をイメージしたラベルは、シルバーの着彩で

 コルク栓を開ければ香り立つ、三幕のバレエの舞台。香りと香りの間——幕間も物語の余韻を楽しむ素敵な時間です。

慈しみ深く踏み出されるパのひとつひとつは、生そのものを薄く削いでゆく痛々しさに満ちていたが、ブリュージュの水面にはその悲痛を受け止める深いやさしさがあった。彼の視線はただただ腕の中のみに注がれ、黒衣で囲まれた虚空がしだいに色づいてゆく不思議を《琥珀のパ・ド・ドゥ》は切々と語っていた。

バレエ台本『死都ブリュージュ、半喪のパ・ド・ドゥ』
第一幕「琥珀、または遺髪のパ・ド・ドゥ」より
(Mistress Noohl, 2012)
第一幕の琥珀色のポプリ

《黒のパ・ド・ドゥ》はよりいっそう罪の色を深くしていった。ジャーヌの蠱惑的なポアントは、ユーグの喪を穢し、信仰深い水面に強い衝撃を与えてしまったのだった……

バレエ台本『死都ブリュージュ、半喪のパ・ド・ドゥ』
第二幕「黒、または罪のパ・ド・ドゥ」より
(Mistress Noohl, 2012)
第二幕の薔薇色のポプリ

 影のコール・ドは、横たわるふたりに長々と灰色の影をおとした。影とは亡き妻の影、ブリュージュの影、この世とあの世のあわいに投じられたカトリシスムの影だった。

バレエ台本『死都ブリュージュ、半喪のパ・ド・ドゥ』
第三幕「灰色、または影のパ・ド・ドゥ」より
(Mistress Noohl, 2012)
第三幕の半喪色のポプリ
調合した原料を明記した学名カードも付属

小壜タイプのポプリの楽しみ方
・プライヴェート・ポプリは、室内香ではなく、読書するように一対一で香りを楽しむポプリです。
・香りを体験したい時に小壜の栓を押さえて静かに上下に振り、中のポプリを動かして下さい。ハーブが傷まないように、強く降るのはお控え下さい。
・コルク栓を開封し、壜の中に広がる香りをひとときお楽しみ下さい。
・香りの印象は環境や気分によって微細に変化します。その日の香りの印象を短歌などで書き留めておくのもおすすめです。付属の「ムエット・エッセイ・ノートレット(ミシン目入り一筆箋)」をご活用下さい。
・室内香としてのお作りではないため、栓は開けたままにせず、香りを楽しんだ後は栓をして密封して下さい。栓を閉めれば、香りが外に漏れにくい構造です(完全密封ではありません)。

プライヴェート・ポプリの詳しい解説もご高覧下さい

 ブリュージュの灰色の街をイメージしたオリジナルボックスは、質感もノーブルなグレイの紙にマット銀箔押しのシックなデザイン。

 オリジナルパターンはブリュージュの街に香りが広がる様子を表現。光をやわらかく反射するボックスは、飾っているだけで絵になる存在感。片側に結ばれたリボンで中身を引き出せるようになっています。 

 『死都ブリュージュ』をプロローグ付き全三幕のバレエに仕立て、薄紙に刷った台本です。巻末では「大いなる夢想の恐れ多い付記」として、キャスティングも行なっています(振付:ローラン・プティ/カウンターテナー:フィリップ・ジャルスキー/ユーグ・ヴィアーヌ:マニュエル・ルグリ等)。

ポストカード(Artwork|Mistress Noohl)/バレエ台本
ムエット・エッセイ・ノートレット(左下)
学名カード(右下)

 本セット《半喪のパ・ド・ドゥ》は2種類。コラージュ作品、舞台に見立てた台紙と箱リボンの色が異なります。ポプリほか、それ以外のアイテムは共通です。

 モーヴグレイの霧に覆われた『死都ブリュージュ』を逍遥するセットをぜひお手元に——

プライヴェート・ポプリはこのような方に特におすすめです
・生活に「香りの時間」を取り入れてみたい方に
・天然のやさしく深い香りがお好きな方に
・ポプリならではの熟成してゆく香りの変化に興味がある方に
・文学のように香りを楽しみたい方に
・薬草標本の雰囲気がお好きな方に
・ポプリを飾って楽しみたい方に
・ポプリを通して関連する文学やアートの世界に触れてみたい方に
・お仕事場などの外出先で、周囲に影響がないかたちで気分転換に香りを取り入れたい方に
・香りグッズは好きなものの、お子様やペットが心配で室内香の使用を控えている方に
・特別な贈り物を探している方に

 オンラインの試香の文法、香りの印象を綴る《ムエット・エッセイ》をお届け致します。
 ポプリの香りを皆様にご体験頂くことができないオンライン開催。ヨネヤマヤヤコ様による三幕の香りのエッセイをご高覧頂き、香り選びのご参考として頂けましたら幸いです。

 グラフィックデザイナー兼ファッション史家の長澤 均さまによる、本日公開の『死都ブリュージュ』に関する優美なエッセイです。

合田ノブヨ|コラージュ作家 Twitter
高校在学中、TVドラマの仕事で訪れたロンドンで、ヴィクトリア時代のクロモスに魅了されコラージュを制作。1992年作品を発表。以降ギャラリーや新宿伊勢丹等デパートでの展覧会、本の装画や雑誌、新聞の挿画等の仕事をしている。15年間活動を休止していたが、2017年より再開。画集は3冊出版されている。

Du Vert au Violet|プライヴェート・ポプリブランド
書物を紐解くように香りと対話する「プライヴェート・ポプリ」とポプリまわりのオリジナル・アイテムを気鋭のアーティストとコラボレーションしながら制作販売。室内香ではない新しいスタイルのポプリ——日々の暮らしの中で、香りを起点に、文学やアートなど多彩な世界に関心が広がっていくよう工夫されたポプリの世界を提案しています。霧とリボン運営、2021年ローンチ。

ヨネヤマヤヤコ|イラストレーター・ムエットエッセイスト →Blog
香りの世界を偏愛するイラストレーター兼ムエットエッセイスト。カルチャー・ソロリティ《菫色連盟》にてサロン「香水談話室」を主催。現在はモーヴ街6番地にあるブライオニー荘に隠匿中。
Twitter|@yoneyacco

長澤 均|グラフィックデザイナー・ファッション史家 →HP
装幀、CDジャケット、展覧会などのグラフィック・デザインのかたわらモードを中心に文化史にまつわる著作を多数執筆。『美女ジャケの誘惑』、『20世紀初頭のロマンティック・ファッション』、『流行服~洒落者たちの栄光と没落の700年』、『ポルノ・ムービーの映像美学』、『BIBA スウィンギン・ロンドン1965~1974』他。オンライン古書店モンド・モダーンを運営し、モード雑誌は1910年代からの『Gazette du bon ton』の完本を11冊、1920年代から70年代までの『Vogue』、『Harper's Bazaar』は150冊あまりコレクションしている。



作家名|合田ノブヨ & Du Vert au Violet
作品名|コラージュとポプリのセット「半喪のパ・ド・ドゥ」・2種

初回【限定数販売】(再販未定)/ご予約商品
セット
A|正面の肖像(台紙は薔薇色/リボンは薔薇モーヴ色
セットB|後ろ姿の肖像(台紙は菫色/リボンはグレイ

コラージュ|合田ノブヨ
ポプリ&デザイン|Du Vert au Violet

セット内容
【コラージュ作品】
合田ノブヨ制作……1点
(緑茶染めアルシュ紙・着彩・コラージュ・手染めシルクリボン)
手染めのため、背景は1点1点異なります。
【ガラス小壜入りポプリ】……3種
(オリジナルパターンが刷られた薄紙包み)
・ACT 1:約1g
・ACT 2:約1.5g
・ACT 2:約1.5g
【バレエ台本】Text:Mistress Noohl……1点
【ポストカード】Artwork:Mistress Noohl……1枚
【学名カード】Artwork:Sachiko Matsushita……1枚
【ムエット・エッセイ・ノートレット】……4枚分(ミシン目入り)
【解説リーフレット】
【クレジットタグ】
【オリジナルパターンマット銀箔押し・オリジナルボックス】入り

サイズ|
[コラージュ作品]約14.7cm×5.3cm
[ガラス試験管]全高:約9cm/直径:1.5cm
[外箱]約17.5cm×9.8cm×3.3cm
制作年|2022年(新作)
*バレエ台本、ボックスは2012年制作
*ポプリの楽しみ方、原料などの詳細、注意事項、別ショット画像はオンラインショップに掲載しています

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