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腐れ縁だから 1923文字#青ブラ文学部

「まさ〜、今、達樹(たつき)の機嫌っていい方?悪い方?」

まただ。

「あっ?………………良いんじゃね?」

「そっか!ありがと!」

「〜〜〜っ!!!俺を介して達樹の事を聞くなーーーー!!」

何でこうなんだ。

「まあまあ、そんな怒らないで。
これでいちいち目くじら立ててたら疲れるよ?」

「疲れたとしてもっ、俺には死活問題なんだよっ!何で皆して達樹の事を俺に聞いてくんだよ!?!本人に聞けばいいじゃんかっ!!」

う〜ん、と困った顔をしながら、野球部副主将の俊哉(としや)は言う。

「それは……仕方ないよ雅也(まさや)雅也は、達樹の幼なじみで、部の中で1番達樹と仲が良いんだから」

「幼なじみじゃなくて、腐れ縁なっ!」

俺は柏木雅也。野球部主将。
達樹とは小さい頃からず〜〜〜っと一緒。元々は母親同士が友人で、家が近い事もあり頻繁に会っていたのが始まり。

小学2年生から野球を2人で初め、小学生のチームではそこそこの成績を残した。

達樹とは毎日と言っていい程顔を合わせ、くだらない話をしたりどうでもいい事を大袈裟に話したり、何処にでも居る小学生、中学生だった。

周りからは幼なじみなんて言われるけれど、俺にとっては本当に腐れ縁だ。
離れたくても家は近所だし、小学校中学校は同じ学区だから同じ学校。

クラス分けも9年間のうち6年一緒。
高校に入学した今も、1年からずっと同じクラス。

……本当、なんなんだ。

そんな俺達も中3になれば進路の事を考えなければならなくなる。そんな時、達樹に野球強豪私立(県外)から誘いがあったと聞いた。

達樹は投手として頭角を表わし始めていた時期で、俺は他人事の様にすげーな〜なんて思って、中学で達樹ともお別れだな、なんて思っていたと言うのに………


「雅也〜、そこの水筒とって〜」

「……はいはい」

お別れ、なんて思っていたのに…達樹はあっさりその誘いを断り、俺と同じ県内強豪私立校へと入学を決めた。

また…縁が繋がった……。

「ほらっ、」

「サンキュッ!」

俺は頼まれた水筒を達樹の元へと持っていく。今日の練習は終了。主将である俺が、部員とマネージャーを見送り、最後にグラウンドを出るのが決まりになっている。

といっても、殆どの部員が寮生だ。
俺と達樹も、寮生だ。

「達樹、お前で最後だからさ、早く今日は切り上げてくれない?」

「まあ、まあ、もう少しだけ、ほらっ!ここ!座って」

達樹は、近くにあった長椅子に腰を下ろし、俺にも座るよう促した。俺は達樹に促されたまま達樹の隣に腰を下ろす。

しばしの沈黙………。

「……なあ、達樹」

「うん?」

沈黙を破ったのは俺だ。

「何で……県外の強豪私立の誘いを断って、こっちに来たんだ?……お前なら、すぐチームのエースになれるのに」

「んな甘くないだろ?強豪校は。
……条件?とかは良かったけどさ……でも俺じゃあ偏差値足りねーから、いくらスポーツ学科でも授業ついて行けないだろうし、……それに…………」

ここで達樹の話が止まる。

「それに、何だよ」

「そ、れ、に、雅也が言ったんだぞ」

「……?何を?」

「俺達がまだ小学生だった頃、雅也、熱出して学校休んで、俺が見舞いに行った時、雅也言ったんだよ。
『達樹と、甲子園に行きたい』って」

「……………え?………………」

「……何だよ、覚えてーのかよ、
まあ、仕方ねーか、熱出てたしな」

何だ。そうか。そうだったのか…。

「おい。雅也、黙んなや」

お前にそうさせたのは…俺だったのか。

自分の心の中が形容しようのない感情で溢れそうになった……


その時…………

「でも、俺、そうやって言われた時に初めて決めたんだよ。

俺も、雅也と甲子園に行くって。」

「…………!」

「だから、偏差値うんぬんって言うよりも、俺は最初から雅也と同じ高校に進もうって決めてたんだ。
だから誘いの話も、本当は直ぐに断ろうって思ってんだけど、粘られちゃって……(笑)……でも、最後は納得してもらえたよ!」

「………何て言って断ったんだ?」

「高校生までは、雅也が後ろで守っているという状況が理想なので、有り難い話ではありますが、お断りさせて頂きます!!」

「、…、!本当にそういったのか?!」

「うん、言った!だって、雅也が投手の真後ろのショートで守ってるって思うと、何だかキュッとするんだもんよ!」

「………そうなんか?」

「にっ!おうよっ!」

どうしょうもない腐れ縁は、どうやら自分で引き込んでいたようだ。

けれど、こうして久し振りに達樹と並んで座りながら喋った様な気がする。

体は疲れているし、寮に戻って晩御飯食べて、風呂に入って、宿題やって、洗濯をして……やらなければいけないことは一杯あるけれど、もう少し…達樹と並んで座っていたい。

大切な腐れ縁な幼なじみと話をしたい。

そんな風に思ったのだ。

〜終〜

こちらの企画に参加させて頂きました(^^)

山根あきらさん
最近まで関東大会を観戦に行っていたので、また球児のお話になってしまいました💦

今回も素敵なお題をありがとうございました。

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