しょぼい旅

これはガキによるしょうもなく、ちっぽけな旅の記録である

木々に張り付いている節足動物によるセックスを要求する喧しい声々が響き渡り、人類文明の排泄物を地球に撒き散らした事のカルマである暑さで皆が呻く8月、私は小さな旅にでた。ことの経緯はあるyoutuberが深夜から朝にかけて東京を自転車で走り回る動画であった。人の少ない街を自転車で巡る。なんとも楽しそうなことだろうか?私はその動画を見るや否やすぐに準備を開始した。時刻は2時ほどだった。うどんを食べてエネルギーを補充し、血糖値を上げる。スマホの充電を済ませ、五千円ほど入った財布などの諸々の物品を赤いリュックに詰め込み。法律では未成年の外出は四時以降認められているため、その時を待った。

出発

4時を過ぎたあたりに俺は早速出発した。目的地はレインボーブリッチだ。ダサい意匠が施されている小中学生特有の自転車を跨ぎ、ペダルを足でクルッと軽く回し捻る。夏であったせいか空は微妙に明るく、灰色が広がっていた。そんな中で、俺は人の居ない静寂に興奮しつつ、数年前に移動教室で行った、山梨県富士山の麓と同じ匂いを嗅ぎ取り、若干の懐かしさに耽溺していた。さて約50mほど移動したところで飲み物がないことに気づき、赤い色の自販機で天然水を一本ばかりか購入する。この時はまだ夏を舐め腐っていた。


外へ

静寂の中を走っていると、徐々に自分が幼い頃から見知った街が、全くしらない街に変貌していくという”イデアの狂い”的感覚を味わった「知っていたものがだんだんと知らないものになる」という感覚に興奮と恐怖を覚えつつ、道を進んだ。



繁華街の二面性を知る

目的地に向かってグングンと走り続けていると、有名な繁華街へと入った。何度か昼間に行った事があるが、自分の姉のクローンかと思ってしまうほどの量産型女子とギャルそれにそこそこ顔の良い陽キャの男、観光客などの人々で溢れていて、身動きが取りにくい。普段はそのような場所だ。(地名は伏せるが、Hから始まる某街だ。)そんな光景を覚えていたからこそ、尚更に衝撃的だった。早朝は驚くほどに人が居ないのだ。あるのは散乱したゴミ。居るのは四人ばかりの不良大学生。それだけであった。そこで私は初めて繁華街に二面性が存在する事と基本的にヒトは昼行性の動物だという事を思い知らされた。

霊園付近をうろつく

二つの顔を持つ悪女のような街から自転車を走らせて離れると、ある霊園に行き着いた。早朝の誰も居ない墓地、どこか厳かで悲しみを纏っている雰囲気が怖くてすぐに立ち去った。その少し奥に公衆便所があり、パンパンの膀胱から尿道を通じて、大量に放尿させてもらった。その後トンネルを通ったような記憶があるが順序が違うかも知れない。古い記憶が故の事だ。


横断歩道の様なモノに困惑

走っていると甲州街道(?)のような場所に出た。そこをゾロゾロと進んでいると、変な横断歩道を見つけた。渡って良いのかダメなのかもわからないため、断念し結局別の道を迂回した。途中ブラジル代表みたいな服を着たお兄さんに衝突しそうになりつつ、走る。事故を起こさずに済んだのは幸いだ。朝から庭に出てる気前の良い善人感のある老人が挨拶をしてきた。ありがたい。この間、猛暑によりペットボトル三本ほど消費

迷う

走り続けていると気づけば道に迷っていた。グーグルマップを参照していたのにも関わらず、それにスマホを常時稼働させていたため、バッテリー残量が大幅に減っていた!これはまずい!と思い東京タワーの下にある公園で家族に連絡するも、仕事があると断られた。「とにかく太陽のある方向へと行けば帰れる。」と言い残し、スマホの充電は切れた。「知らない土地で一人、連絡手段なし」という絶望感に襲われたが、ひとまずは寝た。スマホなどの私物の盗難対策でリュックの中でスマホを本の下に置いて、それを枕にして寝た。治安の悪い地域での護身術のように

目覚める!

眼が覚める。どうやら外で二時間弱眠っていたようだ。夢は何も見なかった。睡眠とは凄いモノだ。さっきまでの絶望感は打ち消され、精神的に前向きなるのだ。とりあえず家に還りたいので自転車で駆け巡り標識などの手がかりを探す。ここで私は知らない土地の恐ろしさを知る。知らない地名ばっかりなのだ。地理に詳しいオタク気質の人だったら、街と街のつながりが大体理解できているため「A町からB町に行ったらC町に着く」などの類推ができそうだが、方向音痴で引きこもっている自分それができなかった。そのため、ただ泣きそうになりながら走ることしかできなかった。
そんな事をしていると・・

「熱中症」に襲われたのだ

尋常じゃない喉の乾き、目眩 頭痛 吐き気 白昼夢感などが身に降りかかってきた
必死に血眼になりながら自販機を探したが、住宅街ということもあったからか、全く自販機もコンビニも見つからない。フラフラになりながら、クタクタになりながら、生存本能が刺激され冴えに冴えた語感を頼りにして、死にそうなりながら探し回っていると
ようやく自販機を見つけた。それはまるでガソリンスタンドのようであった!早速マジックテープ式の財布から小銭を取り出し、購入!!必死にガソリンを注ぎ込むかの如く、口に流し込み喉を濡らし、セックス前の女性の膣に近い状態にする!!美味い!この時に飲んだ水が一番うまい!!今でも記憶が鮮やかに残っている!!・・・・と言いたい所だが、正直熱中症による錯乱状態であんまり覚えていない上に、水を飲んだ記憶がない。死にそうになりながら自販機を探した所までしか覚えていないのだ・・・・記憶とは虚しいモノだ・・・


天佑

水を飲み熱中症の症状も緩和されたので、また適当に付近を走り回る。
すると人がやたらと行き交う場所を発見した。「おや?」と思い進むとそこには
「s川駅」の名前が確認できた。この時の俺は"神の加護”を本当にあったのかもしれない。当時の私はそこに駅があるなどしらなかったのに、そこにたどり着いたのだ。無神論者連中からは「確率論」だとか「偶然」などと反駁されそうだが、それすらも神が操っているのだと言いたい。が、それは置いておこう。さて、とにかくどうするか、その駅の近くにあるスーパーの前で胡座を組んで考える。人通りの多い場所だったが、極限状態と熱中症の症状による忘我状態のため人の目(big brother is watching you!!)なども気になりもせず、恥すら感じなかった。

脱出

数分思惟を巡らせた結果でた結論は「自転車を置いて電車で帰る」というところに落ち着いた。俺はコアファイターを捨てア・バオア・クーを脱出するアムロレイさながら、自転車を置き、駅へと向かった!
と自分では思っているが記憶は”美化”されるモノだから、周りからは小太りの汗臭いガキンチョが焦りながら走り回っている滑稽な姿に写っていただろう。そもそも当時の俺は天パではなく、坊主であった。ともかく、駅構内に入り切符を買う。当時はパスモもスイカも持っていない!切符は無事に購入できたが、鉄道に全くの無知である為、乗り換えもよくわからなかった。駅員さんに慇懃な態度で乗り換え方法やs駅の行く方法などを聞き、切符を変えて貰った。優しくされた事やありがたかったことはとても記憶に残る。その切符でようやく電車に乗れた。ヒマつぶしにリュックに入れてあった、世界史の本を読み暇を潰していたが、途中で寝た記憶もある。

帰還

一回ほど乗り換えて、ようやく故郷の駅にたどり着いた。騒がしさ、光、建物、全てに安心感を覚え、改札を抜ける。「ピーン!ポーン」という音がなる白いちょっとした広場など見慣れた物が並んでいる安心感に、私はある種の”母性”のような感覚を抱いた。故郷は母なのだ。
故郷の懐かしさに耽りながら、家に帰る。怒られるのを覚悟していたがむしろ褒められた。

こうして俺の何もない虚無の夏休みに少しばかりか思い出ができた

教訓 実体験の寓話的解釈

この体験は寓話的に解釈するのならば、一つは「準備不足故の因果応報」だろう。そもそも準備とは最悪の事態をも想定しなければらない。モバイルバッテリーや充電器などがあれば、このような事にならなかっただろう。今思えば、百均店で充電器を購入し、某ハンバーガー店やコンビニのイートインで充電するなどの対応も取れたと思う。しかし現地での危機に直面した時にそんな事を考える暇はない。だからこそ考えれる内に想定するのだ。

二つは「若さの暴走」だろう。
若さが過剰に暴走すると、若いからこそ責任のとれない範囲まで行ってしまう。
責任を取れる範囲で暴走しよう

後日談

後日自転車を取りに行くため、再び電車でS駅に向かった。父が自転車で先回りして、帰りは自転車だ。撤去された放置自転車が収集されてる施設(?)のような場所で自分の自転車を返してもらった。返却費用は確か3000円ぐらいで父が払ってくれた。
大人の”責任”の取り方を知った夏だった。。

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