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#連続note小説
【連載小説】『晴子』11
その日は日曜日で、休日でも起床時間はほとんど変わらない私だが、なぜか昼過ぎあたりで眠気に襲われた。いつも仕事をしている時は、こんな時間に眠くなったりしないのに。仕事中の緊張感が(あるとしても、もうすっかり慣れっこになっているだろうが)、本来であれば来るべき眠気を遠ざけていたのかもしれない。
日曜日が休日になるのは久々のことだった。休日の店はかき入れ時という事もあり、大概仕事に出ている。仕事がな
【連載小説】『晴子』12
大学の誰もいない教室で、気が付いたら机に突っ伏して眠っていた。イヤホンからはLOVE PSYCEDELICOが聴こえてくる。寝る前に聴いた覚えのある曲だから、アルバムを一周していたのだろう。
眠りに落ちる前は、誰もいなかったはずの教室は、もう半分くらい席が埋まっている。次の時間、授業で使うのかもしれない。俺は隣の席に置いてあった鞄を手に取り、他の場所に移動した。
次に俺が考えたことは、そもそ
【連載小説】『晴子』13
更衣室でため息をつく菖蒲ちゃんに声をかけたことがそもそもの失敗だった。
「えー、月島さんの恋人がこんな感じなんて、ちょっと意外です。」
菖蒲ちゃんの彼氏(現在名古屋に赴任中)が、月末に予定の空きを確保できないということ。いつもは月の最後の週末は食事に出かけることを約束していた二人だが、今月はそれが実現できそうにないということ。
「これ、悪く言うつもりはないんですけど、月島さんって、ちょっと男性
【連載小説】『晴子』14
寒くなったわけではないが、日中でも汗をかくことがすっかりなくなった。風が乾いていくのを日に日に感じる私の肌に今、窓から差し込んだ和らいだ日差しが落ちている。暖色の照明が落ち着いている喫茶店で、あの人を待っている。
秋の休日だが、それは私にとってそうなのであって、街やあの人にとっては平日だ。外を見ると、通りの行く人の顔は仕事中の顔で、街全体が緊張感に満ちている。まだ昼頃だから、当たり前と言えば当
【連載小説】『晴子』20
Sonic Youthは、80年代のオルタナロックシーンを語るにおいて、やはり欠かすことはできない。彼らの登場はもはや事件と言っていい。ステージではパンク的精神を彷彿させるスタイルを貫く一方、LSDなどのドラッグによる幻覚の連想させるサイケデリックな世界観を体現している。サーストン・ムーアの過剰ともいえる歪みをのせたジャズマスターのサウンドは、シューゲイザーからの影響をうかがわせるが、シューゲイ
もっとみる【連載小説】『晴子』23
鶴田のことを思い出した。高校時代の同級生だった彼とは、よくつるんで遊んでいた。放課後を待たずに、昼休みを超えたあたりで仮病を使って学校を抜け出し、高校の近くにあった酒屋の自販機の前で集合した。
待ち合わせ場所に行くと、鶴田は自販機の前のベンチに座って缶のサイダーを飲んでいた。彼は俺を見て言った。
「今日は腹痛か?」
「残念。身体が怠い。」
仮病の時に、教師に何と言って抜け出してきたのかを当て
【連載小説】『晴子』24
「それは大変だったね。」
あの人は、バーのボックス席に前のめりに座ってホットウィスキーを舐めながら私の話を聞いていた。先日の菖蒲ちゃんの話だ。
結局あの日、あの人と会う予定だったが、菖蒲ちゃんの隣を離れるのが何となく憚られて、彼との予定を延期することにしたのだ。
「それで、僕との約束が流れたと。」
という彼の表情は、決して不機嫌ではない。
「ごめんね。でも、あのままだったら、あの娘、何しでか