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アトピー周辺知識20: アトピー性皮膚炎の発生機序


・アトピー性皮膚炎の発生機序とその後の症状の推移



①抗菌薬の不適正使用による腸内細菌叢のディスバイオシスに、胃腸障害及び薬剤による吸収阻害での亜鉛を主としたミネラル及びカルニチン等アミノ酸の欠乏
②乳児期の生合成機能が未発達な状況にて、成長期でのアルギニンの高需要、経口摂取の重要性
③胃腸障害から必然にアルギニン含む各種アミノ酸が欠乏
④ミネラル欠乏とアルギニン欠乏により成長ホルモン産生低下、睡眠・成長障害発症へ(コラーゲン合成や細胞増殖にも影響)
⑤同様の理由により免疫機能・免疫調整機能低下(胸腺など免疫システムの発達不良)、毛細血管・リンパ管含む末梢循環の機能低下
⑥腸内細菌叢のディスバイオシスが一部腸内細菌の寡占状態からカンジダ菌等常在真菌の優位な状態へと悪化、場合により腸管カンジダ菌症の発症
⑦SOD酵素(抗酸化物質)も亜鉛やアミノ酸等主要な構成成分の不足により産生が低下し、それに伴う炎症の発生や組織障害性物質及び自己分解性酵素の蓄積により表皮が角質化・脆弱化、結果未熟な免疫機能と相まって表皮での真菌増殖から真菌アレルギー及び腸性肢端皮膚炎発症へ
⑧表皮の創傷により更に必須ミネラル欠乏・各種アミノ酸欠乏が増悪し、表皮症状の更なる悪化に伴いアトピー性皮膚炎発症、腸内細菌叢のディスバイオシスに起因する腸管カンジダ菌症の発症(常在真菌の過剰増殖)を伴うと更に重症化

⑨慢性的な胃腸障害(吸収不良及び常在真菌による利用)・創傷・炎症によりミネラル欠乏・アミノ酸欠乏が常態化、抗酸化物質の生合成も滞り副腎疲労も蓄積、他のアレルギー性疾患や好酸球増加症へと派生(所謂アトピックマーチの発生)
⑩ステロイド薬を短期集中でなく中長期に渡り使用していると、表皮の菲薄化や末梢循環の脆弱化から免疫力の低下、副腎機能・腎臓機能の低下、腸内細菌叢のディスバイオシスを助長と多様な副作用により状況を更に悪化させる
⑪成長期の終了により必須ミネラルやアルギニンの需要低下(身体機能の成熟と併せて症状が落ち付く事が多い)、ただ免疫機能に問題は残り、胃腸障害や栄養不良も改善されずアレルギー体質となる
⑫アルギニン欠乏にて尿素回路でのアンモニア代謝低下やIgA抗体の蓄積により腎臓障害へも派生、ステロイド薬長期使用により更に悪化、カンジダ菌による毒素や活性酸素の影響も併せて肝臓障害にも派生
⑬アレルギー性疾患とミネラル欠乏・アミノ酸欠乏による成長ホルモン欠損症・カルニチン不足にて睡眠障害・慢性炎症が起き、場合により呼吸器障害から循環器障害へ派生
⑭稀に糖尿病や精神疾患となるケースも有り

・解説


 アトピー性皮膚炎は表皮症状・末梢循環障害・アレルギー性疾患(免疫機能の発達不良と生体内酸化ストレス)・腸内細菌叢のディスバイオシスに起因する胃腸障害(吸収不良症候群及び常在真菌の過剰増殖)・(主に成長期での)新型栄養障害とそれよる成長ホルモン欠損症・悪化すると(真菌増殖・免疫過剰による)肝障害及び腎障害の多面性を持った複合的な疾患であり、この点から他の自己免疫疾患とは明確に区別されるものである。

 特に末梢循環障害としての側面は今まで余り注目されておらず、症状としての浮腫みが軽視(無視)されて来た点からもそれは伺える。これは治療法にも悪影響を及ぼし、アルギニン・シトルリン摂取の必要性を軽視(無視)する結果に繋がっている。

 表皮症状の改善においても創傷治療であるという事を理解し、新型栄養障害としての面も含めて積極的な栄養療法としての治療が求められる。この点からもアルギニンや亜鉛の摂取は特に必須となる。
 またアミノ酸の中でもアルギニン・グルタミン・HMBは創傷や炎症・湿疹が主症状であるアトピー性皮膚炎患者に必須の栄養素(条件付き必須アミノ酸)であり優先して摂取したい。
 HMBはタンパク質の合成促進と過剰な炎症反応を抑制する働きがあり、アルギニンとグルタミンは皮膚の修復促進だけでなく免疫機能の低下を防ぐ効果を有し湿疹の予防に有効である。


 更に胃腸障害はタンパク質や多くのビタミンB群の欠乏症として原発性ナイアシン欠乏症を伴うことが多く、潜在性ペラグラの症状も生じさせる。ナイアシン欠乏はエネルギー代謝を滞らせてミトコンドリア機能が低下し、皮膚症状としては痒みや炎症・角化・角質増殖を引き起こす。治療には必然充分な量のナイアシンやビタミンの摂取が必須となる。


 アレルギー性疾患と関わりの深い生体内酸化ストレスについても、抗酸化物質の生合成にミネラルやアミノ酸が不可欠であり、体外からの抗酸化物質の直接的な摂取としてもやはり栄養療法への需要は高い。

 下部リンクは生体内酸化ストレスについての研究。例の如くアレルギー性疾患やアトピー性皮膚炎への言及は間接的なものに留まり、直接的な言及は一切無い(疾患としてメタボ以下の扱い)。

 下部リンクは天然の抗酸化物質として最も作用が強いと言われるアスタキサンチンの効果に関する論文。


 腸内細菌叢のディスバイオシスに起因する胃腸障害は吸収不良症候群による新型栄養失調を招くのみならず、常在真菌であるカンジダ菌等の消化管内での過剰増殖を引き起こし慢性カンジダ腸炎の原因となる。
 これはリーキーガット症候群を起こして食物アレルギーを発症させ、カンジダ菌の出す毒素もアレルゲンとなり更なるアレルギー症状を惹起しアトピー性皮膚炎を重症化させる。
 詳細は下部リンクを参考のこと。

 常在真菌は過剰増殖による悪影響のみならず、その大量死によりアセトアルデヒドなどの物質が大量に放出され、身体に吸収されて血液中に入り、発熱・異常行動・吐き気・痒み・頭痛を起こすダイオフと呼ばれる現象の原因となる(カンジダ腸炎治療の際に注意すべき弊害)。
 これは成人でも一時的とはいえ体調不良に繋がるものだが、乳児においては重篤な症状を引き起こす危険性が有る(川崎病)。

 血管内に侵襲したカンジダ菌は上述の活性酸素の産生も行い、肝障害を悪化させる事も報告されている。カンジダ菌の産生する毒素の解毒にも肝臓は関わるため、カンジダ菌の増殖は肝機能に大きな負担を強いる事になる。

 更に継続的なカンジダ菌増殖により好酸球増加症の症状も引き起こされる。

 加えてアレルギーによる異常な抗体産生はその腎臓への蓄積によりIgA腎症を発症させる。


 また明確な疾患に繋がらずとも、疲労からの回復力低下、筋肉量が増加し難く太り易くなる、胃腸虚弱、睡眠の質が低下、片頭痛、鼻炎、抜毛、貧血、浮腫み、痒み、免疫力が下がり易い、アレルギー体質のため多様な化学物質に対して過敏になる等様々なデメリットを被る事になる。

 これは新型栄養失調による成長ホルモン欠損症も関わっている。


 易疲労性や脂質代謝の低下・睡眠障害はカルニチン欠乏が原因となっており、脂質代謝の停滞によるATP産生の低下、アセチルカルニチン(脂質結合型カルニチン)の不足による自律神経や神経細胞の調節不全にて睡眠障害を発症する。
 カルニチン欠乏の原因は消化・吸収不良、一部抗生剤による吸収阻害、肝臓腎臓の合成機能低下や老化が考えられる。

 またカルニチン欠乏は亜鉛欠乏と同じく肝機能を低下させ、尿素回路による代謝をも滞らせ血中アンモニア濃度の上昇や低血糖を招く。血中のアンモニアは脳に到達すれば頭痛や倦怠感の原因になる。併せて脂質代謝の停滞によるコレステロール等の悪性脂質の蓄積も頭痛の原因となる。


 上記不定愁訴はミトコンドリア機能低下の結果であり、新型栄養失調や各内臓機能の低下により引き起こされる。


 時期としては体が未発達でミネラル・アルギニン欠乏に陥り易い成長期、胸腺など免疫機能が目立って低下してくる壮年期初期やその手前等に罹り易い(同時期に抗酸化物質の生合成機能も低下するため、併せてアレルギー性疾患の罹患リスクはより高まる)。

 抗菌薬不適正使用による胃腸障害や吸収阻害に加えて成長期特有のミネラル・アミノ酸の高需要が新型栄養失調を招くという構図であり、適切なタイミングで適切な栄養補助を行えば治癒する可能性は高い。

 勿論最も重要かつ効果的であるのは腸内細菌叢のディスバイオシスを直接改善出来る生菌製剤の投与だろう。

 下部リンクのカロテノイドは過剰摂取による副作用のほぼ起こらない抗酸化物質である事には一応留意する。

 同じく乳児の栄養としては必須ミネラルの含有量が一般的な粉ミルクでは母乳(特に初期の母乳)に比べて少ない事も影響しているかも知れない。
 また早産児など他の乳児より更に多くの栄養を必要とする乳児においてはミネラルの要求度がより高くなるのに対し、母乳強化剤などでは必須ミネラルの含有量が足りていないとの事。

 また母乳にはラウリン酸という免疫を高める成分が含まれている(この成分は腸管内の常在真菌の過剰増殖も抑制する)。母乳内のラウリン酸含有率には個体差が有り、近年は母乳内のラウリン酸含有率が減少している可能性も示唆されている。
 一方で一般的な粉ミルクも乳製品やパーム油由来の中鎖脂肪酸を脂質の主成分として、ラウリン酸の含有量が少ないものが多い。
 これら微量栄養素の欠乏は明確にアレルギー性疾患の罹患リスクを高めると思われる。



 …大体こんな所だろうか。詳細は追って詰めて行く。
 腸内細菌叢のディスバイオシスに起因する栄養不良(新型栄養失調)」が核に有る疾患のため「栄養療法(免疫栄養療法)」が特効薬の如く良く効く訳だが、残念ながら保険適用外となっている。
 正しく使用しても長引けばデメリットが強烈な対症療法に過ぎない「ステロイド薬」が保険適用とされ、適正使用ならメリットしか存在せずそのまま完治させられる根本治療である「栄養療法」が保険適用外であるのは完全に誤った判断だと言える。遠からず是正される事を願う。

 またアトピー性皮膚炎重症者においては特にカンジダ症(慢性カンジダ腸炎)の治療は必須であり、軽症であっても腸内細菌叢のディスバイオシスの改善は心懸ける必要がある。

 因みにアルギニンは外用しても効果があるらしい。偶にみるアルギニン・亜鉛配合クリームも治療に効果的かも知れない。

 …サプリメントによる治療を突き詰める程に、ボディビルダー界隈の知識に偶に助けられるのは何とも面白い。HSP療法の記事でも触れたが分子栄養学はアスリートとも縁の深い領域であるとつくづく実感させられる。

 …栄養療法(免疫栄養療法)は免疫抑制よりも免疫調整や活性を旨とする、将に本ノートの趣旨に沿う治療法であった。


追記:


 アルギニン研究で有名なカリフォルニア大学所属イグナロ博士はノーベル賞受賞者である。血管内皮でアルギニンから産生されるNOが血管拡張に寄与していることを発見した業績によるものだそうだが、やはりアルギニンは循環系を健全に維持するために必須の栄養素であるという事なのだろう。
 他の疾患の機序解明にも結び付く辺り、やはり良い研究である。


 シトルリンについては上部リンクを参考に。下部リンクの研究結果も興味深い。


 治療とは関係無いが人種毎の大まかな差として、「アジア系>アフリカ系>白人」の順にアトピー性皮膚炎に罹りやすい。性別では女性の方が男性より罹患し易い。
基準としては表皮の丈夫さ、胃腸等消化器や内臓機能の強さ、表皮でのビタミンD合成・活性化能力等。

 また抗生物質の不適正使用により腸内細菌叢のディスバイオシスを新生児・乳児に生じさせるという事を継続的に繰り返せば、母子間での悪化した腸内細菌叢の引き継ぎとその更なる増悪により当然に世代を経るごとに胃腸障害を抱える患者は増え、アレルギー患者の割合を増やしていく事にもなりかねないだろう。
 これは父親よりも母親のアレルギー罹患の有無の方が患児のアレルギー罹患との相関が強い事、また一方で父母共に罹患歴が無くとも児童は罹患し得る上、父母どちらかに罹患歴が有れば患児の重症率が上がる事(これも母親の罹患との相関がより強い)とも矛盾しない。

 アトピー性皮膚炎を単純に遺伝性疾患と仮定すると、優性遺伝並の発症率でありつつ、父母に罹患者が居らずとも1割以上の発症率を持ち、かつ母親の罹患と強い相関があるという異常な遺伝性疾患となる(それよりも特定の薬剤という環境因子による先天性疾患、あるいは後天性疾患と理解する方が自然である)。

参考までに下部リンクの様な調査研究もある。

 下部リンクはアトピー性皮膚炎の全般的な詳細についての参考に(アトピーマニュアル)。


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