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【短歌】見た目ほど強いわけではない

題:サボテン

「サボテンは人間の言葉を理解する。」
という話を聞いた人は多いのではないでしょうか。よく言われているのが、優しい言葉をかけ続けたらトゲが全部抜けたとか、「かわいい花を咲かせてね」と言い続けたら花が咲いたとか。

オカルトやスピリチュアルな話になりがちですが、自然界において、まだ人間が認知できないことがあってもおかしくないと私は思います。

さて、30年前。
高校生だった私は、あのトゲトゲして人を拒絶するような姿のサボテンが一番人語を理解するなんて、ロマンティックすぎて、事の真偽はさておき、大変お気に入りのエピソードとして誰かに伝えたい衝動にかられました。

ちょうど友人の誕生日が近いこともあり、小さなサボテンをプレゼントしました。もちろん、先ほどの話を少々自慢げに添えて。

「超」がつくほど成績優秀だった友人は、大抵の私の話を鼻であしらう素振りを常に見せていましたが、この時は「へー。」と感嘆し、なんだかんだとまた賢そうなことを言いながら素直にサボテンを受け取ってくれました。

友人に向けた私の虚栄心とささやかな自尊心は満たされ、何ならそのためだけにプレゼントとして選ばれたサボテンのその後を私が気にかけることはありませんでしたし、2人の間で話題に上がることもありませんでした。

数か月後。友人のお母さんが「あの子、サボテンを毎日、日の当たるところに置いてね。水もやってるの。サボテンなのにね。」と笑いながら教えてくれました。

東大に進学することをみんなから期待され、同時に疎まれ、自分の能力が露見するのを恐れて先生までも彼から距離を取るような、そんな扱いを受けていた友人は、「まあ、つらいよ。」と時折言っていました。

そこに青年ならではの自負心や自己陶酔・自己憐憫・自意識過剰はあったでしょうが、なんとなく周りと違う、居心地の悪さを感じていたことも事実です。

そんな彼が、サボテンを毎日世話していてくれている姿を想像すると、今でもすこし心がチクリとするのです。

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